第28話 六年越しの再会
《翔視点》
――時間は、少しばかり遡る。
――15階層に残っていた人達を助け出した直後だった。
低い振動音が断続的に聞こえてから、俺は慌てて索敵スキルの範囲を変えた。
今まではこの階層一帯を広く確認する形だったが、それを下方向にも拡張させる。
「っ! まずいな!」
俺は思わずそう口に出していた。
17階層のほぼ真下に位置する辺りで、高嶺さん――かのんと、もう1人。たぶん、昼間話し合っていた少女が、巨大なゴーレムに襲われている。
なんなら、今まさにその豪腕を振り下ろすところだった。
状況は、一刻を争う。
一々階段を降りている余裕などないし、駆けつけてから攻撃しても、間に合わない。
ここはもう、あれしかない。
本来はダンジョンの壁を壊してはいけないというルールがあるが、何度も言うが今は有事。
お叱りを受けるなら後でいくらでも受けてやる!
「間に合ってくれ!」
俺は空に手を掲げる。
それに応じるように、巨大な弓矢が天井付近に出現した。
赤いオーラで象られた極大の炎が、上空で威力を溜、放たれた。
“
どっかのバカを失禁させるためだけに放った、超極大の魔法矢が、直下の地面をえぐり取っていく。
ただし今度は、威力を落としている。
こんなバカデカイ弓矢を威力上限で放ったら、“生還の指輪”が機能しない現状で、助けるべき人を殺してしまう。
それに、そんな極大のエネルギーが溜まるまで悠長に待っている時間はなかった。
それでも、威力は十分過ぎるほどだった。
赤い燐光が散った後、目の前には大穴が空いていた。
そして、下には片腕を吹き飛ばされ、後ずさるゴーレムと――2人の少女がいる。
そのうちの1人――美しい金髪を持つ1人の少女が、海のように深いブルーの瞳から ぼろぼろと涙をこぼしながら、「かっくん!」と叫んでいた。
ああ、確定だ。あのとき、彼女を泣かせてしまった理由。その答えが間違っていなかったと確信した俺は、彼女の方へ微笑んだ。
もう、何も心配要らないと伝えるように。
「ごめん、かのん。遅くなった」
そう告げると、高嶺さん――いや、かのんは一瞬驚いたように目を見開いて、だがすぐに感極まったような表情になった。
――本当に、随分すれ違ってしまったと思う。
でも、だから。ここから先は、ハッピーエンドしか許さない。
俺は、巨大な穴の縁から飛び降り、手負いのゴーレムの前に立つ。かのんともう1人の少女を、背に庇うようにして。
「っ! 気をつけて、かっくん! ソイツ、再生する!!」
かのんは、思いだしたように叫ぶ。昔のように、距離の近いタメ口で話してくれるんだなぁ。などと感慨に耽っている暇はなかった。
彼女の指摘通り、ゴーレムの右腕がボコボコと膨らんで再生を始めていた。
なるほど。
これは一筋縄ではいかなさそうだ。しかし、彼女がこの強化版ゴーレムの再生能力を知っていたということは、つまり――
「コイツと、今の今まで戦っていたんだね」
「え? う、うん……でも、攻撃しても全然意味なかった。情けない限りだよ」
「いいや、そんなことはないでしょ」
自嘲気味に言うかのんへ、俺はそう即答する。
よく見てみれば、ゴーレムの関節に継ぎ目というか、いかにも再生した跡っぽい部分が見て取れる。
路地裏で何もできずに泣いていた彼女は、恐怖で押し潰されそうな状況の中、勝てないまでも状況を打破する努力を怠らないまでに成長している。
だから、意味がなかったなんてことはない。現に――
「現に、かのんが強くなったから、こうして俺が間に合ってる」
「っ!」
すぐ後ろで、息を飲む音が聞こえる。
――と、なんとなく端から見たら良い感じの雰囲気に見えるだろうが、実はちょっとした雑音がさっきから混じっていた。
それは、かのんの隣にいるツインテギャル風少女である。
「え!? ちょちょちょ、ちょっと待って!? もしかして私死んだ? それとも何か都合のいい夢見てる? だってこんなあまりにも王道というかテンプレ過ぎる展開にそうそう立ち会う? てか「かっくん」て、うっそでしょ!? あの今一番HOTでNOWなアーチャーが乃花の思い人!? は、リア充爆発しろちくしょう」
――非常にやかましい。何気に血だらけの状態なのに、意識は大丈夫なあたり、不幸中の幸いといったところか。
だが、かのんと俺の関係を知った上で変な誤解をしているとかいう、一番ややこしいパターンみたいだ。しかも、俺の正体は当然のように例のアーチャーだと知っている。
「はぁ……とりあえず、後でちゃんと誤解を解いておかないとな」
そうこうしている内に、ゴーレムの右腕の再生が完了する。
怒り狂った無機質な咆哮が、辺り一帯の空気を震わせた。
とりあえず今は。目の前の再生チート持ちゴーレムを片付けるとするか。
俺は弓矢を素早く構える。
それと同時に振り下ろされる、巨大なゴーレムの拳。
戦いの火ぶたは切られた。
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