ペダルを離す

楽譜を読むことが苦手という人が譜面台に置くカメラの雑誌

朝戸風　楽譜を持たない土曜日のハンドバッグのゆるい重力

白鍵と黒鍵のように片方が長くて多いチャットをとじる

川べりの駅への道に川べりを選んで靴を鳴らして歩く

改札をはさんで互いを見つければ手を振る感じで外すイヤホン

音大通りはラーメン通りでもあって獣は獣のにおいを好む

どの客も連弾の距離のカウンター　券売機横に楽器のケース

手を引かれ満腹で入るコンビニはあかるい水族館のくるしさ

この町の治安はいいがマンションの集合ポストの治安は悪い

本物の「大雷雨」も知っているという防音に長けた黒いカーテン

とうめいな頭蓋時おり震わせてウォーターサーバーの重いため息

楽譜を読むことが苦手という人が譜面台に置くカメラの雑誌

飾るための角度でカメラは並べられ写真はひとつも置かれておらず

どの過去も隠されている心地して壊せるものは息を潜めた

ペダルを離す音の残響濃い夜にいちだんと冷えてゆくつま先

暗闇で肌を寄せても水中で見つめあってるみたいに遠い

ピアノから少し離れたスツールに揃いのカップ　白湯だった水

好きな人ができたと好きな人は言い、読まない本を取って戻した

泣いた後の景色のようで雨後の窓トムソン椅子の向きを直して

抱きしめたい人に抱きしめられながら初めて聴いた楽章がある

音楽を教えてくれた人というよりもあなたが音楽だった