第4話 お兄様のルームの一角で進められる儀式の準備
打たれ弱いにもほどがある悪役令嬢ちゃんは、厳しい態度で一言叱られただけで、猫のような瞳をうるうるさせた。
説教か注意かという些細な違いは、彼女の瞳を乾かす要因にはならない。
いつもより厳しいというだけで、美しいたまご豆腐よりも繊細な彼女のハートに傷が付き、まるでなつかない野良猫のごとく、そういう態度を示した人間の周囲に、数日間よりつかなくなるのである。
説教をされたいかと問われ、問いの中に説教という文言が入っていたことにより、説教をされていないにもかかわらず深く傷付いた悪役令嬢ハナちゃんは、お引越しを延期し、孤独に耐え、ひとまず悪鬼よりも恐ろしいヒロインの襲撃に備えることにした。
数年前、おままごと用であるショッキングピンクの包丁を片手に、邸宅内のパトロールをしていたときに発見した、いかにも凄そうな秘密兵器をつかって。
◇
それは表紙に〈猫でもできる! はじめての悪魔召喚術〉と書かれた本だった。
猫でもできる。ならば、悪役令嬢ハナちゃん十四歳にもできる。そのはずである。
彼女は初めて自分の意思で、本を開いた。
少しの文字と、魔法陣の見本が描かれているだけの、簡単な本を。
読書という苦役に耐え、召喚に必要なものを用意する。
イケニエ。処女の生き血、グラス一杯分。宝石。魔力。
読めない漢字に負けず、家のあちこちをウロウロして色々と物色した彼女は、両親の部屋の鍵に負け、パパの仕事部屋からアレを持ち出すと、イケニエと女の血を求め、数十分前から疎遠になっている兄の部屋へとたどりついた。
果物の盛り合わせが入っていたと思しき籠の中に入れていた召喚用のアレコレを、大人っぽい雰囲気のお兄様の部屋にはあるが幼児っぽい雰囲気のハナちゃんのお部屋にはないバーカウンターの裏で、ガサガサガサガサと取り出す。
「ハナ、お菓子を開けるならこっちに来なさい」
そうして、クールな声に耳を塞ぎ、人のお部屋の冷蔵庫を勝手に開けてしまうこれぞまさに悪役令嬢といった悪事に手をそめつつ、彼女は着々と、恐ろし気な儀式の準備を整えていったのである。
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