メランコリックナイト

卯月ななし

メランコリックナイト

――ねぇ。夜ってさ、どこまでも行けそうじゃない?

そんなことを言って君は笑ってた。僕はそういう君の屈託ない笑顔が好きだった。

でも、別に夜は好きじゃ無かった。朝型だからかな。

でもまぁ皮肉だよね。

夜が無けりゃ、朝なんて来ないんだから。



「……んぅあ。」

 真夏のじっとりした空気の中で、また私は目が覚めた。……暑っつい。

1LDKのボロアパートに住み始めてから早3年。いい加減エアコンを買わなくちゃいけない季節がやってきた。

「まだ……2時……。」

 薄っぺらい布団の上でのたうち回りながら扇風機のコンセントに手を伸ばす。節電と思って消していたけど、背に腹は代えられない。……暗いせいで全然掴めない。むくりと起き上がってコンセントを挿した。その拍子に手が携帯を触った。

「まぶしっ。」

 急に光った画面に顔を顰めながら携帯を弄る。上京してくる前に1番仲の良かった友達からメッセージが届いていた。

『ヒグレー!誕生日おめでとー!』

律儀に12:00ぴったりに送られている。字面でも分かるほどの陽気さに思わず口角が緩んでしまった。私は返信を打ち込んでいく。

『ありがとう。もう今年で18だよ。』

 少しだけ期待したけど、やっぱりレスは無い。流石午前2時だ。私は携帯を放置してパソコンを立ち上げる。頭の中ではさっきのメッセージが渦を巻いていた。

「ヒグレ、ねぇ。」

 日暮ひぐらし夏目なつめ。それが私の名前だ。


 17の誕生日何をしていたっけ。万年不眠症だし、多分しょうもないことしてたんだろうな。とか考えながら、18の誕生日は壊れかけの扇風機にしがみついていた。

「あっつ……。」

 切るのが面倒で伸ばしっぱなしにしていた栗色の髪が首にべたべた張り付くせいで、暑苦しさが増している様な気がした。

「……ハサミどこにやったっけ。」

 上京して早3年。地元では物凄く出来の良い子だったのだが、上京して来て少しずつ道を間違え始めた。通っていた高校は途中で辞めてしまい、今では映画館で働くただの社会不適合者だ。

「――切るか。」

 18の誕生日は、深夜にコンビニへと向かうことに決定した。目当てはハサミ。この薄暗い中探すのも面倒だし、この際新しくしてしまおう。18の自分への誕生日プレゼントは「ハサミ」という訳になるが、まぁそれも良いんじゃないか。

「いでっ。」

 明かりをつけないせいで壁に激突した。明日には多分、痣にでもなっているんだろう。アパートの扉を開くと生ぬるい風が吹き抜けた。私の淀みきった目玉に蒸し暑さが染みこんでいく。ため息を付いて、私はコンビニへの道に向かった。

「はぁ……。」

 不眠症は中学に上がる前からそうだった。毎夜毎夜目が覚めて、どうでもいいことを考えている内に夜が明けるなんてのは毎日で。そうしてく間に目の下に出来た隈は濃くなっていく一方だった。体に蓄積された疲れはカンストして、今はもう何も感じなくなっている。

「いらっしゃいませー。」

 いつの間にかコンビニに着いていた。やる気の薄い店員の声が耳に響く。私は店内の明るさに目を細めながら、文房具の置かれた棚に向かう。が、少し予期せぬ事が起きた。

「……売り切れ。」

 ハサミが無かった。私の視線はゆっくりとハサミがあるべき所の右隣に移る。そこには、カッターが吊り下げられていた。じっとカッターを見つめ続け、諦めがついたので買い物カゴにカッターを雑に放り込んだ。それと適当に見繕った筆記具を2、3本、エナドリを2本カゴに入れておく。

「ありがとうございましたー。」

 やる気の薄い声に見送られながら、私はアパートと逆の方向に足を進めていた。少し行った先にある公園の前で歩くのをやめる。公園には錆のついた遊具がいくつか設置されてて、その奥にひっそりとベンチが1つあった。私はそのベンチに腰を下ろす。そしてビニール袋からさっき買ったばかりのカッターを取り出した。袋の封を切って、真新しいカッターを取り出した。汗で少し湿った自分の髪を両手で1つにまとめる。そして片方の手で頸椎の辺りに髪を抑えながら、もう片方ではカッターをカチカチ言わせながら。

……あれ、こんな感じだっけ。髪切るって。いやそもそもカッターで切ろうとしてんのがおかしいのか?切れるのかなコレ。何か汚い仕上がりになりそうな気がするな。そういうぐちゃぐちゃとどうでも良い事を考えているうちに――それは起きた。

「危ないよ?」

突然、誰かが私に声をかけた。4人掛けの公園のベンチ。私は1番端に荷物を置いて座っている。そして今、私の隣に誰かが腰を下ろして、私に話しかけている。――顔を向けると、思っていたよりもかなり至近距離にその人の顔があった。あまりにも突然のことで思考が固まる。

「え、あっ、へ?」

カッターの刃を出したままなのに、私は狼狽えた。そっちの方が全然危ない。その人もそう思ったのか、私の手からさっとカッターを奪った。

「自殺ならよそでやった方が良いよ?こんな寂しい所じゃ無くて。」

 ……ちょい待て。自殺って言ったかこの人。

「今ここであなたが死んだら、僕が通報とかしなきゃいけないでしょ?そういうの面倒だし、かといってベンチ譲りたくも無いし。」

ミルクティー色の短い髪に、まっ茶色のぱっちりした目。不機嫌そうな表情と生意気さの滲み出た声。――どこか、既視感があった。

「大体、そういう刃物でスパッとって、痛いんじゃないかなー。掃除大変そうだし。やめときなよ。ほら、今日は月も綺麗だよ?」

そういって、星1つ見えない淀んだ空を指さすその人。私は暫く静止していたが吹き出してしまった。

「はははっ、あぁ。確かに、そう言う風に見えますよね。これ。」

 私はその人の手からカッターを取り返して微笑む。その人は少し顔を顰めた。

「――でも、私自殺なんか微塵も考えてないですよ。」

「え、あ?そうなの?」

私は笑いながらその人に事情を話した。私がただ髪を切ろうとしているのだと知ると、その人は苦笑した。

「なぁんだ。そういうことね。」

 そう言ってから私の手からカッターをまた取った。戸惑う私の隣で、その人は含み笑いを浮かべながら私の髪に触れた。

「僕が切ってみても良い?」

「……綺麗に頼みますね。」


 神保じんぼつかさと、その人は名乗った。

「高校生ですか?」

「うん、今3年生。」

 他愛もない会話をしながら神保さんは私の髪を丁寧に切っていく。

「ヒグラシさんはいくつ?」

「さっき18になったばかりです。」

「え、同い年じゃん。」

 だと思った。ほんのりと甘い匂いのする神保さんの手が、私の耳に髪を掛ける。

「神保さん、アイスか何か食べてましたか?」

「なんで分かんのさ。」

 神保さんは目を丸くしながら動きを止めた。私は思わず笑う。

「甘い匂いがするので。」

「マジか。そんなんでバレちゃうのか。」

  ジャク ジャク

 カッターで髪の毛を切る音が鮮明に聞こえる。軽く引っ張りながら、うなじ辺りで刃を滑らせているらしい。少しして音が止まり、神保さんの手に私の毛束が握られていた。

「……思ったより長い。」

「そうなの?――にしても、綺麗な髪だね。」

 私はコンビニのビニール袋を広げて神保さんの前に広げた。その袋の中に自分の毛束が落ちる。私は自分の右手側の後ろ髪に手をやった。その手は案の定空を切る。

 散髪って、こういう寂しい気持ちになるもんだったっけ。

「そうですか?」

「うん。僕の髪よりはるかに綺麗。」

そう言いながら目を細める神保さん。私は何だかやりきれない気持ちになった。長い事1人の時間があったせいか、こういう目で見つめられるのが不思議だった。

  ジャク ジャク

 また神保さんがカッターを滑らせた。少しずつ首回りが軽くなっていく。

「切れた切れたー。」

 神保さんの手から私の髪が零れてビニール袋に落ちた。短くなった髪を触りながら、私は礼を口にする。神保さんはただ笑っただけだった。

「あ、これ。お礼です。」

 私はコンビニで買ったエナドリを1本渡した。表面には水滴がついていて、若干温くなっている様な気がする。神保さんはそれを受け取ると、少し迷ってからプルタブを開けた。何も言わずに口をつけ、一気に飲み干す。――私はその飲みっぷりに面食らったが、遅れてプルタブを開けた。

「ぷっは。うまぁ、なにこれー。」

 手の甲でエナドリを拭いながら目を輝かせる神保さん。私は少し笑った。

「エナドリ飲むの初めてですか?」

「うん。結構美味いねこれ。」

 無邪気。神保司という人物にはその言葉が似合うな、と不意に思う。プルタブに口をつけたまま私は考えた。

――そんな人がなぜ、深夜2時の公園でウロウロしているのだろう。

横目で神保さんを見てみる。大事そうに残りのエナドリを飲む姿が視界に映った。黒いジャージのパンツに、刺繍の入った灰色の半袖Tシャツ。その上からジャンパーを羽織っている。装いは部屋着にも普段着にも見える。家出にしては圧倒的に荷物量が少ない。何してんだこの人。

「どした?」

気が付くと、がっつり神保さんと目が合っていた。反射的に目を逸らして言う。

「何でもないですよ。」

「……どーせ僕が何してんのか気になっただけでしょ?」

意外に鋭い。私はため息をついて見せる。

「まぁ、そうです。聞いても良いですか?」

「じゃあ僕も聞きたいなー。」

 私はそれから少しの間自分語りをした。神保さんは顔色1つ変えずに私の話を聞き続けた。

「――まぁだから、寝れないんです。」

「へぇ、大変だね。」

 神保さんはちょっと考えると、ぼそりと言った。

「家には居たく無いんだ。……ちょっとうるさくて。」

 急に声のトーンが落ちる。私は神保さんを見る目を左だけ細めた。神保さんへの既視感の理由が分かった気がしたからだ。

 仲の良かった奴で、家庭環境が劣悪だった奴が居た。そいつはいつ何時も笑顔で居て、人当たりの良い人気者だった。私はそいつから度々相談されることがあった。私は世間的な事しか言えなかったが、そいつはいつも馬鹿みたいにうやうやしく礼を言って来た。私はそれが嬉しかったし、奴にとっても少しは気が晴れていたのかもしれない。

 だけど、そいつは死んだ。――自殺だった。

体中に殴られた跡があり、骨も所々折れていたという。結局そいつの両親は逮捕され、そいつの死はそれで終わりだった。さて、ここで問題。

Q,私はそいつが死んでどう思ったか。

答えは単純で、何も思わなかった。

そいつがそれを選んだなら私が口を挟む資格は無い。勇気も無い。そう自分に言い聞かせ続けて年を取った。

 神保司という人物は、そいつに似ているのだ。


 「えなじーどりんく」、それは僕にとって未知の分野だ。

「あ、これ。お礼です。」

 ヒグラシ、という名前のその人は僕にそれをくれた。僕は迷ってしまう。人からの好意を無下にはしたくない。

『良い?司ちゃん。』

 頭の中で親の顔がいつもの台詞を言ってくる。どうせ、健康に悪いからとかって言うんだろ。分かってるよ。僕は吹っ切れた。プルタブを開けて、一気に飲む。喉に炭酸の刺激を感じながら、舌に意識を集中させる。

「――ぷっは。うまぁ、なにこれー。」

 美味しい。こんなに美味しいのか、「えなどり」って。

(帰ったら教えてあげ……、られないんだった。)

 家には両親と弟が居る。7歳下の弟は僕の事を慕ってくれる。でも、僕は。

僕は助けられない。どうしても。

凄く怖いんだ。


「――神保さん。」

 私は何となくで口を開いていた。神保さんは空になった缶を逆さにして、垂れてくる1滴、2滴のエナドリを口に溢していた。私は呆れ気味に笑って尋ねた。

「神保さんは、夜好きですか?」

その問いかけに対して神保さんは固まった。ぽた、とエナドリが垂れ落ちる。着地点は頬だったが。

「いや、嫌いだよ。」

 何でもない様に答える。でも、隠しきれてない。私は何となく思った事を言った。

「本当は――神保さんが死にたいんですよね。」

「……。」

 真夜中の公園。神保さんは髪を切ろうとしていた私を「自殺」と断定し、必死に止めた。それはなぜか。

 知らない人に先を越されるのが嫌だったからか、あるいは自分が先に目星をつけていた所を汚されるのが嫌だったのか。

「ヒグラシさんって、鋭いんだね。」

 神保さんの抑揚のない声。私はそちらに顔を向けずに話し続ける。

「そんなことありませんよ。ただ思い込みが激しいだけです。」

 神保さんは少し俯いていたが、ぱっと顔を上げて私を見つめた。

「ヒグラシさんはさ、こういう経験ある?」

目の前で自分の兄弟が、実の親にボコボコにされるっていう経験。

「無いですね。1人っ子なので。」

「そっかぁ。」

 あまりにも、普通な笑顔だった。神保さんの浮かべる笑顔は、悲壮感に満ちた自虐的な物では全くもって無かった。ごく日常的な会話をする時の笑顔だった。

「夜はさ。いつも弟が殴られてるんだよね。」

 嫌な話だ。私の勘は少なからず当たっていた。神保さんはそのまま続ける。

「なのに、親は僕に対して気持ち悪いぐらい優しいの。……それでさ。」

 神保さんは助けを求めるような目で私を見た。私は精々見つめ返すぐらいしかできなかった。

「……昨日、とうとう弟がぶっ倒れちゃって。」

 生ぬるい風が吹き抜ける。私はただ黙っていた。神保さんはまた普通に笑う。

「俺、弟のために何もできなかった。」

 ゆっくりと俯く神保さんの目の端がうっすらと光った。私は神保さんの一人称の変化に違和感を覚えつつも黙っていた。

「このままだと、弟は殺されるかもしれない。でも、俺は何の盾にもなれない。じゃあせめて、最後ぐらい我儘に終わらせたいなって。」

 きっと、神保さんは親の言いつけをきちんと守るタイプの人なんだろう。弟がどうかは分からないが。

「我儘、ですか。」

 私はさっき思い浮かべた旧友の顔と神保さんの顔を重ねる。皮肉なぐらい似ていた様に思う。

「神保さんは1回でもちゃんと弟さん庇ってあげたことあるんですか?」

勢いよく私の口からダラダラと妬みによる暴言が零れる。神保さんはポカンとこちらを見ているだけだ。

「あなたが死んだら、弟さんのことを心配するのは誰の役目になるんですか?」

もっと気の利いたことが言えたなら良かったのにな。そう思いつつも続けて言った。

「神保さんはこの先弟さんが殺されて、それを一生後悔し続けるんですか?」

神保さんの口が何か言いたげに動いた。私はそれを無視して思い切り深いお辞儀をすると、公園から逃げ出していた。


『神保さんは1回でもちゃんと弟さん庇ってあげたことあるんですか?』

無い。

『あなたが死んだら、弟さんのことを心配するのは誰の役目になるんですか?』

そんな人いなくなる。

『神保さんはこの先弟さんが殺されて、それを一生後悔し続けるんですか?』

――ヒグラシさんって、正しいことをちゃんと言える人なんだな。

公園に1人残された俺は家路につくことにした。


「ぐぅ、あ。」

 また目が覚めた。あれから3日後の事。

「また、2時か。」

 誕生祝のメッセージは返信したっきり何も送られてきていない。蒸し暑さは最高潮に達そうとしていて、扇風機の動きも鈍くなっている。

「暑い。暑い暑い。」

 無意識に出かける用意をした。扉の前に立って少し考える。何処に行こうか。それから、直ぐに扉を開いた。

「いらっしゃいませー。」

 やる気の薄い声。私はコンビニの涼しい空気を感じながら店内をウロウロする。飲み物の冷蔵庫の前で立ち止まって、エナドリを2本買った。頭では何も考えて居ない。だが、何となく、無意識であの夜を再現していた。それに対して別に抵抗することなく動く。それから私の足はあの公園に向かった。

「お、来た。」

 あのベンチには先客がいた。にっこりと楽しそうに笑う神保さんが座っていた。

「来ちゃいました。」

 つられて口元が緩んでしまう。私は神保さんの顔を見た。頬に絆創膏が1枚貼られている。私は向かいに立ったまま、じっくりと神保さんの顔を見つめた。

「あ、これね。」

「それです。」

 神保さんは照れくさそうな顔をすると小さな声で言った。

「盾になってみたの。俺。」

「どうでした?」

「親がびっくりするぐらい失望した顔してた。」

 台詞に似合わぬ表情でそう告げる神保さん。私は何かが嵌まる様な、壊れるような音を聞いた。

「……やっぱりお前は嘘が下手なんだな。神保。」

「へぇ。相変わらず、頭良いね。ヒグラシは。」


 神保司は、正確には4年前に死んだ。

中学で仲の良かった友達だ。

自殺。そう聞かされた時には本当に驚いた。受け入れるのを体が拒否していた。

思えば不眠症はそれぐらいからだった気がする。

いつからか、私の中で「神保司」という人物の記憶は酷く曖昧になっていった。

私は親友の事を忘れてしまったのだ。

記憶の中ではうっすらとした「家庭環境が劣悪で自殺した奴」という肩書の誰か、という印象だけが残った。本当はもっと深い思い出があるというのに。

そのせいで、私は公園で神保を見た時に思い出せなかった。

既視感と言う簡単な言葉だけで済ませてしまった。

そして何よりも、私は中学の時と全く同じ過ちを犯していた。

あの時、中学生の私も今の私と同じことを言った。

『じゃあ、お前が弟を守ってやれよ。』

 それを実行した神保は両親からの虐待の矛先を向けられることになり、結果的に自殺してしまった。

私が殺したのだ。

そしてまた、私は神保司を殺した。

神保に殺される結末の待っている選択をさせたのだ。

また。

また忘れるんだろうか。

やっと思い出したのに。


「なにをそんな辛気臭い顔してんのさヒグラシ。」

「してない。」

 目の前で微笑むのは、私の記憶よりも少し年を取った神保だ。幻と呼ぶには出来過ぎているが、きっと実在するものではない。

「なぁ、神保。」

「ん?」

目の前で美味しそうにエナドリを飲む少年は、神保司だ。でもそれは実在しない。

「どうやったら、またお前と友達で居られるんだ?」

私の目から涙がぼろぼろ溢れた。拭う気力もない。神保は私の涙を指で掬いながら言った。

「簡単なことだよ、ヒグラシ。」

 そういって、私に微笑みかける。私は精一杯の笑顔を返した。

「おやすみ。」

 おやすみ、神保。

ありがとう。


『――昨夜未明、××公園のベンチで死体が発見されました。今だ身元は分かっていませんが、現場にあったカッターナイフで頸動脈を切断されたことによる失血死であることが分かっています。警察は自殺の線で事件を捜査していて――』


「なぁ神保。」

「何?」

「夜って、何処までも行けそうじゃない?」

「はぁ、また良く分からんこと言い出すんだから。」

「酷いな。」

「ひどくないひどくない。」

「今度行ってみようぜ。何処まで行けるか。」

「良いよ。楽しそうだし。」

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メランコリックナイト 卯月ななし @Uduki-nanashi

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