第21話 悪役令嬢ハナちゃんの授業風景。ある意味授業参観。

 幼い妹をこぢんまりとした教室に置いてきてしまったお兄様は、天井に立派な宗教画が広がるすり鉢状の大きな講義室で、学園長室から無理やりもぎとってきた怪しげな機械を眺めていた。


 片手で持てる本よりもやや大きなそれに、さきほど目にしたばかりの教室の様子が、はっきりと映っている。


『まずは教科書を開きなさい』


『お兄にゃーん、お兄にゃーん』


 幼い声を超え、まさに猫そのものといった鳴き声に耳をすませ、眉間にぐ、と皺を寄せる。

 あの教師と妹の相性がいいとは思えない。

『開きなさい』といいながら開いてやっているのは悪くはないが。


「おい、紫苑シオン。それはハナか?」


「ああ。お前は見るな」


 クールなお兄様はカナデの問いにクールに答えた。

 幼い妹の授業風景を見守るのは家族だけでいい。


『教科書の上に寝てはいけない。こちらの猫用クッションを使いなさい』

   

『お兄にゃーん、お兄にゃーん』


 バリバリ……――、バリッ――、バリバリッ――。


「気になるんだが」


「耳をふさげ。ついでにあっちへ行け」


 悪役令嬢の婚約者(仮)と悪役令嬢のクールなお兄様が小声でどうでもいいやりとりをしているあいだに、画面の向こうで問題が起こる。


『にゃーん、にゃーん!』


『引っかかっているな……。この問題はどう解くべきか……。『猫用』という謳い文句はなんだったのだ。猫に優しくないのであれば、この商品は誰のために存在するものなのか――』


『お兄にゃーん! おにぃにあぁーん!』



「なんだ? ハナの鳴き方がおかしい。おい、俺にも見せろ」

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