なんちゃって払い屋な彼は前世で妖怪の王でした。

@kaku10

第1話妖怪の王、やられました

今は平安時代。人も妖も入り乱れた混沌の時代。


人々は自分達を襲ってくる妖怪に恐れおののき、妖怪達は楽しそうに人を襲うとんでもない時代だ。


「妖め!滅!!」


「ぎゃぁぁ!!」


だが人間もやられているだけではない。

1部の力のある人間はそのエネルギーを使って不思議な能力を引き出し、妖達を退治していった。


後に”陰陽師”として語り継がれ絶大な人気を誇る事にもなるが。


そんな陰陽師や妖達も一線を引き恐れる存在が在る。


ー妖怪の王。鬼王きおうだ。

名を鬼桜きおうと言うそう。


誰が認めたわけでもない。成り立てたわけでもない。


純粋な強さだけで頂点に登りつめてしまった彼はいつしかその名の語尾を”王”に変えられ、人も妖も近寄らない存在になっていた。


「暇じゃぁ…強いやつもおらん。わしが強すぎて誰も近寄らん。退屈じゃぁ…」


はぁ〜ぁ。と深いため息を出して自分の家の窓から見下ろすのは華やかな都街。


これだけの人間、妖怪がいても誰も敵わない。


キセルを咥えながら口で上下にブンブンと振って暇を潰すが、ものの数秒で飽きてしまった。


「だぁぁぁぁれかおらんのかぁ??わしに挑むやつ…。あぁまぁ、挑まんでも話しかけてくるような度胸あるやつぁ…おらんなぁ。」


自己解決してまたため息を吐く。


窓から街を見るのをやめ、ドサ!と畳の上に仰向けになった鬼桜はボーッと天井を見た。


机と布団以外に何も無い部屋。


買いに行っても自分を見た瞬間に悲鳴あげられて逃げられるからまともに物も買えやしない。


外から聞こえるワイワイとした声に自然と眉が寄ってしまった。


「ったく。わしゃぁ何もしとらんじゃろが。顔見て悲鳴なんぞ失礼じゃ。」


けっ。と悪態ついてまたボーッとして。


これから何百年とこうなのか?と少し不安にかられて。


そうこうしているうちに夜になった。


ードタドタドタ!!


「あ?なんじゃぁ…」


少し肌寒さを感じるような時間。


自分の家の廊下がなにやら騒がしいことに気づいて寝転がりながら廊下の方を向く。


この家には強力な結界が張ってあって陰陽師も妖も容易には立ち入れないはずだ。


もし立ち入れるならば…


「久々の実力者か!?」


うはっ♡と体を起こして胡座をかき、今か今かとその引き戸が開くのを待つ。


わくわくのテカテカの顔で少し待てばスパァァン!!と元気よく引き戸が開けられた。


「や、やっとたどり着いた!!鬼めっ、滅してくれよう!!」


「…女ぁ??」


引き戸の障子に映った影に来た!と期待を寄せれば現れたのは艶やかな黒い長髪の女。


その姿を見た瞬間、ガックシ!と項垂れた。


「貴様、妖の王である鬼王であろう!!」


「わしゃぁ…ついとらん…長年待ち続けた実力者が女ぁ??はぁ…しかもこんな胸もケツもないようなガキンチョ…」


「!?!なっ、なにをっ!?この変態鬼めっ!!今すぐ滅する!!」


「ってぇ言ってもなぁ…おじょーちゃん、悪い事言わんから帰れ。わしゃぁ簡単には殺れんぞ。」


シッシッと手を振ってゴロンと寝そべり背中を向ける。


そんな鬼桜の態度に顔を真っ赤にして怒った女は容赦なく全身全霊をかけて滅術を放ち、鬼に仕掛けた。


「オンコロコロリソワカオンコロコロリソワカー。鬼よ、我が名の元に膝まづきその首を捧げよ。」


ーギュン!!グィィン!!「ぐお!?なんじゃこりゃ!?体が勝手にっ」


「これは妖怪の王である貴方を倒すため私が編み出した術。私への反動もありますが目標は達成される。」


なにがなにやら?と考えているうちに勝手に正座をさせられ頭を垂れてしまった鬼桜。


まるで打首にされる罪人のような姿勢にこれはマズイと冷や汗が出てくる。


「待たんかい女!!実力あるならわしとっ」


「問答無用。私が自分の名前を言えば貴方は終わりなの。観念なさいクソエロ鬼」


「胸ないって言ったの僻んどるだけじゃろ!?」


「ふん。あの世で後悔しろ。ー我が名は”藤鳴桃菜ふじなり ももな”この名の元に今、妖の王鬼王の首を跳ねる。」


「ちょぉっ!!まちっ!!」


ふんっがぁぁ!!!と意気込んで渾身の力で顔を上げてみた女の目や口からは血が溢れ出ている。


この女、命懸けで挑みに来たのかと軽くあしらった事を後悔した。


「お前はもう生まれ変わることは無い。さようなら。」


「んな!?そこまでするんか!?女ッ」


ブン!!と刀が自分の首に落ちてくる音が伝わってくる。


必死に伸ばした手はやっとこさ何かを掴んだが、それはとても柔らかく大きかった。


ームンズ。


ーバスン!!


ゴロゴロ…と重い何かが転がる音と真っ赤に吹き出る生暖かい液体。


薄れゆく意識の中、最期に聞いたのは苦しそうに倒れ込む女の”クタバレこのクソドエロバカ鬼!!”と言う罵声だった。


「(クタバレって…女が言うセリフか?意外と大きかったなぁ…。てかわし、死ぬじゃろ…)」




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