第7話

 次の日、私は学校を休んだ。母も姉もこういうときは何も言わないでいてくれる。それから、長十郎には簡潔に連絡をしておいた。


『今日は休むので、お弁当はありません』

『了解。気にしないで、ゆっくり休んで』

『しかし、なんと、今回に限り~?』

『え?』

『用意周到な私が代わりを手配しておいたので、昼はいつもの場所に行ってください。間違っても学食のパンなんか買わないように』

『どういうこと?』

『行けば分かる。私を信じろ』

『分かんないけど、分かった』


 なぜ私は桃瀬のアシストをこんなに丁寧にやっているのだろう。

 いや、違う。私がアシストしてるのは桃瀬じゃない。長十郎の方だ。

 私はあの男の幸せのためにこうして泣いてやっているんだ。平気なフリして文章上でふざけてあげているのだ。だってあんなにイイやつ、他にいないから。

 そう考えないと、やってられなかった。

 

 そして、私は次の日とその次の日も休んだ。

 こんなに学校を休んだのは初めてだった。

 そして金曜日の朝、出席日数にはまだ余裕があるけれど、余裕がある内に学校に行けと母に言われたので、渋々ながら学校に行くことにした。

 長十郎に連絡はしていない。心配のメッセージは届いていたけど、適当なスタンプで濁しておいた。朝は長十郎のバイトの都合で時間も合わないし、向こうは今日も私が休むと思っていることだろう。

 教室は離れているので、会おうと思わなければ会うことはない。


「あ、やば」


 無意識に昼の弁当を二人分完成させたところで我に返る。習慣とは恐ろしい。姉は大学が休みなので昼過ぎまで寝ていることだろう。押しつけてもいいが、あまり詮索されるようなことは避けたい。


「まあ、両方食べればいっか」


 私は成長期なのでたくさん食べるのだ。二人前の量ぐらい、体重のことさえ気にしなければぺろりと平らげてしまうことができる。

 問題は食べる場所だが、まあ適当に裏庭辺りに行けば人も少ないはずだ。


「……………」


 ぼっち飯を思う。私は友達が少ないので、長十郎とが駄目になった際に一緒にご飯を食べる相手がいない。仲の良い子はそれなりにいるが、その子たちは当然ながら私とは違うグループに所属しているので、人見知りの私としては混ざりに行く勇気がない。

 もしや、長十郎を失った私ってかなり可哀想な人間じゃあ――


「……これもわびさびってやつだね」


 今日のところは、美しき日本語で誤魔化していこうと思う。

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