0歳 5

 あんなことがあったのに翌日には普通の一日に戻っていた。

 気づけばさらに数か月が過ぎたのだろう、雪が積もっていた。

 この世界にも四季が存在するらしく、夏は暑く、冬は寒い。

 雨だって降るし、雷だって鳴る。

 気持ちのいい天候の日があれば、寒さに震える日もある。

 今日も雪らしい。

 綺麗にかかれた雪道。

 ブリランテに抱えられてその道を通り、喫茶店兼託児所兼酒場に来ていた。

 ソシエゴに預けられ、何人か集まってきた頃に空き地に出た。

 マフラーや帽子などの防寒着でもこもこにされている。

 今日はセドロが担当だ。

 空き地での『雪遊び』である。

 朱色の髪の女性『ブエン』。

 彼女も今日は一緒にいてくれるらしく、雪で剣を作っていた。

 いや、器用にも程があるだろ。

 しっかりとした剣なのだ。

 雪を手に取って、両手で握りこんで、こねこね。

 最後に力を込めて、あら不思議。


 15センチほどの剣が出てきます。


 ・・・って、そうはならんやろ。

 器用っていうか、なんだ?

 あれも、『魔術』の類なのだろうか?

 その剣を受け取った、最近歩くようになったサティスが雪の中で立ちながら、嬉しそうに振り回していた。

 「さすが 私の 子 だ!」

 セドロは満足そうである。

 自身の娘も楽しそうに剣を振っているのだ、嬉しいのだろう。

 「あ! やった! この~!」

 奥から声が聞こえた。

 子どもたちの声だった。

 見やると、暖かな服装に身を包んだ楽しそうな子どもたちがいた。

 ダークブラウンの髪を一本結びにした高校生くらいの少女、『ソシエゴ』。

 先ほどの声は、彼女が叫んだのだ。

 どうやら雪玉を投げられたらしい。

 朱色の髪の快活な少年、『デスペハード』。

 彼に投げられたのだろう、雪玉を投げ返していた。

 「私 も!」

 こげ茶色のセミロングの髪の少女、『カリマ』。

 彼女もソシエゴに便乗して雪玉を結構本気で投げる。

 「ずるい!」

 デスペハードは焦った様子で顔をかばう。

 しかし、見事クリーンヒット。

 5回ほど、連続で雪玉を受けて倒れこんだ。

 「大丈夫 かい?」

 彼に手を伸ばす空色のサラサラヘアーの美少年、『ベンタロン』。

 最近、眼鏡をかけ始めた。

 父から譲ってもらったのか、同じ物をかけている。

 「ベンタロン! あぶない!」

 そんな美少年の元に飛んでいく雪玉。

 桃色の髪のツインテールが特徴的な少女、『ブリッサ』。

 彼女の叫び虚しく、側頭部にクリーンヒット。

 「うがっ!」

 「ベンタロン!」

 頭を押さえるベンタロンの元に、不安そうな顔で駆け寄るブリッサ。

 「たのし そう」

 「ぼくたちも やる」

 そんな2人に駆け寄る少年2人。


 黄緑のマッシュルームヘアー。

 双子なのか同じ顔。

 幼稚園高学年か、小学校低学年くらいの小さな二人は息の合った動きを見せる。

 片方が雪玉を作って、片方が投げる。

 それが、ソシエゴとカリマに向かって、クリーンヒット。

 2人がやり返し、雪合戦が本格的に始まった。


 さて、あの双子だが、名を『ビエント』と『アイレ』という。


 先日のイノシシの一件で、筋肉質な黄緑の髪の男の両肩に乗っていた双子だ。

 なんでもあの男はこの村にある『雑貨屋』の店主だったらしく、先日ブリランテに抱えられて訪れた際、あの男がこじんまりとした店舗の小さなカウンターに座っていて、その姿がシュールだったのを覚えている。

 そんな『雑貨屋』の2人息子。

 双子の彼らは近くに兄となるらしい。

 あの男の奥さんである、ダークブラウンの長髪美人が身ごもったらしく、出産に向けて安静にするために双子をここに預けることになったという事だ。

 遠くないうちに、その子もここに来ることになるだろう。

 早くも先輩になってしまうな!


 なんて浮かれていた。


 「あぶっ!?」


 顔面に食らう冷たい痛み。

 コロンと後ろに倒れる。

 「フェリス!」

 声が聞こえた。

 駆け寄ってきたのはセドロ。

 痛い。

 鼻が痛い。

 たらっと血が出てきたらしい、鉄の匂いがした。

 不快感。

 あ、まずい。 


 「びえぇええええ!」


 勝手に泣き始めてしまった。


 ○


 「頼む!」


 セドロに抱えられてきたのは、この村の中で一番大きな建物。

 その一室。

 ベッドが一つと、書類の沢山乗った机。

 前世でいう所の病院の診察室みたいなところだ。

 そんな一室の中で俺はセドロに両わき腹をつかまれ、足がプランと自由になる形で、目の前の椅子に座る緑の髪と長い髭をもつおじいさんに突き出されていた。

 鼻血は出っぱなしだ。

 「ふぉっふぉっふぉ」

 うわ、すげぇ笑い方。

 「大丈夫 まかせて おけ」

 微笑みながら俺に手をかざす。


 「『治療魔術』『治癒』」


 分からないのにはっきり分かる、あの不思議な言葉。

 それを呟くと同時、かざされた手から緑の淡い光が放たれる。

 それは俺の鼻を包む。

 痛みが引いていく。

 血も止まる。

 一瞬で痛みも出血もなくなった。


 ・・・すごい。

 すごいすごいすごい!


 魔法だ!!


 俺はまた年甲斐もなくワクワクした。

 見る事はあったが、受けることはなかった。

 すごいぞ!

 これが魔法!

 感動だ!

 「これで よし。気をつける んだ」

 おじいさんがセドロに言った。

 「・・・ごめん」

 「よい」

 「ありがとう」

 「うむ」

 少しだけ言葉を交わして、部屋を後にした。

 なんでも、あの雪玉はセドロが投げたものらしい。

 デスペハードに向けて投げた雪玉だったが、デスペハードがカリマの雪玉によって先に倒され、たまたま雪玉をよける形になった。

 そのまま、まっすぐ俺に飛んでいき、クリーンヒットしたというわけだ。

 俺を抱きかかえてしょんぼりしているセドロ。

 少し意外である。

 こういうことはあまり気にしないのかと思っていたが・・・。

 しおらしい彼女も魅力的ではあるが、気にしすぎな感じがして心配だ。

 優しく、責任感が強いのかもしれないな。

 思いつめて病んでしまわないか本当に心配だ。

 俺は本当に大丈夫だぜ?

 笑ってやるが申し訳なさそうに笑いかけられるのみ。

 伝えられないもどかしさ。

 建物を出たところで、ブリランテが迎えに来た。

 「大丈夫?」

 ブリランテが俺とセドロを見て聞いてきた。

 俺は大丈夫だぜ!

 と手を振って答えてやる。

 「・・・ごめん。フェリス に 怪我 させる した」

 俺をブリランテに手渡ししながら謝るセドロ。

 眉をハの字にして泣きそうである。

 「ううん。大丈夫 この子 『治療』 してもらった でしょ?」

 頷いて、そのまま俯いてしまうセドロ。

 「だから 大丈夫。私 心配 あなた」

 ブリランテの言葉に顔を上げる。

 「ふふっ。また でてる 悪い ところ。 気に しない 大丈夫」

 俺を抱えながらセドロに手招きする。

 セドロはそれに招かれるまま、ふらふらと体を倒しながら寄ってきた。

 ぎゅっ。

 ブリランテが俺を左手で抱えつつ、空いた右腕でセドロを抱きしめた。

 身長差があるため、背伸びしながらセドロの首に手をまわして優しく自身の首元に寄せる形である。

 「大丈夫 いつも 言ってる 失敗 考えない 反省 して 次 気を付ける それで 良い って」

 優しく言いながら頭を撫でるブリランテ。

 「・・・ん」

 小さく頷くセドロ。

 「あなた 優しい 過ぎる」

 言われて少しだけ表情が和んだ。

 「・・・ありがとう」

 「もう 大丈夫?」

 「・・・あと 少し」

 ぎゅっと抱き着くセドロ。

 しょうがないとばかりに微笑んでそれを受け止めるブリランテ。

 しばらくそうした後離れて、セドロが照れくさそうにしていた。

 2人の仲の良い様子に心が強く打たれる。



 尊い。



 前世の俺の趣味は漫画全般であり、好きなジャンルは多岐にわたる。

 基本的に読んでいたのは少年漫画だったが、個人的に外せないものがあった。

 それは、百合である。

 カップリングの色々な関係性を考える事が大好物だった。

 もちろん、百合だけではないが関係性に思いを巡らせるあの時間は大好きだった。

 同性である意味。

 同性ならではの葛藤。

 同性でしか味わえない幸福。

 考察のしがい。

 百合ならではのあの空気感を愛していたのだ。

 俺にとって百合は、日々の嫌なことを少しだけ忘れさせてくれる救いの1つだった。

 ・・・まぁ、最後の方は見る気力も体力もなくて全然読めなくなってしまったが。


 それでも、やはり、こういうのに弱い。


 本当の親だったら正直反応に困ったものだが、この世界の母は別だ。

 顔の良い美女2人、仲の良い姿。

 うーん眼福。

 この先、この2人の関係性に思いを巡らせるのも良いかもしれない。

 もちろん、ナマモノであるから取り扱いには注意だが。

 並んで笑い合いながら歩く母2人の姿に色々と考えを巡らせながらサティスを迎えに向かうのだった。

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