ヤマト転生。異世界転生で今度こそ夢のマイホーム!
八条院せつな
第1章 魔獣の森
第1話 想像してた異世界転生と違うんですけど!?
今、俺の目の前には世にも美しい女性が立っている。
………いや。
厳密にいうと浮いている。まるで重力など彼女には関係ないようにフワフワと浮いている。
「………。」
彼女の名前はオステリア。
美と武の女神オステリア。
初対面だ。
自分でそう名乗っていたから……。
「私は女神。美と武を司る神です。」ってね。
それを聞いて、俺は笑ってしまった。美しい容姿をしているから、どんなことを言うのかと思えば……。「私は女神。」だ。ちょっと頭のイタイ人なのかも知れない。
フワフワ浮いている現象から信じてしまいそうだが、俺は騙されないぞ。
こういったトリックは、ネットにある投稿動画で見たことがある。きっとトリックなのだろう。きっとそうだ。多分そうだ。絶対そうだ。
俺は改めて彼女の顔を見てみる。
(しかし、本当に綺麗な顔しているな。)
美しいを通り越して、神がかっている。
傾国の美女とは彼女のような人のことを言うのだろう。
(ほ、本当に女神様なのかな?)
ちょっと信じたくなってくる雰囲気はある。それくらい彼女は浮世離れしている。
明らかに日本人ではない。西洋……ヨーロッパのほうかな?そんな顔立ちだ。
年齢は、おそらく十代だろう。二十代ということはない。顔立ちから少し幼さを感じる。青くキラキラ光る腰まで届くロングヘアーは、この世のものとは思えない。一体どんな発色染めをしたんだよ。
スタイルも凄く良い。
身長は……目測だが、170cmくらいだろうか。八頭身で顔が小さく手足がスラリと長い。ちなみに腰は折れるかのように細いが、胸はかなり大きい。
広いひらひらした衣装は、まるで神話に出てくる女神が着ているかのような白い衣装だ。
俺は頭の中にある知識を呼び起こす。
(たしか、キトンとか言ったっけ?あの服)
古代ギリシア人が着ていた服で、ドレープが特徴的な服装だ。
女神を言うだけあって衣装も凝っている。海外の有名コスプレイヤーだったりするのかな?
しかし、キトンにしては胸元がぐっと開けてあって妙に露出度が高い。大きい胸はそこから溢れんばかりだ。
……分かってらっしゃる。
(す、すごい大きいな。)
俺は思わず、”それ”を凝視してしまっていた。
これはしようがない。男性なら視線がいってしまうのは仕方ないだろう。俺に罪はない。
「どこを見ているのですか?」
彼女から声を掛けられ、俺はビクッとする。
「あ、す、すみません。」
く……、謝ってしまったら俺が胸を見ていたことを認めるようなものじゃないか。アホか俺は。
なるべく焦った声を出さないように音量を調整しながら、俺は女神と目を合わせた。
「あ、あの~。ところで、ここはどこなんですか?俺は一体……。」
そうだ。俺はさっきまで深夜の繁華街に居たはずだ。鬼残業明けでフラフラしていたところ、暴走トラックに轢かれそうになった女の子を助かるために身代わりになったんだ。
身代わりにトラックに正面衝突……。
そして……、俺はさっき死んだはずなんだ。
あの状況を思い出すと身震いがする……。
迫るトラック、衝突音と衝撃。迫る死の感覚。そしてブラックアウトするときの絶望感。
自分が死ぬんだ……って言う絶望感……。
そういう状況だったはずだ。
しかし、今の状況はどうだ?
何だか白く光る地面と空。地平線が見えることから、果てしなく広い場所だとは感じる。俺はここにしっかりと立っているのだ。さっきまで血だらけだったはずなのに……。
「死んだはずなのに……。」
生きているばかりか手足を確認すると、どこにも傷は無い。着ていた服も変化ない。
会社を出たときのまんまだ。
(も、もしかしてこれは夢なのかな?それとも死んだことが夢?)
そんなことを考えていると、彼女は口を開いた。
「ここは神界です。あなたは死んだのですよ。神崎龍二。」
「お、俺の名前を?え……?今何と言いました?し、神界?それに死んだ?」
「そうです。死んだのです。大型トラックに轢かれたのです。即死でした。」
そのとき、俺はピンときた。
(も、もしかしてこれは!?異世界転生!?)
ラノベ好きの俺は異世界転生ものを好んで読んでいた。この異世界ものにはパターンがある。テンプレってやつだ。
①まず主人公がトラックに轢かれて死亡する。
②神が現れて事情を説明する。
③チート能力を授けられて異世界に【転移】もしくは、【転生】する。
これは、その二番目のやつだ。
「い、いやったぁ!」
俺は思わずガッツポーズを取っていた。
……現金なものである。
さっきまで俺は彼女の存在すら疑っていた。
それなのに、自分に都合が良い状況だと悟ると全てを信じられるようになっていた。
だって異世界に行けるんだぜ?転移か転生か分からないけど、夢にまで見た異世界!
俺は彼女……、もとい女神様へ顔を向ける。
「あの!俺!やっぱり異世界へ行けるんですか?」
「…………。」
しかし、俺を見つめる女神様の眼は冷たいものだった。まるで汚物でも見るような眼だ。
(な、なんだ?気のせいか、とっても冷たい眼のような気がするんだけど……)
「あ、あの……?」
俺が再び声を掛けようとしたとき、彼女に動きがあった。
左腕をゆっくりと上げ、俺のほうへ手の平を向けた。
そして、桜色の薄い唇を動かした。
「とりあえず、今から焼きますので。テストさせてもらいます。」
「は?」
言っている意味が分からない。焼く?何を?
ここには不思議なほど何もない。焼くって何をよ。
「あの、焼くって何を?」
俺が口を開くと、その”答え”とばかりに彼女の左手から、真っ赤な炎が飛び出してきた。
その勢いはすさまじい。まるで火炎放射器のようだ。
俺の視界が炎で埋めつくされていく。
「ぎゃぁぁぁ!」
俺の絶叫が響きわたる。
なんで?どうして?彼女の手から?それよりも……。
「焼くって俺のことかよぉぉ!!」
俺は力の限りに叫んだ。
「想像してた異世界転生と違うんですけど!?」
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