02 LiSA「紅蓮華」を聴いて興奮した竜帝ドラグレシアはカイトを居城へと案内する

「少年よ、こちらへ来い。そしてもっと聴かせるのだ、その音をな」


 LiSAの「紅蓮華」が大音量でかかっているスマホを指差し、ドラグレシアはそれをくいッと上に曲げた。


「おわっ!?」


 何かの力が働いて、俺の体は宙に浮いた。


「さあ、来るがよい」


 一気に引き寄せられ、豊満な胸もとに俺は顔をうずめた。


「ぐぐ、苦しい……」


「おう、すまなかった。しかし少年よ、これはいったいなんだ? この不思議な音は? なにやら言葉があるようだが、これは何を言っているのだ?」


 ドラグレシアは俺の頭を撫でながらたずねてくる。


 うむ、悪くない。


 だが、鬼滅の刃というアニメの主題歌で――


 と言っても通じなさそうだな。


 しかし待てよ、ここの住人はひょっとして、そもそも「歌」というものを知らないのか?


 うーん、どう説明するか……


「えーと、これは音楽というもので、言葉があるものは歌と呼ばれるんです」


「ほう、なるほど。この激しい音は音楽というものなのか。そしてこの言葉は歌というものだと。ふむ。しかしいったい、この歌なるもの、言葉自体はなんとなくわかるが、どういう意味のことを申しておるのだ?」


「え、えーと、そうですね……たとえどんな困難が立ちふさがろうとも、それと向き合い、立ち向かっていくことが大切なんだよ、という感じですかね……」


 これはかなり苦しいか?


 大丈夫かな……


「なんと、このおなごの言葉はそういうことを申しておるのか。ふむ、その心がまえ、よくわかる。かくいうわれも、先の大戦のおり、にっくき敵どもから幾度となく窮地に追い込まれてきた。しかしそんなときは、決して負けぬと心に誓い、たび重なる死線を乗り越えてきたものだ。わかる、わかるぞ。このおなご、われの気持ちをよく理解しておる」


 なんかよくわからんけど、LiSAの歌に感情移入しちゃった感じ?


 マジか。

 

 言ってみるもんだな……


「このおなごの名はなんというのだ?」


「はあ、LiSAというアーティストです。あ、アーティストというのは、歌を歌う人のことですね」


「ほう、リサと申したか。ふむ、われはこのリサなるおなごの歌が気に入った。少年よ、リサの歌はほかにもあるのか?」


 お、どうやら興味津々のようだぞ。


 よし……


「このスマホという道具の中には、たくさんの音楽や歌が入っているんです。なんでしたら、もっとお聞かせいたしますよ?」


「なんと、その中にリサの歌がもっと入っているとな? ふふっ、なんだか熱くなってきたぞ。リサの歌を聴いていると、血がわき肉が踊るようだわ。長らく眠っていたわが渇望が満たされていくかのようだ。よし、少年よ、われとともにわが居城へ来い。そこでさらなる音楽を聴かせるのだ。はあっ!」


「え、え……?」


 ドラグレシアの体が赤く光って俺を包み込んだかと思うと……


「ふはは、ひさかたぶりに体が熱いわ!」


 これは、赤いドラゴン?


 その背中に乗っている……


「いざ、火の国フレイガルドへ!」


「うわあっ!」


 赤いドラゴンの姿となったドラグレシアは、その大きな翼を広げ、瞬く間に空へと跳躍した。


「わはは、いい気持ちだ!」


 ドラグレシアは笑いながら、俺をはるか空の彼方へと連れ去っていった――

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