「第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部」

@Mashimizu_Izumi

などかく眩し

紙屑の如き人生引き摺りて面接へ行く清掃員の


制服のワンピースより忍び来し冷たき風の非正規の春


十二部屋四時間半で清掃す手首をつつく秒針痛し


客室の食べ残し捨つ一心に空腹に身を蝕まれつつ


うまい棒付きのチラシを街頭で貰ひて埋むる帰路の胃袋


青竹を踏みつつ鈍き疲労取る世は格差にて吾を踏みつつ


朝礼の前の数分歌壇読む水切り用の古新聞で


幾重にも結べど鼻腔刺すオムツ外に汚るる梔子の花


まぐはひの香の残りたるシーツ替ふ窓は黒南風独り身の空


マックさへ高級品の憂き身なり来世の夢か恋結婚は


幾年も母養ひて余力なし世の若者はなどかく眩し


リネン屋の納めしシーツ広ぐれば金木犀の香に彩らる


ふかふかのベッド作りて今宵また十ミリほどの布団へ潜る


痔の客の落ちぬ汚れに錯乱すマクベス夫人思ひ出しつつ


隣り合ふビルより漏るる声楽に清掃の憂さ束の間忘る


出発の客へ挨拶したれども声なきままに虫螻見る目


水仕事またあかぎれて流血す無血の傷も年中絶えず


三が日餅の一つも買はぬなり鉛の四肢を宥め働く


他人事とワーキングプア習ひし日吾が身のこととつゆ思はざる


冬の虹帰宅の空へ出現す貧富隔てず等しく立てり

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