きれいに
桃園ユキチ
きれいに
風船の糸を巻かれて青空へ引き上げられる左の手首
始まりも終わりもしない変声期ときどき鳥が窓辺にとまる
友だちは遠くへ行った花びらにふれるみたいに選ぶ絵はがき
ヘアピンで髪を固めて私達みんな同じ顔を目指した
臆病な神に代わって啓蟄の靴のかかとを鳴らして歩いた
忙しく動く人ほど輪郭が溶けて光に近づいていく
天国に床があるならタイル張り汚れた水が流れて落ちる
石鹸できれいになった太腿がストッキングに浸潤される
右が開き次は左が開く電車 人を嫌いになりそうになる
髪の毛に残ったにおいターミナル駅への道に足跡多し
ああ今も家にあるんだ押入の袋の中のピアノ教本
人々が触れたケースを拭き上げる機会を狙う美術館員
「Yちゃんによく似ている」と内側に綿の詰まった何かを貰う
生まれつき小さな鰐を飼っていて今も聴こえが悪い右耳
雨音と店の音楽混ざり合うたぶん大事な話をされた
結末はめでたしめでたし罅のある卵は早く食べちゃわないと
罪悪感少々胡椒と塩少々 豚の脂はこんなに甘い
掃除したあとに掃除機掃除するどう生きたって汚れてしまう
私から解き放たれて水に乗り大海原へかえる細胞
水を飲む水を飲んだら内臓がきれいになるってほんとうですか
きれいに 桃園ユキチ @yukichi_bungei
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