第11話 未完のプレゼント

 空翔は、1人の時間が長くなり、乱雑に散らかり始めたリビングの整理整頓をしていると、いつも持ち歩く黒いリュックからリボン付きの黒いボックスがポロンと出てきた。中に入れていたことを忘れていた。活躍できずにずっと中に入っていたのだ。フラれる1週間前に買った男女兼用のブランド腕時計。スカイツリーのレストランであと3日で夏楓の誕生日だと知っていたから用意したが、すっかり忘れていた。男女兼用で保険をかけたことが失敗だったかもしれない。そうなるんじゃないと想像していたのが間違いだったが、自分の腕につける気さえも起きなかった。ふられたんだから、さぁつけるかなんて都合の良い自分にはなれない。何のために保険をかけながら買ったんだかわからない。そしたら、夏楓専用に買えばよかったのか。それはそれで、悲しみが倍増する。結局ふられるのに変なことを考える。そんな考えるほど、暇じゃない。いや、暇なんだ。何かに熱中できる趣味ってあったはずが手をつけられない。何が楽しかったんだっけ。



モヤモヤした気持ちを発散したくて孝俊に連絡を取ってみた。大学の入学以来全然取っていない。

社会人になってから初めてだった。かなり女々しいが、気になった。心が落ち着くんだと言い聞かせる。


『久しぶり、元気?』

『ああ、まあな』


 割と普通なメッセージのやり取りだ。手汗がかくくらい緊張した。


『今って、何してる?』

『悪い、バイト中なんだ。駅前近くのカフェで』


空翔は、何となく察してしまった。その場所は夏楓のバイト先だ。2人の出会いの場所はそこかと一瞬で判断する。


『今、フリーター。就活するの諦めてて。空翔は仕事してるんだろ? いいよなぁ、安定の正社員様は』


 孝俊はこちらから聞く間も無く、次々と聞いてくる。僕が社員だとは、一切伝えたことがないが、なぜか。言い方が僻みに聞こえてくる。

空翔には夏楓と孝俊が一緒にいるだけで妬ましく思うのに……。

 世の中、上手くいかないものだ。2人が一緒に住んでいるからってすべてうまくいってるわけじゃない。いろんな悩みを抱えている。それなのに、孝俊と夏楓は一緒に住んでないのにきっとうまく付き合っているんだ。空翔は嫉妬心が大きくなる。不甲斐ない。情けない。相手を追い求めれば求めるだけで離れていく。執着を捨てればいいってそもそも相手が思っていなかったらもう終わり。こちらがどう考えても変わりない。人の想いは計り知れないし目で見えるものじゃない。本当は、空翔は、夏楓のことなんて考えていなかったかもしれない。目で見えないし、致し方ない。真実はわからない。人間は不思議な生き物だ。好きなものを嫌いなものにしたいのに、さらに頭から離れられなくなる。嫌いなものほど、頭の中に大きくなる。さらに高校の同級生という演者が増えてしまい、忘れられない要素ができてしまう。この呪縛から抜け出したい。


『あ、悪い。隆之と勘違いした。空翔は、まだ聞いてなかったな』


すぐに訂正のメッセージが届いた。胸を撫で下ろす。


『僕は隆之と同じごく普通の会社員だよ。間違ってない』


隆之は同じ高校の同級生だった。そのメッセージを最後に会話は終わった。孝俊の近況を深く聞けなかった事を悔んだ。真実はどうかわからない。想像力で夏楓と交際してるじゃないかと思った。たまたまバイトが一緒だから会ってるだけ。付き合ってなんかない……。男女の友情って成立しないことがほとんどだ。

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