第一部 乳幼児期 『1歳編』
1歳 1
雪が解けた。
まだ、少し残ってはいるが、それでも大分温かい日が増えたように感じる今日この頃。
俺はとうとう、立てるようになった!
喫茶店の中、両手を広げ、プルプル震えながらもしっかりと立ち、ドやる俺を一生懸命誉める親や子どもたち。
奥でサティスが歩き回っていたが、別に悔しくなんかないんだからな・・・。
あともうちょっとで歩けそうなんだけどなぁ。
唐突にブリランテに抱えられた。
今日は喫茶店に母親たちが大集合している。
俺とサティスに限っては父までいる。
一体どうしたというのだ。
仕事は休みなのか?
サボってるんじゃないだろうな?
俺は椅子に座らされながらそんなことを考えていた。
隣の椅子にサティスが座らされた
心なしか、ちょっとフリフリした可愛い服に身を包んでいる気がする。
俺も新しい服であるためか落ち着かない。
一体なんだというのだ!
「サティス フェリス おめでとう!」
全員から突然の祝いの言葉。
同時、奥の厨房から初老の男性が真っ白な何かを持ってきた。
あれは、ケーキ?
ドンッと目の前のテーブルに大きなケーキが置かれた。
あれよあれよという間に、たくさんのプレゼントが周りに置かれていく。
あぁ、もしかして誕生日か・・・?
皆の話す簡単な言葉とケーキ、大量のプレゼント、それらを繋ぎ合わせて何とか今自分が誕生日を祝われている事を悟る。
そうか、転生してもう1年が経つのか。
早い物だな。
隣のサティスが立ち上がる。
「こらっ!立たない!」
セドロがサティスを叱る。
それでもお構いなしに椅子から出て行こうとする。
落ち着きない子だなぁ・・・。
手を伸ばす先は自身の父。
サティスの父親が近寄って抱きかかえる。
抱きかかえられてご満悦である。
サティスは、ぱぱっこなのだ。
この1年見てきたが、父の事が大好きなのが伝わってきて微笑ましい。
サティスの父さんもとても嬉しいだろう。
愛娘に愛されて嫌な気持ちになる父親なんて、いたとしても限りなく少数派だ。
ま、それはそれとして、俺は言葉を紡ぐ為に口を一生懸命動かす。
「あぁと」
ありがとうと言ったつもりだ。
「きゃーー! お礼 言った 凄いーーー!」
「すごい やつ 俺 子ども!!」
ブリランテと父が喜んだ。
伝わったらしい。
良かった。
○
今日は、ブリランテが当番の日らしい。
あのお誕生会から数日が経っていた。
今日は、俺とサティス、カリマにビエントとアイレの5人の子どもがいる。
デスペハードは母親の手伝いをしているらしい。
濃紺の丸っこい少年、名を『ジュビア』と言う。
彼も同じく親の手伝い。
フードの子、名は『ベンディスカ』と言う。
彼、あるいは彼女もまた家の手伝いだ。
ここに来ている子どもたちは毎日利用しているわけではない。
家で手伝いを必要としない時や、誰かの誕生日などで集まるときくらいしか来ない。
そのため、今日の子どもは5人。
ブリランテは『喫茶店』の中で椅子に座り、本を開いた。
この世界にはどうやら小説が存在するらしい。
ブリランテが当番の日は読み聞かせをしてくれる。
最初こそ、言葉が全く分からなくて眠くなってしまったが、少しずつ分かってくると面白い。
正直、生まれて間もない子どもに小説は早いだろうと思ったが、絵本が無いらしい。
物語の世界は小説でしか触れられないのだ。
もったいない。
漫画や絵本があったっていいじゃないか・・・。
今度、漫画を描いてみるのも良いかもしれないな。
前の世界でも書きたかったが、結局かけず終いだったし。
と、まぁ、絵本のようなものが無いため、ブリランテは読み聞かせの際に小説を用いる。
難しいところを端折って、毎回10分ほどを3回前後に分けてだ。
本日1回目の朗読会だ。
窓から入る日を受けながら優しく微笑み、やわらかい声で話すその姿はさながら聖母である。
「さて、今日 『ジュビア』 の 活躍 から だった わね」
大分言葉が分かるようになってきたため、言ってることはほとんど把握できている。
話すとなるとまだ口が動かなかったが・・・。
さて、『ジュビア』といったな。
彼女は、この国に存在していたらしい『勇者パーティー』の一員であった女性だ。
ブリランテは読み聞かせの際、必ず同じ本を読む。
『勇者伝説』
これがブリランテの朗読する小説のタイトルである。
これを週に2回ほど読み聞かせてくれるため、この世界の事や、言葉を学ぶために大いに役立ってくれた。
まぁ、俺たちが理解しやすいように端折って話すため、世界の事はぼんやりとしか理解していないが。
さて、『ジュビア』だが、彼女はかつて『勇者フェリス』とともに『魔王』を封印したすごい人だ。
『勇者フェリス』。
俺や父と同じ名前である。
まぁ、小説の登場人物から名前をとるなんて言うのはよくある事だ。
あの、丸っこい少年の名前だって、この『ジュビア』から取られている。
「彼女 は 初めて の 負けを 知る ました」
『ジュビア』は、『勇者パーティー』で戦い、幾たびの負けを経験し、『最強』となる。
やがて、『無敵』となり、『勇者』と共に『魔王』に打ち勝つのだ。
そんな話。
「そして、彼女 は 『無敵』 と 呼ばれる なった」
本が閉じられる。
カリマはソシエゴと共にサティスと一緒に遊んでいた。
ビエントとアイレは俺の隣で真剣に聞き入っている。
サティスは落ち着いて座っていることが苦手らしく、すぐにどこかへ行ってしまう。
慣れたものなので誰も気にしないが。
ブリランテは本を椅子に置いて立ち上がり、コーヒーを飲みにカウンターへ向かっていった。
俺はハイハイで椅子に近づいて、つかまり立ちする。
小説を手に取る。
思っていたより大きくてバランスを崩して尻もちをつく。
が、本は無事に手元。
中を開いてみる。
びっしりと並べられた青い文字。
しかしよく見ると、前世の世界のアルファベットと大して変わらない。
これに気づいたのは数日前。
これに気付いてからは単語がさらに聞き取りやすくなったのだ。
それに生まれて間もないからか、頭がものすごく働く。
どんどん言葉を吸収できるのだ。
弾けろシナプス!!
と、変なテンションで覚えたのが功をなしたのか、文字と単語もいくつか分かるようになって来たのだ。
ただ気になったのは全ての文字が青い点。
この世界では青色が主流なのだろうか?
「あ ごめん ね」
ブリランテが謝りながら俺から本を取り返した。
どうやら大切な物らしく、ゆっくりと触らせてはもらえないのだ。
歩けるようになったらゆっくり見せてもらおう。
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