第77話 お食事会

《翔視点》


 ――話は現在に戻る。

 俺達は予め予約していた席に座って鍋を囲んでいた。

 ちなみに、暖簾で分けられた掘りごたつのある個室で、ダンチューバーご一行と、俺達プロ冒険者が三対三で向かい合って座っている感じだ。


 ちなみに、俺の右に直人、左に七禍が座っていて。俺の向かいに熊猫さんが。向かって右隣があさりさんで、左隣が梅雨さんという形になっている。


「お待たせしました~。豚バラ二つと、肩ロース二つ、牛が四つ。それから、こちら野菜四種盛りになっています」


 閾の付いた鍋の中で、二種類の出汁がグツグツと煮立った頃、店員さんがお肉の入った皿を重箱みたいに重ねて持ってきた。


「おー! きたっす! やっぱ仕事終わりは肉っすね!!」


 レインコート少女、梅雨さんが、目をキラキラ輝かせる。

 白菜、しめじ、水菜、長ネギと一緒に肉を煮立った出汁の中にみんなで入れる。


 はやく出来上がらないかな、もうお腹ぺこぺこだ。

 出汁の中で色づいていくお肉達を眺めていた俺は、ふと今の状況を見てあることに思い至る。


 ――なんか、合コンみたいだな。

 いやまあ、男子2人、女子4人だから合コンと言うのは無理があるかもしれないが、もしこちらが男子3人だったら、どう見ても合コンになっていた気がする。

 あれ、てかちょっと待てよ。


「なあ、直人」

「どうしました?」


 肉の火の通りを確認していた直人が、俺の方を向く。


「これ、ひょっとして俺が来なかったら、男子1対女子4人の超気まずい空間になってなかった?」

「あー……、まあ、女子の中に男1人という気まずい状況にはなっていたと思います」


 少し意味深なことを言いながら、苦笑する直人。

 やっぱそうだよな。俺が来なければ、この人はハーレム天国だったわけで……。なんか、悪いコトしたかな?


「うん、牛肉はもういいでしょう」


 俺の考えをよそに、直人はそんなことを言う。

 とたん、そこかしこからはしが伸びて、お肉の争奪戦が始まった。

 男女関係なく、食べ盛りの中高生(1人大学生がいるが)の食欲は侮れない。

 俺も置いていかれないように、慌てて牛肉を皿にとる。続けて、もう一枚とろうとするが……うん、今のが最後の牛肉だったか。


 ま、まあ。まだ牛肉は残っているし、足りなければ追加注文すればいいだけだ。

 鍋の中には加熱中の豚肉もある。


 ――ちなみに、牛肉は生焼けでも大丈夫とよく言われているが、それは牛の飼育環境と体質によるもので、肉の部分に寄生虫や細菌が殆どいないからである(加工過程で雑菌が付着する場合もあるので、生で食べるのは御法度だが)。

 鶏肉と豚肉は、肉の部分に寄生虫や細菌がいるため、火をしっかり通さないと安全に食べることは出来ない。


 日本には、馬刺しという馬の刺身があるが、あれは馬の体温が高く、寄生虫が生息できないから、牛や豚に比べて安全ということらしいが……正直俺は、生で食べたいとは思わないな、うん。


 と、今はそんなことより目の前の牛肉だ。

 早く食べないと冷めてしまう。俺は、牛肉を口に運ぼうとして。

 ――どうしても無視できずに、ちらりと横を見てしまった。


「ぐす……妾、野菜だけ……うぅ」


 野菜四種を盛った皿を手に取り、涙目でチビチビ食べる七禍。その横で、牛肉を食べようとする俺。

 ――ああ、罪悪感と背徳感がすごい。


 いくらこの残念中二病中学生でも、一応見かけはまだまだ中学2年生の小柄な女の子だ。

 そんな風に落ち込まれると、庇護欲をそそられてしまう。

 俺は、直人にバレないよう、彼女の皿に牛肉を落とした。


「っ!」


 驚いて俺の方を見る七禍。

 俺は人差し指を口の前に立て、「内緒だぞ?」のジェスチャーをする。

 今まで死にていだった少女の瞳に、パッと光が灯る。が、すぐにぷいっとそっぽを向き、


「ふ、ふん! まあ、愚鈍な従者にしてはよくやったな。た、たかが牛肉。それもたった一枚とはいえ、褒めて使わそう」


 ――ウザいな。素直にアリガトウは言えんのか、こいつは。


「いらないなら返してもらうけど?」

「い、いや! 嘘じゃ! 欲しい! だから妾からもう何も奪わないでくれぇええええ!」


 涙目で後ずさりする七禍。

 

「あー、翔さん、そんな小さい子をいたぶっちゃダメっすよ!」

「あらあら~、それはいけませんね~」


 もぐもぐとお肉を食べながら、梅雨さんと熊猫さんが口々に俺を責め立てる。


「え!? 俺が悪者!?」


 なんて理不尽な。

 ていうか、あんたら牛を食べ終えて、もう豚に手を付けてるよな?

 こちとら、まだ一枚も肉を食べていないのに。


 俺は、貧乏くじを引かされてガクリと肩を落とす。

 そんな俺の横で、七禍が牛肉を頬張り、顔をとろけさせている。


 ――まあ、これでもいいか。

 七禍が幸せなら、それで俺は満足だ。

 

 そんな後方彼氏面をする俺。

 そんなこんなで、食事会は続く――

 




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