第42話 接近戦でも圧倒します

「やっぱりな……」


 俺は、もはや半分呆れてため息をついていた。

 どうせ、そういうことをしてくるだろうと思っていた。

 君塚アイツのことだ。勝つためにどんな卑怯な真似でも平然とするだろうから、何かしらの妨害はあると踏んでいた。

 と、同時に。自分で俺を相手にするような度胸のない野郎だということも。


 ここで忘れてはならないのが、アイツは俺がSSランクの冒険者だと知らない、つまりただの雑魚だと認定していることである。

 俺の実力を取るに足らないと楽観視した上で、自らは安全なところで玉座にふんぞり返っているだけ。面倒ごとはすべて取り巻きに押しつけている、その腐った性根である。


「一応聞くけど、君達はそれでいいわけ?」

「はぁ?」

「何がだ」

「君塚のいいなりになって、自分からマナー違反の嫌われ役を買って出ることだよ」


 俺は、聞いても無駄だろうと思いつつそう問うた。何せ、取り巻き連中のうち、この2名だけが純粋に君塚に心酔しているようだったからだ。

 果たして、返ってきた答えは想像通りのものだった。


「はっ、知れたことを」

「俺達の王は、賀谷斗だ。俺達は、お前を邪魔するように言われている。その意味がわかるか?」

「え? 都合の良い捨て駒にされた」


 そう答えると、2人揃って「あぁん!?」とハモった。


「テメェ……雑魚のくせに調子に乗りやがって!」

「俺達はランクBだぞ! たかだかその辺のモブAごときが粋がってんじゃねぇよ!」


 おぉう。

 いいんですかね、そんなにハードル上げちゃって。

 登録者10人の配信者が、登録者100万人の配信者と大戦ゲームでマッチングして、「コイツマジよっわ! 使えねぇな、フォロー遅ぇんだよ!」的な暴言吐きまくったあげく、大炎上して赤っ恥を掻く――みたいな路線まっしぐらだと思うんですが。


「お前なんぞ、俺達の王が出るまでもねぇ。俺達が直々に叩きつぶすようにと言われてる!」

「都合のいい捨て駒などとバカにした報い、受けてもらうぞ!」


 が、こちらの挑発で激高した彼等は、最早我慢ならぬとばかりに腰から剣を抜いた。

 なるほど。どうやら2人ともジョブは“剣士フェンサー”らしい。

 見得を切るような大仰な抜刀の後、2人揃ってこちらへ駆けてきた。


 俺は、重たい鉱物の入った袋をかついだまま、弓を手に取り迎撃態勢に移る。


「テメェの武器を見る限り、どうたら例のアーチャーのフォロワーみたいだな!」

「雑魚のくせにいっちょまえに憧れて、武器を使いこなせぬままやられていくんだから、世話ねぇぜ!!」


 そう言いつつ、2人組は息のとれた連携で素早く散開した。

 流石にランクBというのはハッタリじゃなかったか。十分に速い、卓越した身のこなしだ。

 

「飛び道具を使わせる暇なんて、与えねぇ! 逃げる暇もな!」

「そもそも、そんな重たい荷物をサンタクロースみたく背負ってたら、避けられるもんも避けれねぇだろ!!」


 2人は、それぞれ俺の右斜め前方、左斜め前方から責め立ててくる。

 その動きは迅速。あっという間に彼我の距離を消し飛ばし、両刃の剣を振るう。

 ――が。


「スキル、“硬質化”」


 キキィイインッ! と、鋭い音が鳴った。

 

「なっ!?」

「なんだとぉ!?」


 俺の目の前で、2人が驚愕に目を見開く。

 2人がそれぞれ別方向から突進して振るった剣は、俺が横向きに保つ弓幹ゆがらによって、なんなく止められていた。

 2人が力任せに押し切ろうとするたび、ギャリギャリと火花が散るが、それでもこちらの弓を切り裂くことはかなわない。


「くっそ! 何が起きて――」

「弓を硬質化させただけだよ。屁理屈だけど、強度を増せば弓だって刃のない刀みたいなものだし」

「ちぃっ!」


 2人は、押し切れないと悟ったらしく一度飛び下がる。

 そこからは、怒濤の連撃だった。片方が下がって場所を入れ替えると同時に、もう1人が突っ込んで来て剣を振るう。

 俺を中心に、360°あらゆる方向から交互に仕掛けて来る2人組。


 突きに、袈裟懸け、真っ向斬り。

 時にフェイントも混ぜ、あらゆる手段をもって怒濤の連撃を繰り出す。

 が――俺はその全てを弓一本で捌ききった。


「はぁっ……はぁっ……くそっ!」

「ぜぇ、ぜぇ。どうなって、やがる!」


 肩で息をしながら、2人は悪態をついた。

 考えてもみれば、近接戦用の武器でもない弓で、近接が本職の2人を軽くあしらっているのだから、そりゃあまあ当人達からしたら腹立たしいよね。

 圧倒している側の身分だが、少しだけ彼等に同情した。


「おい! コンビネーションの必殺技でいくぞ!」

「あ、ああ! もうそれしかねぇな!」


 2人はついに痺れを切らしたのか、頷き合うと、それぞれ俺の正面と背後数メートルの位置に素早く移動した。

 それから、上段に構えた剣に向けて声高に叫んだ。


「魔法スキル――“フレア・エンチャント”!」

「魔法スキル――“サンダー・エンチャント”!」


 刹那、2人の保つ剣が、それぞれ紅炎と紫電を纏う。

 ゲームでよく見るような“属性”を持つ魔法スキルを、剣に纏わせたのだ。

 それぞれ燃焼効果と雷撃効果が追加されているから、威力が桁はずれに上昇していることは言うまでもない。


「へっ! いくらその硬い弓だろうが、この攻撃には耐えられまい!」

「それに、正面と背後からの同時攻撃だ……いくらなんでも、対応は無理だろう!」


 2人は勝ち誇ったように笑い――同時に駆けだした。

 確かに、どちらかの攻撃に対処すれば、どちらかの攻撃は必ず喰らう。それ以前に、硬質化した今の弓でも、あの威力に耐えられるかは怪しい。

 だからこそ――喰らう前に叩けば良い。だって、俺はの弓使いなのだから。


 俺は即座に弓を構える。ただし、今度は「魔法矢」をつがえて。

 

「っ!」


 俺の射線上にいる少年は、咄嗟に炎を纏った剣でガードの体勢に入る。

 が――俺の狙いはお前じゃない。そう、もう片方の――


「お前だよ!」


 俺は、手首のスナップを利かせて弓を反転させた。


 真後ろなら、もはや振り返る必要すらない。

 直線距離を最短時間で責め立ててきた2人は、急に避けることなど不可能。そして、目の前の少年が防御態勢に入ったことにより、後ろから攻撃してくるヤツがトドメを刺さなくてはいけない状況に。ゆえに、後ろから責めてきたヤツは、一撃で仕留めるために防御も回避も捨てて攻撃の態勢に入っている。

 だから――俺は迷わず「魔法矢」を放った。


 “アイス・アロー”。

 冷気を纏う氷の矢が、俺の脇の下を通って真後ろの少年に命中する。

 

「ぐっ! ばか、な!?」


 驚愕の声を発しながら、一撃で超過ダメージを負った少年が、文字通り顔を凍り付かせて救護室に転送される。


「ばっ――」


 正面にいる少年は、慌てて攻撃に転じるが、完全防御の態勢から無理矢理攻撃を放とうとしたため、十分な威力を発揮できない。

 故に、俺は左手に持ったままの弓で剣の腹を軽く小突いた。たったそれだけで、剣の起動が逸れ、刃は俺を捕らえ損ねる。


 と、同時に。

 必殺の間合いを外した目の前の少年は、完全に無防備な体勢に陥っていた。


「ありえねぇ! なんだよその弓捌き! そんなの人間業じゃ――ッ!」


 そこで、目の前の少年は何かに気付いた用な顔つきになる。

 それから、みるみるウチに顔が青ざめていき――


「まさか、お前――ッ!」

「じゃあな。季節外れのサンタさんからのプレゼントだ」


 聞かず、俺は肩に担いでいた鉱石でパンパンの袋をひっつかみ、力任せに振り抜いた。

 ちなみに、皮や袋の中に砂とかコインを詰めて棍棒のようにした武器をブラックジャックというらしい。

 俺は、超特大のブラックジャックと化したサンタ袋を、容赦なくフルスイングした。


「お前が、本物の――ッ!」


 何かを言おうとした少年だったが、そこで彼の意識は身体ごと吹き飛んだ。

 特大ブラックジャックを喰らい、これまた一撃で意識を刈り取られた少年は、救護室へと強制転送されるのだった。

 

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