第7話 迷惑パーティーと戦います
所詮、 “弓使い《アーチャー》”など、威力の低い単発攻撃しかできないだけの弱小ジョブ。懐に飛び込んで剣を一閃するだけでジ・エンド。
などと、豪気は本気で思っていたのだろう。
「クソが! どうなってやがる!」
豪気は荒い息を吐きながら、忌々しそうに舌打ちをした。
戦闘開始から1分。互いに直接的なダメージは負っていないが、明らかに体力を消耗して劣勢に立たされているのは豪気の方だ。
「だぁああああああああ!」
豪気は雄叫びを上げながら、一直線に俺の方へ駆けてくる。
流石に個人ランクAの冒険者なだけはあり、その動きは迅速。
瞬く間に彼我の距離が詰まる。が――
俺は弓に素早く3本の矢をつがえ、空へ向かって放った。
それから更に矢を4本取り出し、引き絞る。
照準は豪気――ではなく、やや右斜め前へ。
引き絞った手を離した瞬間、音速を超える速度で4本の矢が飛ぶ。
「はっ! どこ狙ってやがる!」
しかし、豪気は並外れた反射神経で左へ飛んでそれを躱す。
着地して勢いを殺し、俺の方へ再び肉薄するための溜時間を作る。それが、俺の狙いだとも気付かずに。
「豪気のバカ! 足を止めるな!」
「っ!」
横で見ていた瀬奈が叫び、豪気はそれに気付くがもう遅い。
咄嗟に飛び下がったが半瞬離脱が間に合わず、空から降ってきた3本の矢のうち1本が豪気の左足に直撃した。
「あぐっ……!」
ダメージを負ったことで、豪気は苦悶の表情を浮かべる。
いや、ダメージを負った肉体の痛みだけではないだろう。
「悔しいか?」
「な、に?」
「バカにしていたクソ雑魚弓使いにいいようにあしらわれて、一向に近づけない。攻撃の一つも当てられない。正直、期待外れもいいとこだよ」
「く、そがぁ!!」
逆上した豪気は、我武者羅に剣を振るう。
その瞬間、透明な刃が俺へ向かって飛んで来た。が、俺は身体を捻ってそれを躱す。
戦闘開始から今まで一向に距離を詰められず、一発も当てられていない。あまつさえ自分が最初のダメージを貰い、俺に煽られたことで冷静な判断ができずにいるんだろう。
飛ぶ斬撃も、ただ怒りにまかせて放っただけならば、見切って避けるのも容易い。
「ちっきしょう! あんなクソ雑魚野郎に、やられるわけにはいかねぇんだよぉおおおおおおお!!」
喉の奥底から振り絞るように雄叫びを上げ、豪気は一直線に俺へと走り込んでくる。
その挙動は、誰が見ても単調で、稚拙で、ただただ負け犬の遠吠えにしか見えなかった。
「隙だらけだよ」
一直線に突っ込んでくる豪気の胸元をゴーグルに表示されるレティクルの中央に合わせ、俺は一切の慈悲無く矢を放った。
「ひっ!」
恐ろしい速度で飛翔する矢を避けることもできず、豪気は恐怖に顔を歪め――
「“ファイア・ボール”!」
そのとき、轟! と音を立て、豪気の胸元に迫った矢を魔法の炎が焼き尽くした。
「ひ、ひぃっ!」
腰が抜けたらしい豪気は、情けなくも尻餅をついた。
そんな豪気から視線を外し、火球が飛んで来た先を見る。
案の定、赤髪でそばかすの少女瀬奈が、魔法の杖を構えて俺を睨んでいた。
「悪いけど、全員揃ってクリアっていうのが、今大会の条件でね。そいつをやらせるわけにはいかないの」
「条件、ね」
「何が不満なの」
「いいや別に。あんた達らしいなと思っただけだ」
訝しむ瀬奈に、俺は淡々と答えた。
仲間だから失うわけにはいかない、などと言わないあたりが実にコイツ等らしいな。
「そう。言っている意味はよくわからないけれど、喧嘩を売られてることだけはわかったわ! “アイス・バレット”――十連射!」
瀬奈は、真横に魔法の杖を振るう。
すると、その軌跡に氷の弾丸が10個出現し、俺めがけて突っ込んで来た。
「きゃははははははは! あんたが技術とアイデアで勝負できる人間だってのは十分わかったわ! けど、いくらあなたでも魔法の十連射は対応しきれないでしょう!」
冷気を纏った十発の弾丸が、高速で迫り来る。
が、俺は矢筒から同じく10本の矢を引き抜き、一斉に弓につがえた。
ぎしぎしと音を立てて弓が力を蓄える。
「たかが魔法の十連射で俺を落とせると思うな!」
右手を離すと同時に、溜め込んだ力が一気に解放され、10発の矢が氷の弾丸を迎え撃つ。
ドガガガガガ! と凄まじい音を立てて、降り注ぐ氷の礫に矢が真正面から激突し、まとめてたたき落とした。
「そ、そんな! 十発同時発射……それも、ピンポイントであたしの魔法を全部叩き落とすなんて! “弓使い《アーチャー》”は“
目の前の現実が受け入れられない瀬奈は、頭をブンブンと振る。
彼女の言うことは、概ね間違ってない。
弓矢など連射力は低いし、威力も弱い。接近戦は後衛職である“
でも、連射ができないなら一度に複数の矢を狙った場所に当てられるよう訓練すれば良い。接近戦が苦手なら、接近されないよう工夫すればいい。
ただ、それだけの話である。
「くっ! でも、まだよ! 弓矢には威力が低いという決定的な弱点がある! 消費MPごとに威力を変えられる魔法とは違ってね!」
自分の心を奮い立たせるように叫びながら、瀬奈は杖を構える。
その先端に、膨大な魔法の光が集まっていく。残りのMPを全て消費してでも、俺を倒す気らしい。
先端に集まる光の弾が、瞬く間に肥大化していく。
「どれだけ矢を束ねて威力を底上げしたって、この攻撃は相殺できないわよ! あんたの攻撃ごと、真正面から溶かし尽くしてあげるわ!!」
瀬奈はそう宣言し、ありったけのMPを解き放った。
「消えろ! “イクスティンクション・ブラスター”!」
刹那、眩い閃光が視界を焼く。
残りのMPを全て犠牲にして放つ極大威力の光線が、世界を真っ白に染め上げ、光の
「確かに、これはどれだけ矢を束ねて迎え撃っても、これは相殺できないね」
「当たり前よ! “弓使い《アーチャー》”ごときの弱小ジョブに、最初から勝ち目なんて――」
「でも――」
白く染まる視界の向こうに立つ瀬奈を見据え、俺は言葉を続けた。
「《“弓使い《アーチャー》”の攻撃手段が「矢」しかないなんて、一体誰が言ったんだ?》》」
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