死神の乗るバス

月鮫優花

死神の乗るバス

 今日も私はバスに揺られ、大学に向かっている。ほぼ始発点に近いバス停から、都市部の終点まで50分。

 午前6:20、曇り空。



 最近、あの子がこない。あの子は私の乗るバス停の隣のバス停から乗ってきていた高校生だ。特に由縁があるわけではないのだけれど、一方的に気にしていた。ここら辺のバスはあまり数がないのだから、今来ていないと学校には間に合わないだろうのに。

 何かあったのかな。元気かな。



 私が席に座り、時間を潰すために呑気に本のページをめくる間、吊り革を掴んだ大人が眠たげな瞼を擦っていたり、あるいは諦めて閉じきったりしている。

 このバスは人間を乗せている分、人間の不幸を乗せているのだな、と思う。

 不幸だらけのバスの中で赤ん坊が泣いている。誰にも叱られずに。それが本当にいいことなのか、悪いことなのか、私は知らない。



 どこからか、音楽が聞こえる。イヤホンやヘッドホンから漏れたような音。ふと、周りに目をやる。


 そうして見えた窓の外には、母校の制服を着た中学生がいた。嫌な思い出が頭の中に蘇って、仕方がなくなる。


 いっそこのまま死んでしまいたいとすら思った。そう、バスがちょっと勢いをつけて傾けばいいだけでしょう?

 ああ、けど、そうなると、私以外の人も巻き込んでしまうのか。そうか。ならばさ……。

 老若男女、皆、死んでしまえ。


 そう考えているうちにバスは終点へついた。皆次々とバスを降りて行く。雲の隙間から陽が漏れていた。そうして今日も始まったのだ。

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