第40話 開戦の狼煙
《翔視点》
――翌日。
午前の授業は長いようで短く、あっという間にそのときはやってきた。
5,6時間目を使って行われる、《ハンティング祭》。
その概要は至ってシンプルで、制限時間内で各モンスターや鉱物に割り振られたポイントをより多くゲットしたものが優勝というものである。
A~Dクラスまでの4クラス合同で行われる一大イベントであるが、今年はその開催が危ぶまれた。
理由は、先日ダンジョン内で異変が起きたため、その安全性が疑問視されたからに他ならない。
が、結局は開催中止になることはなかった。
詳しくは知らないが、事後処理にダンジョン運営委員会がかなり奔走したらしい。
あの本音ぶっちゃけ支部長が俺達のために頑張ってくれたと考えると、なんだか感慨深いモノがあった。
学校内ダンジョンのエントランスに集められた俺達は、真正面に立って拡声器をもつ担当教師からのルール説明その他諸注意を聞く。
状況としては、全校朝会の時に校長先生のありがた~いお話を延々と聞いている感じだ。
何が言いたいかって? 説明が長すぎて半分以上の生徒が、聞いちゃいないってことだ。
「――えー、当然ですが、レアモンスターやハイランクのモンスター、採取が困難な鉱物になるほど割り当てられるポイントも高くなります。しかし、欲を掻いて強力なモンスターに挑めば、“生還の指輪”の示す規定ダメージをあっという間に超過して、救護室に飛ばされます。もしそうなったら、リタイアとみなされ、その時点までで獲得したポイントは0になりますので、ご注意を。また、強力なレアモンスターの中にはただ単純にダメージを与えてくるだけでない特殊個体もいます。もし勝てないと思ったら、手を出さずに撤退をする判断をすることも大事です。命を失わないからと言って、危険なことに変わりはありません。くれぐれも、注意を怠らないように。」
担当の教師は、淡々と注意事故やルールの説明をしていく。
割と大事な説明をしているのだが、長すぎるし退屈だしで、ほとんど生徒の耳には入っていない。
あんな事件があった後だが、基本的にダンジョンは安心が保証されているものなのだ。
いや、ケガはするし精神的ダメージは負うことを覚悟する必要があるが、死ぬ心配は無い。
そして、この場にいる大多数が、金曜日の事件には関わっていない。
身近に大事件が起きても、身をもって体感したわけではない以上、どこか他人事めいた空気が流れていた。
まあ、そんなことは教師陣やダンジョン運営委員会としても百も承知だろう。
もう二度と、あんな異常事態が起こらないように最善を尽くしているはずだ。少なくとも、ダンジョンが暴走しました、なんてことは有り得ない。
それでも、注意しなくてはいけないことにかわりないのだが。
「――90分間で集めた、モンスターのドロップアイテム・素材・鉱物は、医大1階層の受付で集計させていただきます。それでは、説明はこれまで。スタートの合図をお待ちください」
そうこうしているウチに、長々とした説明が終わった。
生徒の間からは、「やっとかよ」「待ちくたびれたぜ」などという声が沸き上がる。
全校集会の時のように、整列をしているわけではないため、各々が好きなように歩き回って、開始の合図があるまで雑談を始める。
ちなみにだが、今日乃花はこのイベントには参加しない。
彼女自身、ダンジョン内で相当怖い思いをしただろうし、仮に本人がやる気だったとしても、どのみちケガが治っていないから無理だ。
まだ、激しい運動をするとあちこち痛むはずだから、本当に不幸な事故に巻き込まれたと心から同情する。
「まあ、アイツの毒牙にかかる可能性がないのが、不幸中の幸いってとこか」
「誰の毒牙にかからないって?」
不意にそう声をかけられて、俺は後ろを振り返る。
憎たらしいほど傲岸不遜な態度で、その男――君塚賀谷斗が立っていた。
その後ろには、取り巻き連中がいる。
ほんと、こんなヤツの取り巻きをやって何が楽しいのやらと思うが、たぶん楽しくはないだろう。
取り巻きの顔を見ていればわかる。
いたくて一緒にいるわけじゃない、というのが表情からまるわかりだ。
もっとも、数人は望んで側にいるようだが。類は友を呼ぶと言うし、少しくらいこのバカに心酔しているヤツがいてもおかしくはないのかもしれない。
「別に? 自分のことだと思うのは自意識過剰だろ」
「ちっ、舐めやがって。目に物見せてやらぁ」
「それはこっちの台詞だ」
俺達の間で、バチバチと紫電が飛ぶ錯覚に囚われる。
頂点に立っていると思っているだけの裸の王様というのも、不憫なものだ。
まあ、どのみち俺が、泥にまみれた化けの皮を剥いで、自分が素っ裸であるということを再確認させてやるつもりなのだが。
こちらとしても、手加減してやる道理はない。
「ちっ、まあいい。それより感謝しろよ? 今回、俺はお前を叩きつぶすためにわざわざ秘策を用意してやったんだ」
「どうせ、取り巻き連中の取り分も一緒にお前の手柄にする気だろ? それとも、直接俺を攻撃してくるか? もっとも、前者はルールで禁止されてはいないがマナー違反。後者もダンジョン運営委員会の定めるマナー違反行為で、お前の評判は地に落ちるだろうけどな。ああ、悪い。あんたの場合、もう底値でこれ以上落ちようがなかったか」
「ちっ、舐めた口聞いてくれんじゃねぇか? あ!?」
軽い挑発に乗っかり、君塚は声を荒らげる。
が、すぐに平静を取り繕い、口元を歪めた。
「へっ……今更そんなルールなんぞに縛られるかよ。俺は何者にも縛られねぇ、なぜなら俺がそうなりたいと望んだからさ」
まーた、変な理論を展開してるよコイツ。
俺は、もう心底うんざりだった。豪気しかり、コイツしかり。こういうヤツらは、自分を中心に世界が回ってるとでも本気で思ってるのだろうか。
天動説もビックリな自動説である。
ああ、ちなみにだが自分が動く方の自動説ではない。(自分)を中心に(動く)と思っている傲慢さをさして自動説である。実際には自分自身がブレブレに動きまくっているくせに、自分が世界の軸だと思ってるあたりも皮肉ってみた。
「それによ……今回の作戦は、それだけじゃねぇ」
「?」
「俺には有益な手駒がいるからよぉ」
ニチャリと嗤う君塚に対し、俺は何かよからぬ雰囲気を感じ取る。
「は? なんだそれ――」
が、そのときだった。
「ただいまより、《ハンティング祭》開幕します!」
折り悪く、開始を告げる合図が鳴る。
それに伴って、生徒達は一斉にダンジョンの奥へと流れ出した。
「へっ、じゃあなポンコツ。せいぜい頑張れや」
そう言い残し、君塚は取り巻き達と共にダンジョンの奥へと消えていった。
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