第50話 カフェの喧騒とアメリカ店舗のトラブル

「おはようございます。社長、今日、水川リーダーお休みです。風邪、引きましたって電話ありましたよ」

 

 出勤してすぐに木下美佳が報告してくれた。今、このカフェ『プードル』には風邪が流行っている。橋浦の高熱から始まったものだった。


「おはようございます。そうなんだ。わかりました。私が、水川のフォローに入ります。他に変わったことはなかったかな?」

「はい! 俺も風邪で休みたいです」

 岩崎潤は手をまっすぐにあげて、冗談を言う。みんな笑っていたが、橋浦だけは無言の対応だ。

「はいはい。岩崎くんの冗談はいいから。特になければ、今日も元気にやっていきましょう!」

「「「「はーい」」」」

 社員の橋浦隆吾とパートの佐々木有希菜、大学生バイトの岩崎潤と木下美佳は、夏楓に笑顔で返事をした。今日も激混みのカフェのオープンだった。レジの両替準備をしていた夏楓の元に橋浦が近づいた。


「社長、さっきアメリカからと思われる店舗から電話あったんですが……英語聞き取れなくて電話切っちゃいました。あとでかけ直してもらえますか?」

「え?! 嘘、そうなの。最近、連絡さっぱり無いなとは思ってたけど、大丈夫か心配だったんだよね。ありがとう。英語……難しいもんね。大丈夫、何とかしておくから」

「すいません、対応できず……他のスタッフも英語できないって言われて、なぜか佐々木さんは韓国語ならできるとか言われて……」

「韓国語行けるってすごいね。佐々木さん……。そっか、韓国進出も悪くないなぁ。おっと、開店時間になるね。橋浦くん、ここのレジ頼んでいい?」

「あ、はい。わかりました」


 ほうきを持って、掃除をしていた橋浦は、慌てて、夏楓の代わりを引き受けた。あれもしなくちゃ、これもしなくちゃといろんなことを考えている夏楓の様子を見て、橋浦は、リーダーの水川がいない今、社員でもあるため、サポートしなくてはという気持ちになった。


『Thank you for calling. This is Ian from Cafe ``Pomeranian.'' May I help you? (お電話頂きありがとうございます。カフェ「ポメラニアン」のイアンです。ご用件を伺います)』

『Hello, my name is Natsuha Omori. Thank you, Mary, the manager.(もしもし、大森夏楓です。マネージャーのメアリーさんお願いします)』


 夏楓は、カフェの固定電話からアメリカのカフェ『ポメラニアン』に国際電話をかけた。電話に出たのは最近入ったばかりのバイトのイアンだった。


「Is Natsu the president? ! We're finally connected! Why didn't you call me? No matter how many times I called, there was no response.(夏楓社長ですか? ! やっと繋がりました! なぜ私に電話してくれなかったのですか? 何度電話しても応答がありませんでした)」


 イアンがびっくりして興奮していた。夏楓は勢いに負けて、受話器を耳から外した。

「sorry. Unfortunately, the staff here wasn't good at English, so they couldn't answer the phone. So what about Mary? (ごめんなさいね。残念ながら、こっちのスタッフは英語が苦手で、電話に出ることができなかったのよ。それで、メアリーは?)」


「……」

 急にイアンは黙ったまま返事がない。


「hello?  Can you hear me, Ian?(もしもし? 聞こえてる、イアン?)」

「Mary hasn't come to the cafe ``Pomeranian''.(メアリーはカフェ『ポメラニアン』に来てないです)」

「Is that true? (それって本当?)」

「Mary has been absent from work for a week now.?(メアリーは一週間前から欠勤してます)」

 夏楓は、これは一大事だと驚きを隠せない。今は、電話で話しを聞いて本当か嘘かわからない。まだ出会って間もないイアンだが、誠実な人だった気がする。面接の時にホリが深く、鼻が高くて金髪で結構かっこよかったなぁと思い出す。今は、かっこよさは関係ない。ここは彼の言うことを信じることにした。とりあえず、メアリーの連絡先を調べようとしたが、今のスマホには登録してなかった。アメリカの店舗にファイリングしていた履歴書があった気がした。ほとんどのアメリカの店舗連絡は孝俊に任せていた。今更、家を出て行った孝俊に連絡するのも気恥ずかしい。カフェの事務所をあっちに行ったりこっちに行ったりした。夏楓はどうすればいいか悩む。今からアメリカの店舗に様子見に行くか、こっちはこれから開店でお客さんでいっぱいだ。どうするかと悩んでいると、橋浦がドアを開けて入って来た。


「社長、開店しましたけど……どうしたんすか?」

 

 ロッカーに名札を忘れていた橋浦が戻って来た。ぐるぐると回っている夏楓を見て、不思議に思う。


「私の体がもう一つあったら!!」

「いや、無理っすよ」

「そうだよね。わかってはいるけど……」

 目がうるうると涙でぬれる。橋浦は頭に疑問符が浮かべる。

(社長って仕事は大変なんだな……)

ふと橋浦は涙を流す夏楓の頭を撫でた。まさかの行動にハッとびっくりして後退する。


「あ、ごめんね。大丈夫だから!!」


 恥ずかしくなった夏楓は走ってトイレに逃げた。ものすごく恥ずかしくなる。社長

として情けない。この問題は自分で解決しなければと言い聞かせる。


 いつの間にか夏楓が手の中から消えた橋浦は手を何度も見返した。自分は一体何をしてしまったのかと後頭部をぼりぼりとかいてしゃがんだ。顔を真っ赤にさせていた。


 






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