臆病なカノジョはやりたい放題
棺あいこ
臆病なカノジョはやりたい放題
1 姉の友達
今日は久しぶりに姉の家に行く日。
大学生になって一人暮らしを始めたのはいいことだけど、なぜ俺が姉の荷物を片付けないといけないんだろう。というわけで、朝からぶつぶつ言いながら電車に乗っていた。姉の家はうちからそんなに遠くないけど、電車でおよそ十五分くらいかかるからこの距離……意外と遠く感じられる。
あくまで俺の基準だ。
俺の名前は
今……お母さんが作ったおかずをたくさん持って、姉の家に着いた。
面倒臭い。
……
「来たぞ!
「はいはい〜」
ガチャ……。
でも、ドアを開けてくれたのは美波じゃなかった。
なぜ……、青柳さんがここにいるんだろう?
「あ! 千春くんだぁ! 久しぶりだね!」
「あ、青柳さん? どうしてここに?」
「ああ。美波、引っ越してきたばかりだからね。手伝いにきたよ、ふふっ」
「は、はい……。そうですか」
俺に笑ってくれるこの人は美波の友達、
高校生の頃、しょっちゅううちに遊びに来た人だ。でも、あの時とイメージが全然違ってびっくりした。高校生の頃には茶髪のギャルだった気がするけど……、二十歳になった今は清楚な女になっている。
さらに可愛くなった。
まあ、俺はこっちの青柳さんも好きだからいいけど、何があったんだろう……。
そして、美波は高校生の頃とあまり変わってないな……。
「なんだよ、千春。ジロジロ見ないで早く入ってよ」
「分かったよ」
「入ってね〜」
俺の好きな黒髪ロング、長いまつ毛、大きい瞳、そして整った鼻。
いつ見ても、すごく可愛い。青柳さんはすべてが完璧な人だった。
俺はそんな彼女が好きだったけど、あいにくあの時は好きな人がいて俺の気持ちを伝えることはできなかった。でも、青柳さんに好きな人がいないのがむしろおかしいと思う。めっちゃ可愛かったからさ。そして、まさか……こんなところでまた会えるとは……。すごい偶然だな。
今更だけど、青柳さんは俺の初恋の人だった。
あはは……。
もう諦めたけどな……。
「えへへっ、千春くんだ〜!」
「…………なんか、今日テンションが高いですね? 青柳さん」
「そう? えへへっ」
「ちょっとこっち手伝って、千春」
「う、うん」
腕を引っ張る美波が、さりげなく俺を自分の部屋に連れて行った。
そして、何気なく壁ドンをする。
「なんだ? 俺……、変なことでも聞いたのか? 美波?」
「いいか? 小春は昨日失恋して、今テンションが上がってるから……。絶対、恋バナはしちゃダメだよ。分かった?」
「わ、分かった」
いや、普通失恋したらテンション下がるんじゃ……? なんで、逆なんだ?
ドアを少し開けて居間にいる青柳さんを見たけど、全然分からない。
「美波、あれが本当に失恋した人なのか?」
「うん……。残念ながら」
「…………」
一応、荷物を片付けるのが先だったから青柳さんのことは後で考えることにした。
てか、美波……荷物多すぎる。
……
「これで……、ひと段落!」
「ひと段落か……」
「どうした? 千春」
「いや……、今夜の九時だぞ。美波」
「姉のために来てくれたんでしょ? それくらい犠牲しないと……。立派な男になれないよ? 千春」
「重いのは俺が全部運んだんだろ! しかも、家具……。家具…………が……」
言葉が出てこなかった。
机とか本棚とか椅子とか食卓とか……、組み立て式の家具はもう嫌だぁ…………。
「えへへっ、千春くんはめっちゃ頑張ったからね! ご褒美あげるから! はい! 私の胸に飛び込んでいいよ」
両腕を広げる青柳さんに、俺はちらっと美波の方を見た。
頭を横に振る美波、俺はこくりこくりと頷いた。
このまま青柳さんに抱きしめられたら、変なスイッチが入るかもしれない。てか、こんなに可愛い人が失恋だなんて……、相手の顔が見たいな。俺なら絶対青柳さんのことを捨てたりしない。
という妄想をしていた。
「来ないの……?」
「汗かいてますから……」
「ひん……。あっ、そうだ。千春くん、今日は泊まっていくよね?」
「ああ、俺もそうしたかったんですけど……。さすがに女子二人がいる家に男が泊まるのはちょっと……」
「うん? 私は平気だよ? 千春くん」
「千春のこと誰も気にしないから今日はうちに泊まっていけ」
「それ……ちょっと傷つくけど? 美波」
「うるさいから早くお風呂に入れ!」
「はいはい……」
そして、あっという間に寝る時間になってしまった。
今日はゲームも全然できなかったし、新刊の漫画も読めなかったし。明日の午前まで早く終わらせないと、そのまま週末が終わってしまいそうで心配していた。でも、久しぶりに青柳さんと出会って、少しは楽しかったかもしれない。あの頃の俺は青柳さんが来るのをずっと待っていたからさ。
美波と一緒に帰ってくるのを…………。なんか、懐かしい。
……
深夜の一時。
「…………トイレ」
早く寝るつもりだったけど、やっぱり俺の部屋じゃないからすぐ寝れないな。
そして、部屋を出た時、俺は居間で布団を被っている何かに気づく。
「…………」
ノートパソコン……、映画でも観てるのか?
しかも、こんな時間にビール……? お母さんが見たら絶対怒るよな。これ。
てか、大学生なのにこんな時間に缶ビールを……? 仕方がなく俺がお母さんの代わりに一言を言ってあげようとした。
「美波! こんな時間にビール飲むなよぉ…………」
そして、被っていた布団を退かしたら、その中にいる青柳さんが俺を見ていた。
両手に缶ビールを持って、涙を流しながら洋画を観ていたのか。
なんだろう、この状況は……。それに……美波じゃなかったんだ。本能が「やばい!」と叫んでいたけど、青柳さんと目が合ってしまった俺はその場で何もできなかった。
やらかしたな、俺。
「うっ……。千春くん……。千春くん…………」
「ど、どうしましたか? 青柳さん? なんで、こんな時間にビールを……」
「私のこと、ぎゅっとしてぇ……。千春くん」
「えっ? 嫌ですけど……」
さりげなく、断った。
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