リミッド・スペラシオン
@Esin
プロローグ
『くそ・・・・ここまでか』
身体中のあちこちに傷があり、もう戦う体力も残っていない一人の男が地に伏していた。ここで何があったのか、大きなクレーターが男のすぐ近くに空いていた。
月光に照らされる一つの影が男に近づいていた。そしてその影は何か発言した。
「まぁ、俺を呼ぶだけのことはあったんじゃないか」
微かに男の耳にはそう聞こえた。
男はその人影に対して少し笑みを浮かべえてこう言った。
「俺は英雄にはなれなかったらしい」
男は絶望していた。もう自分ではどうにもならない状況。絶望的な戦力差。覆すだけの力もスキルも持ってはいない。出しうるだけの最大限の力を持ってしても敵わなかった。
だが男は諦めなかった。
真っ暗闇の中、男の瞳には一縷の希望が差し込んでいた。
次の瞬間男の体から、スキル発現特有の光が漏れ出していた。
男の目に映る一縷の希望の光が明度を上げて太く、暗黒を明瞭に照らす大きな光へと変わっていた。そして男は小さな声で今まで過ごした時間、鍛錬に費やした時間、戦ってきた時間、その全部をこの一言に集約させた。
『リミッド・サクリファイス』
自分が昔読んだ英雄の話、小さな英雄になれなくていいと。だがいつかこの世界を、男が愛したものを守る真の英雄に。数多の絶望を乗り越え、世は弱き物を助け、強き物を砕くそんな英雄に男の希望全てを預けた。
(その過程では数多く苦しみ、もがき、決断を迫られるだろうがその全てを乗り越えることのできるそんな英雄に自分ではない誰かがなればいい。いつか迫りくる災難を乗り越えることのできるそんな英雄に託す俺の全てを・・・)
言う直前には今まで経験してきたたくさんの物たちとの楽しい日々を思い出した。そこであることが頭から離れなかった。
10年もたった今でもその顔を覚えている。その当時はようやく簡単な言葉を話すことができるようになった子供のことである。男はそう強くは考えていなかったがその子供に、預けたいと思った。自分の全てを。
男が『リミッド・サクリファイス』唱えた後。先程の体から漏れ出た光よりも眩しい光があたりを照らし出していた。
その朝ある女性が自分の息子を学校のため起こしてテーブルに座って朝食を食べた。決まっていつも見る朝のニュース番組をつけ見ていた。
どうやら近くの区で工場の跡地が何者かによって破壊されたらしい。周囲には大きく争った後が残っていて、犯人を捜索中のことらしい。
女性はあることを考えた。そして自分の息子の顔をじっくりと見ると、息子の片方の瞳に昨日までは無かった文様が微かに浮かび上がっていた。
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