第9話 自己紹介【趣味は読書編】

 俺は、席を立つ。

 そして、自己紹介の時間が開始された。


「俺の名前は、谷岡たにおか幸樹こうきです。その……趣味は読書です」


 …………。


 そう。


 ――趣味は読書。


 オタクあるあるの常套句じょうとうくだ。※あくまで個人の意見です。


 実際に読んでいる小説の大半たいはんはライトノベルなのだが、大衆たいしゅうの前では読書が好きですと発言する。

 それにより、小説全般しょうせつぜんぱんれている文学少年ぶんがくしょうねんですよ、という叙述じょじゅつトリックが発動できる。※あくまで個人の意見です。

 知的ちてきな少年アピールは、出来できたはず。


「谷岡くん――」


 と、鎌野かまの先生が口を動かした。


「はい」

「私も本が好きなの。谷岡くんの好きな小説は、何なのかな?」

「そ、それは……」


 ああ……。

 ダルイ質問をされてしまった。


 俺は、ほとんどライトノベルしか読まないタイプだ。

 アガサ・クリスティとか、江戸川えどがわ乱歩らんぽとか、そういう偉大いだいな作家の小説は、読書好きを公言こうげんしているにも関わらず、一ページも読んだことがない。

 せっかくの文学少年アピールが、このままでは台無だいなしだ。それは、何としてでもふせがなければならない。


 ――は!


 純文学じゅんぶんがくっぽいタイトルの、ラノベの名前を口に出すしか無いな……!


 ――思い出すんだ、俺……っ。


 エ〇マンガ先生とか、青春ブ〇野郎はバニーガー〇先輩の夢を〇ない――みたいな、タイトルだけを聞くと勘違かんちがいされやすい小説ではなく。

 逆に題名だけを聞くと、岩〇いわ〇み文庫ぶんこあたりから刊行かんこうされていそうだな、と思われるような……そんなライトノベルを思い出すんだ……!


「あ……」

「あ……?」

安〇あ〇ちとしまむらが、好きです」


本音ほんね


「――谷岡くん」


 そう言った鎌野先生は、親指をグッと立てた。


同志どうしじゃないかっ!」

「同志……あ――」


 俺は、理解した。

 完全に、鎌野先生の趣味と合致がっちするライトノベルを選択していた……!


「あ〇しまは、全てのかん神巻かみかんなのよね!」

「そ、それは……」


 …………。

 俺は、返事を返した。


「めちゃくちゃ分かります!」


 その俺は、鎌野先生の同志であるイコールヤバいやつだと思われるのだった。


 自己紹介は、不発ふはつで終わった。


 そして、けい少女しょうじょの出番が回ってくる――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る