第16話 悪役令嬢ハナちゃん十五歳。学園長室に肉球を踏み入れる。
「ただの刺客だ、お前が心配するような生き物じゃない」
直接被害を受けたのは、運悪く風下にいた
彼は、まるで猫を婚約者にしてしまった人間のような態度で、婚約者(仮)が放った『フシャー!!』へ静かに答えた。
『猫の気持ちが分かる本』から得たあれこれによると、猫と接するときはゆったりとひそやかに話すのがいいらしい。
そして彼女のクールな兄から無理やり聞かされたあれこれによると、難しい言葉と意地悪な言葉、冷たい言葉、望まぬ答え、それらのすべてを封じ、幼子と接するように深き愛をもち、幼い妹の聞きたい言葉だけをすみやかに答えよ、というのが『彼の幼い妹と接する者の心得』らしい。
こいつとは一度しっかりと話し合いをしたほうがいいだろう。
「こちらでも『ハンカチのような物体』の一部を調査している。犯人の取り調べは学園側が行うだろう」
「お兄にゃーん……」
クールなお兄様はそう言って、綺麗に巻いた髪が少々乱れ、目つきも悪くなった妹ハナちゃん十五歳を宥めるようになでた。
あとでもう一度巻いてやらねば、と。
◇
学園内のセキュリティ映像をチェックしていた彼らは驚愕した。
可愛い猫ちゃんがあばれるほどの香水が付いた、刺繡入り、氏名入り、住所入りの怪しいハンカチを、やんごとなき身分の方々がお通りになる場所で、背後から貴人に投げつけるなど、とんでもないことだと。
――有り体にいうと『お偉いさんのお子さんになんてことを! この馬鹿!』というやつである。『俺たちの勤務時間中に問題を起こすんじゃねぇ! 馬鹿馬鹿!』というやつでもある。
そうしてあちこちから警備、ボディーガード、SP、マスクで顔を隠した者、顔の怖い執事といった者達が学園校舎入り口付近に集まり、座ったまま変顔をキメていた犯人をいっせいに取り囲むと、一応ここの生徒らしい犯人を、丁寧に連行した。
「え? な、なんですか……? 嫌……! 歩けます……! 自分で歩けますから! 神輿に乗せるのはやめて下さい……!」
だが悪役令嬢ハナちゃんも無罪放免とはいかなかった。
『千代鶴家の猫ちゃんのご機嫌はいかがですか?』と呼び出されてしまったのだ。
こうして、悪役令嬢ハナちゃん十五歳、現在大分ごきげんが傾いている猫ちゃんは、当然のように、クールなお兄様と婚約者(仮)のカナデ様に付き添われ、行き来が面倒な学園長室へ「にゃーん」と到着したのである。
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