第2話 夏楓との出会いは大学3年の時

 夏楓との出会いは、大学3年の時に1年間だけ入っていたテニスサークルだった。ソフトテニスは中学時代に部活動で経験していたが、大学では硬式テニスだった。

どんなものか気になったのもあるが、運動不足だった体を鍛えようと入ったサークルだった。7月の途中入部で友人もいない中、1人で入部した。練習や試合以外はぽつんと孤独になってることが多かった。そんな休憩時間にベンチで声をかけてくれたのは当時大学1年の夏楓だった。男のくせになよっとしてるかなと心配になったが、全然そんなことはなく、すぐに意気投合した。


 好きな映画が一緒だったこと。アニメ映画だったが、その時大ヒットしていた新海誠監督の『君の名は』幻想的な背景と男女が入れ替わるファンタジー要素が妙に惹かれた。何度も一緒に見に行った。映画館だけじゃなく、一緒に空翔の家でまったりDVDを見たこともある。その時が、初めて夏楓と密着して、心から愛し合っていた。

 お互いに一緒に同じ方向見ていた気がした。

 あの時の気持ちは今でも胸の中にじんわりと残っている。でもその想いは一瞬だった。

 バイトのシフトが多くなったことと続けて、就職活動が重なって、テニスサークルも空翔は途中でやめてしまった。


◇◇◇ 


空翔たかや今日家にいるの?」


 朝起きて朝食を食べている時に聞かれた。

 夏楓なつははアイスティーを飲みながら言っていた。


「うん、特に用事ないけど、なんで?」

 

 空翔は相変わらず、ブラック珈琲を無理して飲んでいた。


「別に、ただ聞いてみただけ。私さ、今日、サークルの飲み会だから遅くなるの。先に寝てて」


「大学のテニスサークル? 僕がいたときのメンバーじゃない人でしょう」


「そう、後輩だもん。空翔は分からない人だよ」


 夏楓はバックを肩にかけて玄関に行く。

 空翔は眉根を寄せた。


 知らないメンバーに入る勇気はない。それにも増して、夏楓と夕食が別々なのは気にしないが穏やかではない。胸の辺りが何だかモヤモヤする。この気持ちはなんだろう。


「いいよ。行っておいでよ。僕は好きなもの食べてるから。ウーバーイーツでも頼もうかな」

「いいね。最近できたチキン南蛮のお店おすすめだよ」

「あ、ああ。見てみるよ」

「本当に先に寝てていいからね。明日も仕事で早いでしょ」

「……うん。わかったよ」


 複雑な表情を浮かべて、夏楓を見届ける。空翔はペットの犬みたいに眉毛をたれさせた。ご主人様が行ってしまうと素直に寂しがればいいのにそれができない。犬に生まれ変わりたい。

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