たとえ見えずとも

空野 晴

第1話 大きな壁

 『僕は生まれたときから目が不自由でよく物にぶつかったり、転んだりして泣いていた。


生まれつきから目が見えなかった僕は近所では『悪魔の子』『人外』『怪物』と言われていた。


この世界ではなにか欠陥があって生まれると差別の対象にされる。そんなくそみたいな世界だ


 僕の親は優しかった。こんな僕のことでも面倒よく見て大事に育ててくれた。


僕は5歳になってからというものあまり外に出ていない。僕が差別されて精神病になることを恐れて両親が決めたのだ。


当時の僕にはあまり良くわからなかったが、僕も嫌なことを言われるのは嫌だったので納得した。


その頃からだろうか、魔法を学び始めた。最初はなにもできずにいたが、なんとか1ヶ月程度で初級魔法を身につけることができた。


初級魔法といったって、手のひらの上で野球ボール位の大きさの水や炎を出せるくらいで誰でもできる。


 それからというもの魔法が身についたときの感覚が気持ちよくて魔法を学ぶことが好きになった。


毎日食べて魔法を学び、少し運動をして寝る。その繰り返しだった。


僕が魔法に没頭してから約一年、中級魔法が身に付いた。


その時はものすごく嬉しかった。母や父に自慢したことをよく覚えている。


中級魔法というものは大体の一般人が使う基礎魔法だ。攻撃力も初級と比べれば全然違うし、スピードも違う。


もしかしたらただ周りの子になにかで勝ちたいと思っていたのではないかと思う。


生まれ持った障害を理由に家からあまり出ない僕が唯一勝てるもの。


それは魔法しかなかった。だから人一倍頑張って魔法を習得しようとしたのではないかと今では思う。


 毎日毎日同じことの繰り返しで楽しいものもいつしかはつまらなくなっていった。


そうして僕は同じことを繰り返すつまらない毎日を過ごしているとあっという間に時間は過ぎていった。


気づけば今、僕は17歳になっていた。暇があれば魔法を復習していた僕は中級魔法から名級魔法まで使えるようになっていた。


魔法の位順は【初級→中級→上級→名級→王級→神話級】となっている。


名級になれる人の数はたったの7%らしく、僕は魔法に没頭しすぎた。


王級になれる人は1%にも満たないという。本当にすごい人たちが行く極地なんだ。


 そんなこんなで17という年齢で親に迷惑をかける理由にも行かなかったので、一人旅を始めることにした。


僕は目こそ見えないが、魔法でなんとか物体の線のようなものが見えるようになった。


たとえで言えば線画状態の絵みたいなものだ。


それで目の問題はなくなったのだけれども、人々が僕のことをどう思うのかが心配だ。


この十数年間周りの人の目を気にして外に出れなかったのにいきなり出たらどんな反応をされるのかがわからないから怖いけど、でも僕もずっと家にいるわけにも行かないから覚悟を決めるしかない。


 覚悟を決めて僕は外に出た。思っていたよりも反応はなく、ただ無視されるだけだった。


あまりいい気分ではないがなにか言われて傷つくよりはマシだ。


そういえばなんだけど、僕が外に出た理由を言っていなかったね。


僕は17歳になっていたのと、魔法がそこそこに使えるので冒険者になってお金を稼ごうと思ったんだ。


外の世界をあまり知らない僕には難しいことかもしれないけどなんとか頑張ろうとしたんだ。


「おい、そこの。どこ行くんだい?」


おじいさん?なのか。


「えっと、僕は冒険者になりたくて。でもなり方を知らなくて…」


「そうなのかい。なら私も時間があるし街に向かう途中で教えてあげよう。」


そういってそのおじいさんは僕を牛車に乗せてくれた。


 「お前さんはなぜ冒険者になりたいと思ったんだ?」


おじいさんはこちらを見ず、僕の目のことも聞かないままにそう聞いてきた。


「今まで僕は親に迷惑をたくさんかけてきたので冒険者になって恩返しをしたいんです」


ありのままのことを伝えると、


「そうかい。いい子を持った親もいたもんだね。でもな少年、現実はそんなに甘くないぞ」


「…といいますと?」


「もし誰かが危ない状況になったとき、自分ならこういうふうに動けるのになと考えるだろうが実際にそういう場面に出くわすとなにもできなくなるんだよ。自分が思うよりも現実は虚しくて厳しいんだ」


そうおじいさんは言い、こちらを向き腹を見せてきた。


その腹には深い傷跡があり、とても痛々しい。


「この傷はな昔私が冒険者のときに負った傷なんだ。この傷は仲間を守ろうとしたときに負ったんだが結局守れなかったんだ。今でもあの時を思い出すと胸が苦しくなるよ」


「…そうなんですね」


僕は冒険者のことをあまりにも楽観視していた。ただお金を稼げればいいやなんて考えていたけど、冒険者は命をかけて戦う職業なんだと思い知らされた。


「でも、それでも僕は冒険者になりたいです」


でも僕は冒険者になることを決意したのだからそう簡単に諦めるわけには行かない


「…そうかい。それもまた”運命”なんだね」


おじいさんがそう言ったと同時くらいに街についたらしい


「短い間でしたがありがとうございました。」


「いいんだよ。私も君といれて楽しかったよ。ありがとうね」


そういっておじいさんは牛車に乗って去っていった


 ここはランゲルス街


この大陸の中でもトップ5に入るくらい大きい街だ…まあ、あまり見えないけど


この街では歩いていればいろいろなところからいい匂いや接客の掛け声が聞こえてくる


僕がいた田舎ではないことだ。


僕はこの街のことを大きい以外知らないのでどうしようか迷う。


そういえばあのおじいさん冒険者ギルドの場所言ってたな。確か…街の門から大体500m位にあるとかなんとか言ってたな


まあゆっくり探すか。


…僕は初めての街と久しぶりの外に興奮していた。だからだろうか少し間食を食べすぎた。


ワッフルやパフェ、わたがし?というものまで食べてしまった。


本当にどれも美味しく、満喫してしまった。


 気がつけばたった500m位のギルドに行くにも2時間かかってしまった。


美味しいものをもっと知りたいが今はまず登録しないとな。


僕は無事ついたギルドのドアを押し、中に入る


そこには明らかに細い外見の人やゴリゴリの人もいた。


雰囲気は悪くないけど街で少し見た居酒屋みたいにうるさい。


僕は受付に向かって歩き、申請を申し出た。


「あの新規登録をお願いしたいんですけど」


「はい、新規登録ですね少々お待ちください」


そういうと受付嬢は裏に行った。


奥の方で「見たあの人」だの「やばいよねw」などの声が聞こえる


「お待たせしました。こちらにお名前と希望の職種をお書きください」


名前は『レイゼ・アレフューナ』で希望の職種は『ウィザード』っと


「これでお願いします」


「かしこまりました。お名前が『レイゼ・アレフューナ』様で希望職種が『ウィザード』で間違いないですか?」


「はい」


「ではこちらをどうぞ」


そう言って渡されたのがこの冒険者カード


「カードについて説明しますね。このカードは冒険者の皆様の階級を示すのと同時に冒険者であることを示すものでございます。そしてこの階級順というものは下から『E<D<C<B<A』となっております。最初は全員『E』ランクからはじまります。間違えないように注意してくださいね」


と嫌味を混じらせたような説明は終わり、早速依頼を受けようとするが


「すみません。魔法系と遠隔系の新規登録様方はこちらにお集まりくださーい」


なぜか呼ばれてしまった


「では集まってもらった意味をお伝えしますね。魔法系と遠隔系の職種には試験がございます。その試験を突破してもらえればちゃんとした依頼を受けることができます。例えば護衛任務やチームを組んでの討伐などです。誰かとなにか依頼を受ける際にはこの試験を突破してもらわないとできません。なのでその試験を受けてもらうためにお集まりいただきました。」


なるほどな。無駄死にはしてほしくないと。まあ面倒くさいがやるしかないか


 さっきの話の後『私についてきてください』と言われてそこにいた受験者たちで今審査員?らしい人について行っている。


「着きました。ここです」


ここは闘技場だろうか。だだっ広いな


「ここでは一対一の対戦を行ってもらいます。相手はあそこの試験官です」


その方向を見ると40代くらいの男の人が立っていた


「彼に攻撃を当てられたら合格ですが、魔法の操作や遠隔操作をちゃんとしないと当たりませんよ」


なんだそんなことかと思った。が、油断こそ命取りになるので集中してやることにする


「では前の人から一人ずつ順番にこの中に入ってください」


僕は前から大体6番目くらい。まだ時間はありそうだ。時間があるのでなにを当てようか悩む


どうせならでかいの一発出して終わらせたいが迷惑にもなるだろうしやめておこう。


なら速いのを当てようかな。…と試験官になにを当てようか考えていたら次が僕の番になった。


「次、レイゼさんどうぞ」


呼ばれた僕は門をくぐると奥の方に人が立っていた。多分あれがさっき説明していた人だろうな。


「私に魔法を当ててみなさい。どんな魔法でも構いません!」


と大きな声で言う。ならお言葉に甘えて


「『レイゼ・アレフューナ』行きます!」


僕はそう言ってありったけの魔力を込めたこぶし大くらいの青色になった炎を試験官に向ける。


周りの温度は急激に上がり、近くにあった壁の色が変色し始める。


「だああああ!」


僕はその魔法を放つと同時に叫んだ。


その魔法の名前は『最永炎さいえんしょう』といい火球がだいぶレベルアップしたもので、炎を最大まで高火力にし、10000℃以上にして更にそれを小さくして何回でも打てるようにしたものである。


通常の大きさで放ってしまうと広範囲の爆発と多くの魔力を使ってしまうので小さく改良されたものだ。


そしてなにより速い。術者から放たれた瞬間、1mを時速36000km/hでその炎は飛ぶ。


今回の場合は、大体この闘技場が150×150くらいで、僕と試験官は端と端にいる。


今回は即席なので風速はいれないから試験官に『最永炎』が当たるのはだいたい…0.015秒くらいだな。


なのでこんな事考えているうちに当たるわけだ。


「あああああああ!ああああああ!!!あああああああああ!」


『最永炎』が当たった試験官は上半身の左側から左足の付け根まで体が消えており、もがき苦しんでいた。


思っていた以上に火力が強く、ここまでとはと僕も思った。


「すみません、威力がこんなに強いと思わなくて。じゃあ治しますね」


僕は試験官に状態異常解除とヒールを重ね合わせたものを張り、なんとか元の状態に戻した。


「合格ですか?」


僕がそう尋ねると「合格だからもう俺の目の前に現れるな!」と怒鳴られてしまった。


冒険者カードに刻印を押してもらい、なんとか無事終えることができた。


こうして僕の初めての知らない土地での一日目は終わった。


 翌朝、目を覚ましてご飯を食べて依頼を受けに行く。


今日は初めての依頼をこなすので緊張しているが、頑張ってやっていこうと思う。


 「えーと、【薬草採取】の依頼はあなたであっていますか?」


「はい。確かに私が依頼をお願いしました。」


初めての依頼は【薬草採取】である。


まだ『E』ランクは【薬草採取】か【スライム討伐】しか受けれないそうだ。


なので比較的安全で勉強になる【薬草採取】にした。


依頼内容は【ハンダマ20枚、サクナ10枚、フーチバー10枚の採取】だ


依頼者曰く薬草サラダを作りたいが魔物がいるので採りに行けないとのこと


魔物いるんかいと思ったがなんとかなるだろうと油断しないように採りに行く。


「まずは【ハンダマ20枚】からだなそこら辺にあるらしんだけど…これか


ざっと30枚くらいあるな。【ハンダマ20枚】は大丈夫っと


次は【サクナ10枚】ね。えっと丸い感じの葉はどこだ?


…あったあった。じゃあ最後の【フーチバー10枚】だな確かよもぎの葉らしいからすぐ見つけられるな。


お、あったあった。」


と何事もなく薬草採取を終えることができた。


 「依頼無事終わりました。確認お願いします」


僕はそう言って薬草が入っている袋3つを依頼者に渡す


「ありがとうございます。じゃあこれが報酬でサインも…はいできました」


「ありがとうございました。それじゃ」


後はこのサインが書いてある依頼書をギルドに出せば依頼完全完了になる


「ちょっと待って!」


依頼者に呼び止められる。どうしたんだ?


「私のお礼はまだ終わっていないわ」


「お礼?報酬ならもうもらいましたけど…」


「まあそう言わずに入りなさい」


僕は依頼者の家に上がらせてもらった。


依頼者は僕をリビングの椅子に座らせるとダイニングからティーポットとカップを持ってきた。


「紅茶でいいわよね?」


「はい、大丈夫です」


カップに紅茶が注がれる。


「今回の薬草採りありがとうね」


「いえいえ、依頼だったのでただこなしただけですよ」


「それでもありがたいものはありがたいのよ」


依頼者は紅茶を淹れたカップを僕の方とその反対側に置いた。


依頼者は僕の前に座り、話し始める。


「私はね、あなたのように左半身が痺れて動かしづらい障害を持っているの」


依頼者はそう語りだした。依頼者の話す内容はこれまでのこと。特に障害を持ってからの話だ。


依頼者の名前は『アリサ・レテロネッゾ』と言い、元貴族の家庭生まれだったらしい


彼女は今年で24になるらしく、僕とは7歳違いになる。


紅茶を飲みながら話す彼女は綺麗でよく親に読んでもらった童話のお姫様のようだった。


それに反して話の内容はとても猟奇的なものだった。


 「あれは3年前のこと、私は仲間とパーティーを組んで冒険者をしていたの。毎日冒険に出て楽しいことも辛いこともあった。でもある日、私達は入ってはいけない領域に足を踏み込んでしまったの。


そこは霧で周りが見えなくて右も左も前も後ろも上下でさえわからなくなってしまったの。パーティーのメンバーの一人がそれに耐えきれずにどこかに走っていってしまってからが始まりだった…」


彼女は話を続ける


「一人いなくなってからというものなぜか霧が濃くなったの。見えても1mくらいしか見えなかった。メンバーとは手を繋いで歩いてたんだけれどもなぜかどんどん減っていったの。なぜだと思う?」


彼女はそう僕に聞いてきた


「…難しいですね、なにかに襲われたとかですか?」


「惜しいわ、正解は罠があったの。落とし穴や倒木の準備がされていたの。なんで気づけなかったのかは、霧のせいね。濃すぎる霧のせいで周りが見えず、そういう簡単な罠に引っかかったのよ。メンバーの死体を見たときは膝から崩れ落ちてしまったわ」


死体は串刺しになっていたり、潰されて目が飛び出ていたりしたらしい。


「でもアリサさんは無事に帰ってきてるじゃないですか」


「そうね。私だけ生き残ったわ。他の全員は…」


…そうなのか。なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったな。


「私の左半身はね、その罠を少し食らってしまったせいで動かないの」


「アリサさんの引っかかった罠ってなんですか?」


「毒矢よ。ギリギリで避けたつもりなんだけど少し当たってしまって左半身が今でも痺れているの」


毒矢…一体誰がなんのためにそんなものを…


「だからあなたみたいな人でも頑張れるのを見て励まされたの」


「そうなんですね」


「ええ。困ったときはお互い様だからいつでもまた来ていいわよ」


「はい、ありがとうございます」


なんとか笑顔を出すことができたがあのおじいさんが言っていた通りこの世界は僕が思っている以上に厳しい世界らしい。僕も今を生きていられていることに感謝しよう。


 「今日は本当にありがとうね。時間こんなにかかっちゃってごめんなさいね。」


「いえいえ、お話が聞けてよかったです。また来ますね」


あの話が終わった後、カップを片して少し談笑した。


普通ならもっといい人生を送れる人なのに冒険は人を狂わすんだなと感じた。


僕は彼女に笑顔で手を振り、ギルドに向かって歩き出した。

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たとえ見えずとも 空野 晴 @sirokamirei1208

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