Twin soul 2  ―デウス・エクス・マキナ―

桜辺幸一

第1話 くだらない演劇

これは大昔に存在した、とある王国のお姫様のお話。


そのお姫様は女王様の二番目の娘としてこの世に生を受けました。


母である女王は何事にも厳格な性格ではありましたが、確かに国民たちへの――もちろん、娘達への愛もある人格者。姉は一国の姫と言うには少しばかりやんちゃが過ぎるも、その一方で誰よりも正義感のある皆から愛される人物でした。


彼女達の王国は一年のほとんどを雪に閉ざされ、決して豊かとは言えない土地ではありましたが、国民たちはそんな王族を愛し一致団結する、それはそれは素晴らしい国でありました。


そう、お姫様の周囲の人々も、国そのものも、その平穏に何一つ欠けているものは無かったのです。


そんな平穏に影が射したのは、まもなくお姫様が成人になろうかという時でした。


遠い遠い南の国から使者がやってきました。使者の姿はボロボロで、今にも倒れそうになりなりながら女王に謁見を求めました。


「南の国々が『悪魔』に襲われている。助けて欲しい。」


そしてその使者は、それだけを言い残してそのまま息を引き取ったのです。


初めそれを聞いた家臣達は使者の言葉を気にも留めませんでした。その時代、悪魔と呼ばれるモノが現れ、人々を襲うことは珍しいことではなかったからです。


けれど、女王だけは起きていることの重大さに気づいていました。


女王は先遣隊を南の国へと派遣しました。そして、先遣隊がただの一人も帰ってこないことが分かり、ようやく皆がその異常を知ることになりました。


『悪魔』の力は圧倒的でした。

魔法は効かない。

剣で斬っても無意味。

矢はその身に届く前に腐り落ちる。

近づいただけで命を奪われる。

それどころか、その姿を見ただけで絶命する。

それが通り過ぎた後は、動物はおろか植物の一つたりとも芽吹かない。


そんな、理不尽の塊のような存在。


その理不尽によって、南の国のみならず大陸中の国々が次々と滅ぼされていきました。


海辺の大国も。多くの戦士を抱えた要塞都市も。精霊にすら届きうる魔術を開発した魔法国家も。


ことごとくが抵抗することすらできずに鏖殺されていきました。


日に日に状況は悪化するばかり。それを見て、人一倍正義感のある姉は、『悪魔』を倒すと意気込んでお城を出ます。


女王も、国民もそんな彼女の行動を止めようとしました。もちろんお姫様だって、姉が危ないところに行くのは嫌だと、泣いて引き止めました。


それでも姉は止まりませんでした。「必ず帰ってくるから」とお姫様に約束して国を出ます。


そして。そして――


ああ、そして、本当に残念なことに。


姉は、やはり、帰ってきませんでした。


悲しみに暮れる国民たち。お城は静まり返り、お姫様は毎日を冷たい部屋で泣いて過ごします。


けれど、そうしている間も『悪魔』は王国に近づいてきます。


そしてついに、国境のすぐ近くまで『悪魔』はやってきました。


国の兵士たちが迎え撃ちますが、全く歯が立ちません。


足止めすることすらできずに『悪魔』はお城に近づいていきます。


兵士たちが、魔術師たちが、そしてなんの罪も無い国民たちが次々と倒れていきます。


もう駄目だ。この国も滅びるのだと、誰もが思いました。


お姫様も、もう神様に祈ることしかできませんでした。


……。


と、その時です。


空から眩い光が一閃!あまりの眩しさにお姫様は思わず目を閉じます!そして、おそるおそる目を開くと、そこにはなんと神様がいたのです!


神様は言いました!


「私があらゆる災禍、全ての恐怖を払ってやろう。」


そう言って神様が指をひとふりすると『悪魔』は天からの光に焼かれ、瞬く間に消滅しました!

『悪魔』によって死に絶えた人々は生き返り、氷に閉ざされていた国には春が訪れ、人々は歓喜しました!

亡くなったと思っていた姉も無事帰ってきて、女王とお姫様は泣いて喜びを分かち合いました!

全て、神様のおかげ!全ての悲しみは過去のものになったのです!


めでたしめでたし。


【終劇】


……。


………。


…………。


「えぇ……なんなのこのお話……。」


未だにざわつく劇場の中、呆れのため息と共に、ボクはそう呟いたのだった。



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