灯り
執行 太樹
仕事の帰りに、私が最寄り駅に降り立ったとき、すでに友人が2人待っていた。
2人に会うのは、久しぶりだった。たしか、1年振りだろう。俺たちも、今さっき着いたところだから。そう言った会話をしながら、私達は簡単な近況を話し合った。
駅の近くに新しく、後輩の子がやっている居酒屋ができたんだ、そこで飲もう。そう友人は言った。私は、わかったと応えた。
駅前の商店街を少し路地に入ったところに、その居酒屋はあった。薄暗い通りにポツンと見えるオレンジ色の豆電球の灯りが、私たちをやさしく招いていた。
店に入ると、いらっしゃい、と威勢のある声が聞こえてきた。8年振りぐらいだろうか、そこには見た目もすっかり大人になった後輩がいた。
やぁ、ご無沙汰。私たちがそう言うと、お久しぶりです、どうぞ中へ、と後輩は明るく店の中へ案内してくれた。
店の中は、賑わっていた。私たちは、店の一番奥にある、4人掛けのテーブルに腰を下ろした。若い女の子が注文を聞きに来たので、友人の1人がビールを3つ頼んだ。
友人達とは中学生以来の仲で、もうかれこれ20年以上の付き合いになる。みんなそれぞれ家族を持った、40歳手前のおじさんになっていた。お互いに忙しく、1年間は会っていなかった。しかし、この1年という期間も、20年という歳月の前では、一瞬に等しいと言ってよいほど、私たちの関係を取り戻すには無意味だった。
話の中心は、近況報告だった。仕事がどうの、家族がどうのと、私たち3人は代る代る、近況を話した。みんな、それぞれ大人になった。そして、今を精一杯頑生きていた。
お酒も進み、気分が良くなってきた。話は中学生の時の思い出話になった。私たちが集まって話をすると、決まって中学の頃の話になる。色々とバカなことをやった。あの頃の話は、いつ聞いても面白かった。もしかしたら心のどこかで、あの頃のように、何もかもが楽しかった時に戻りたいと思っているのかも知れない。
思い出話が一通り落ち着いたとき、1人の友人がつぶやいた。
そう言えば、もう、1年も経ったんだな。
・・・そうだな、私はそう応えた。あれから1年か。もう、そんなに経つのか。早いな。
ちょうど1年前のことだった。それは、真夏の暑い日だった。仲の良かった友人が、亡くなった。家族のために働きすぎた末のことだった。
働き盛りだった。毎日毎日、妻のために、そして子どものために働いた。働いて働いて、必死に働いた。それがたたってしまった。日に日に疲れが溜まってしまっていたのだろう、無理をしていたのだろう。その友人は自宅で倒れてしまい、そのまま亡くなってしまったという。
突然のことだった。私たちは、急なことに驚いた。信じられなかった。彼の人生は、これからだったのに・・・。私たちは、うちひしがれた。私たち3人は、お通夜に参列し、その後に共に飲んだ。
今日はその友人の、ちょうど一周忌だった。もしまだ彼が生きていたら、なんてことを今でも考える時がある。おそらく、これからも考えるだろう。
みんな、一生懸命生きているのだ。家族のために必死に働いている者。自分の夢に向かって、頑張っているもの。仕事に失敗し、途方に暮れているもの。夫婦で話し合った末に、離婚したもの。それぞれの人生に、それぞれの灯りがあるのだ。
これからも友人達とは、何かの折にこうやって集まるだろう。そして、近況を語り合ったり、昔話をしたりして、他愛もない話ばかりするだろう。おそらく私は、こんなふうにして、自分が生きていることを実感するのだろう。志半ばで亡くなった、友人のことを思いながら・・・。
それで良いのだ。
私たちは、無言で乾杯をした。私は、ぬるくなったビールに再び口をつけた。少し湿っぽくなった空気の中で、私は、中学生の頃によくしたギャグをした。
友人は、お前も変わらないなと言い、あははと笑った。
灯り 執行 太樹 @shigyo-taiki
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