ご安心下さいまし。私は義弟の恋愛事情なんざ全くもって興味がなくてよ?

蒼空。

第1話 プロローグ。

 今は昔まだ「魔法」があった時代。


 人々は生活の一部として魔法と共に生きていた。


 だけど…時代が流れいつしか「魔法」を使う事もなくなり廃れ忘れた頃。


 人々は「魔法」を頼る事はなくなった。


 今では、本の極一部のそれも貴族の中だけとなっている。 私の家系がそうだ。


 バレンタイン伯爵家の次女に産まれ父親譲りの「回復」系の魔法を私と姉のアデレードは使える。


 騎士団の専用医師をしている父の「力」はとても優秀で、死人以外なんでも「回復」させる事が出来るんじゃないかと言われていた。


 けど…どれほど父の力が凄くとも、家族の怪我や病気は別の話し。


 そりゃ、仕事で常日頃から飛び回っている人だもの、殆ど屋敷に帰る事はない人だわ。


 母が病気で倒れてから尚更、屋敷には帰る事がなくなった。


 元々体は強い方では無かった母が姉を産んで私を出産した後、益々床に伏せる事が多くなったって姉から聞いた。


「アンタを無理に産んだから」見た目が清楚な姉から、想像が付かない棘のある言い方をされる時も偶にあった。


 最初は、虐げられた事に酷く悲しんだ時期もあったけど、姉も母親の体を心配がする余り口が勝手に出でしまうんだと私は思う様にしていた。


 もし、私が姉の立場なら同じ事を言っていたかも知れない。


 だって…普段は私には優しい姉なんだもの。


 母の容態が芳しくないから苛立っているんだ。


「ならば私が」父親譲りの「回復」系魔法が使えるなら、私が母を治せば良いんだって思い一生懸命「医療」について猛勉強をした。


 ただ「回復」系が使えるだけでは駄目。 特に母の様に何の病気でどの辺が、悪いのかを把握していなきゃ。ただの「力」の無駄遣いになってしまうから。


 だから、朝・昼・晩と昼夜問わず只管勉強をし続けた。


「お母様の病気は子宮癌だと分かったわ。これでお母様を救える!」 だけど、その願いも虚しく母は二度と目を覚ます事はなかった。


 私が15歳。姉アデレード16歳の時だった。


 それから母が他界して5年が経った、ある晴れた昼下がり。父は突然客人を屋敷に招き入れ、私達姉妹二人を客室に呼んだ。


 私を呼びに来た私専用メイドのアンは、口を池の魚みたいにパクパクさせ慌てている様子。


「アンったらお父様が帰って来たくらいで何も口をパクパクさせなくても良いじゃない?そう言えば誰か来たのかしら?随分と屋敷が騒がしいのだけれど?」


 部屋で本を読んでいた私に「良いから早く来て下さいましセレスティア様!」読みかけの本を取り上げ腕を引っ張って行く。


 姉のアデレードも私と同じ様に言われたのか。姉も今どう言う状況なのか把握していないみたいね。


 客間の前で、乱れた服を私と姉のメイドが其々身形を整え終わるとそれを見ていた、執事のエリックが扉を数回ノックをし部屋の中に居る父に合図をしていた。


「お嬢様方。今日は特別な日になるかもしれませんぞ」エリックはそう言うと「入りなさい」中から父の声が聞こえる。


「失礼致します」 ギィ…ッと扉を開き入る事の許可を得た私達姉妹の目の前に映ったのは。 まるで物語の住人が現れたんじゃないかってほどの、とても綺麗な男女が此方を見ていた。


「まあ!貴女達がスミレの娘さん達ね?随分と大きくなって今じゃすっかり立派なレディーね」


(スミレ…母の名だ。母を知っている人よね?)


 母の名前を呼ぶその女性は、薄い茶色の長い髪に蒼い瞳をしていた。


「二人共挨拶をなさい。ダリア・エドモンズ夫人と御子息のルイ・エドモンズ氏だ」


 父の紹介の名でハッとした姉のアデレードは「まぁ!エドモンズ様と言えばあの「戦場の鬼人」と呼ばれた騎士団長の…」


人のご家族だ、2年前に戦場で逝った名誉騎士だったよ」父の声が低く悲しげな顔をする父にズキ…ッと刺さる。


(お父様もそんな表情をなさるのね?お母様のお葬式にも出なかった人が)


  父は母の葬式には参列はしなかった。


 喪主の代理で執事のエリックが代わりに努めていたのを、今でもハッキリと覚えている。


 ーだから私は父がキライだ。


「お前達も挨拶をなさい。今日から私達の新しい家族になる人達だからな」


『………はっ?家族?』思わず姉のアデレードとシンクロをしてしまった。


 てか、そりゃするでしょ! 「お父様っ!?一体どう言う事なんですの??お話の意図が全く見えておりませんけど?」


「セレスティアの言う通りですわ?これは一体」


 ちょっと待って?家族?家族って…つまりこのダリア夫人と再婚するって事??


 流石に自分勝手な父に対し、私は形振り構わず食って掛かる所を、姉に腕を捕まれ止めたかと思えば。


「お見苦しい所をお見せ致しました。ダリア夫人にルイ様。私アデレード・バレンタインと申します。以後お見知り置きを」 満面の笑みでカーテシーをし、そりゃもう完璧な令嬢を演じている。


「………セレスティア」姉に続き私も挨拶をしろっと無言の圧を掛ける父に負け。


「…セレスティア・バレンタインでございます」渋々カーテシーをすると。 私の頭上から「ぷ」と蔑む笑いが聞こえた。笑っていたのはダリア夫人の息子。ルイだ。


「ルイッレディーが挨拶しているのに笑うだなんて…なんて失礼なの!」


「あー…っいやゴメン母さん。だって名前と風貌が合致しなくて…つい」


 つい?ついですって!?ルイが話す台詞にカッと赤面したが、確かに彼の言う通りかも知れない。だってー。


 今の私の体系は令嬢とは呼べないほど、ぶくぶくと太っているし。


 容姿端麗な姉アデレードの妹とは違うもん。言われても仕方がないわ。


「そんな事ないわ?セレスティア貴女はとてもチャーミングな口元にホクロを持っているわ。口元のホクロは魅力的でとてもセクシーよ?ね?ルイ」


「セクシー…ねぇ」


 クスクス笑う生意気なルイに、夫人はフォローしてくれているのが分かるけど。


 帰ってそれが(…ダリア夫人。折角のフォローが帰って虚しくなります)と悲しくなってしまう。


  身内を小馬鹿にされているのに対し、父所か姉でさえ見て見ぬふりをしていると言うのに。


 コイツッッッ絶対に私と馬が合わないって言うか、合わせる気が無いってのがヒシヒシと伝わって来る。


 だって、姉のアデレードは彼を一目見た瞬間。見惚れていたのは分かったけど、肝心なコイツは最初から私達…いえ。私に対し敵意を剥き出していたのが分かっていたわ。


 そんなコイツを「今日から家族だ」なんて言う父の頭は化石になってしまったんだ。 母が亡くなり新しい後妻??とその息子を連れた事は絶対に許せないから。


 なによりこんな生意気で中身が無い残念イケメンとは関わらない方が身の為ってもんだわよ!





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