~セブン~(『夢時代』より)

天川裕司

~セブン~(『夢時代』より)

~セブン~

 陽気な雰囲気(ムード)に気軽に打たれた春の日の事、俺の姿はそれまで通(かよ)ったD大に居り、明るく仄かな〝お天気ムード〟が何処(どこ)とは知れずに喝采され得て、一人の友人・辰巳の脚(あし)など気楽に捕まえ用事を射止めて、彼の話を心豊かに聞いて遣った。俺の思惑(こころ)は大学(ここ)まで来るのに成る程色々経過(とき)を観(み)て来て用心深く、一寸やそっとで自分の心中(こころ)をひけらかさぬ程、未熟な定めに揚々燥いで凡庸に在り、友人から成る幾多の場面をこれまで識(し)り得た生活模様へ薄ら準え覇気など保ち、今日の朝陽が何処(どこ)から来るのか、静かな表情(かお)して期待して居る。大学(そこ)まで辿って自分に纏わる周囲(まわり)を見遣ると、色々豊かな景色など知れ、仄(ほ)んのり浮んだ桜並木は人集(ひとだか)りをして花曇りを観(み)せ、遠くに浮べた人の活気は淡い熱など静かに負い行く自分の界隈(そと)など如何(どう)でも好いほど狂い咲き活き、俺へと対せた現行(いま)の麓へ一つの覚悟を仄(ぼ)んやり放って、自分と景色が同化して行く〝二重の景色〟を飾った様(さま)にて、彼等を観(み)て居た俺の向きには、彼等に出会って話したい、等、静かな覚悟がやんわり固まり自重を呈した。辰巳とは又大学(ここ)で知り合い、一年頃から知己と成り得た若い紳士で明朗でもあり、歳の程度は十(とお)程離れて在るのに、静かに気構え、身構え、自分の調子をはっきり立たせて独歩に呈する自己(おのれ)の労苦は誰にも採れ得ぬ強靭(つよ)さが具わり落ち着く様子で、彼の周囲(まわり)に彼の気質にほとほと懐いた友など在ったが、俺の興味は俺に対して自然に落ち着き、彼が呈する身辺(あたり)の友には御供の体裁(かたち)をくっきり見抜いて馴れる事無く、揚々飛ばした文句(ことば)の穂先は何時(いつ)でも辰巳にほっそり向けられ、俺と辰巳は大学(そこ)に居座る限りを節目に互いに近付き互いの意見(おもい)をほとほとぽとぽと、投げ合う事など努めて行った。煌びやかな陽(ひ)が学舎を構えた前庭辺りをきゃっきゃと歩行して行く女子の頭髪(あたま)を軽く射(しゃ)す頃(とき)、俺と辰巳は頃合い計らう哀れな展(ながれ)を互いに見て取り仄(ぼ)んやり浮き立ち、微笑(わら)って始めた会話(はなし)の当てにと、これまで観(み)て来た髪の形や人間性など、人に就いての身軽の話を独言豊かに開始して行き、そうした会話に辰巳の意見(おもい)は、

「坊主頭は性(しょう)に合わずに退屈であり、はた又緩んだ口元(くち)から健気に流行(なが)れる無能な交響(ひびき)は自分の記憶も疎らにして行く気力が在るから、相対(あいたい)する際、自分の過失へ揚々近付き敵いやしない。坊主頭は俺が憶えた性(しょう)に似合わず、頭の良くない低俗気取った言動(うごき)さえ知れ、俺の思惑(こころ)はこうした奴等を心底嫌って寄り付けないのだ。俺は坊主頭を気取れる奴らがこうした理由(わけ)にて嫌いであった。現行(いま)の俺にもこうした経過はそれほど変らず根付いて在って、坊主頭を赦す事無く俺の熱気は君の前方(まえ)でも俺の目前(まえ)でも全く変らず煌々(きらきら)している。…好く好く解って大目に見てくれ。」

等言う自分勝手を絵図へと仕上げ、それでも〝熱気〟は怯む事無く辰巳(かれ)の身辺(あたり)で首(あたま)を擡げて気丈を振舞う。辰巳(かれ)の活気は熱気を取り添え勝気を勝ち取り、中々倒れぬ未熟の強靭(つよさ)を宙(そら)へと投げ出し幻想(ゆめ)を観ていた。俺と辰巳を程好く離れた学舎の裏手に、喫煙所へ行く何時(いつ)もの男子がちらほら続いて陽気に在った。そうして続いて男子の内(なか)には誰に対する主張を構えぬ坊主頭の醤油顔など、疎らに浮き立ち透って在った。彼等の衣服は白と黒との対照され得る性差の交響(ひびき)が狭い通路で所狭しと大鳴(おおな)り続けて、俺と辰巳を少々射止めて圧倒して行く微弱(よわ)い暴力(ちから)が分別顔する落ち着く男女を我が物とする。薄ら仕上がる花曇りは唯五月晴れほどお堅い空へとすうっと上がって曇りは取れ活き、堂々巡りの初春(はる)の萌芽に自体(おのれ)を呈せる立場を拡げて、俺の目前(まえ)から宙(そら)へ失(き)え行く自然の気運(ならび)に沈黙して居た。何時(いつ)もの調子で辰巳(かれ)の身辺(あたり)に〝沈黙〟拾える初春(はる)等在ったが、俺から観え行く辰巳(かれ)の調子は何分(なにぶん)無いほど両手を拡げて五月晴(そら)を仰げる〝冷静〟なんかが仄々仕上がり無重を擁し、体裁(かたち)と立場を悠々失くした辰巳(かれ)の〝発揮〟は何処(どこ)へ在っても若気に至って完熟する等、俺の脳裏は辰巳(かれ)の仕上げにほとほと独歩(ある)いて瞑想する儘、辰巳(かれ)が退(の)け得るしどろもどろの悪言多言を思惑(こころ)の内にて決着させ行く魅力を晒して気取ってあった。これまで活き得た俺を象る後光(ひかり)の内には、俺から離れた晩春(はる)の芳香(かおり)が揚々豊かに流行(なが)され始めて俺の行く先を想う疲れた果(さ)きなど、束の間呈せる初春(はる)の迷走(はしり)に俺の遣る気は化かされ始め、社会人から東京・関西二つの地区にて、自分の居場所を活き活き求めた過去(むかし)の記憶を自ら掌(て)にして呆(ぼう)っとして行き、自分の周囲(まわり)に学舎の周辺(あたり)に、揚々集える若い活気が各自の芽吹きを謳歌する頃、俺に失くされその身を細めた健気な熱気が哀しく鳴り出し経過を刻み、俺の身内(うち)では如何(どう)する間も無く経過(とき)を重ねる人間(ひと)への定めが情緒豊かに仕上がり始める蛻の表情(かお)などぽろっと零れて地道に固まり、不動の記憶が欠伸をしながら俺を擁して、事々吹くまま初春(はる)の宮中(みやこ)に散漫に在る。年功序列を努々謳えた社交の内では向きに成ったが、若気が謳得る宮中(みやこ)の内では〝土台〟を掴めず散行(さんこう)して居り、俺を熱する熱い木霊は記憶の内から伸びて行くのに、若気を衒った清(すが)しい者には一切通じぬ年齢(とし)の厚みが白壁を成す。完熟して行く辰巳(かれ)の総身は会話をする毎熱気を上げ行き上気して生(ゆ)く分身(みがわり)なんかがふっと失(き)え行く暗(やみ)を見せ付け宙へと翻(かえ)し、学舎の横手に居残る我には〝活気〟の為にと何にも掴めぬ哀れが小躍(おど)って降参して活き、空気(もぬけ)に透った自分の記憶を具体(かたち)を取り添え仕上げて行くのは、現行(いま)へ懐ける脆弱(よわ)い肢体(からだ)に変らないのだ。辰巳(かれ)の立場と自分の立場を置換出来得る新たの場所など隠見(いんけん)しながら、それでも自己(おのれ)の位置など酷く気にして立脚させ行き、若体(じゃくたい)呈する未熟を愛して悶絶して在る。こうした余韻を学舎で執られる講義の内へと固く落して発揮して活き、自体の延びなど成果を掲げて散見しながら、可なり以前(まえ)から結託して居る自然と我との調和の程度(ほど)など〝若さ〟に独歩(ある)ける温(ぬく)みを睨(ね)め付け傍観して居た。孤独の姿勢(すがた)を如何(どう)にも落せぬ自体の不憫を嘆いて在っても、如何(どう)にも想えぬ狭い境地に徘徊して行く一匹孤狼(いっぴきころう)の獣の謳歌がどんどん翻(かえ)って愛撫され活き、経過を隔てる自分の総身にほとほと根付ける哀れな傷など癒して行く内、若気が生育(そだ)てるお堅い〝派閥〟が大団気取って〝一つ〟と成るなど、この俺目掛けて強靭(つよ)い中枢(からだ)が一つの教室(ばしょ)にて出来て行くのが末恐ろしさを巧く掲げて俺の孤踏(ことう)を傍観しつつも朗笑(わら)って在った。ごろりと反転(ころ)んで俺の周囲(まわり)へそれでも集まる知己を見定め安心して活き、自分の表情(かお)など血色豊かに誰にも対せる丈夫な立脚(あし)など揃えて在っても、つい又友への供など、俺の寝床を酷く揺るがす自然の腕力(ちから)に圧倒され行き、自体を打ち行く黒い枷など何にも映らず明朗仄かな気色が生育(そだ)って微笑んでるのに、俺の孤独は孤踏(ことう)に暮れ行く孤高を連れ添い、〝一つの教室(ばしょ)〟にて〝派閥〟の絆を自ら離して〝温(ぬく)み〟を忘れる孤独を手に取る勇気の糧には、どれだけ踏ん張り努力を知っても、結局辿れる企図へ対せず届かずにある。それ故、学舎を望める広い場所でも狭い教室(ばしょ)でも、俺から発する辰巳(かれ)への姿勢(すがた)は立場を忘れず気丈へ有り付き、明朗豊かな表情(かお)など携え、明るい環境(ばしょ)でも明度の具合へ同化するまま自分の調子を明るくして活き、辰巳(かれ)から伝わる会話(はなし)の具合に自念を抑えて彷徨して行き、おべっかなど識(し)り、二人の会話を崩さぬ程度の歩調(ペース)を仕留めて辰巳(かれ)の主張を出来るだけ採り朗笑(わら)って在った。学舎の横にて陽(よう)に巻かれる女子を観ながら涼風(かぜ)に揺らめく頭髪(あたま)を掻きつつ俺も静かに、

「坊主頭は、んー、何か…あんまり頭が良さそうには見えへんかなぁー…」

等言い、辰巳(かれ)の独語(ことば)に妙に対する下らぬ幻想(ゆめ)など仄かに掲げて仄(ぼ)んやりして在り、それを観て居た何時(いつ)しか留(と)まった辰巳のお供は引き金引かれた楽への弓矢を上手に放って場を取り囲み、辰巳(かれ)に対せる俺の元気を喝采するほど細目に見て取り囃して行って、その場の雰囲気(ムード)気楽に落せる身軽の〝一矢〟を観賞して居た。彼等が上げた笑い声には緻密な活気が根付いて在ったが、誰に見得ても揚々呈せる雰囲気作りが事々根付かせられ得て愉快にも在り、可なり大きな笑い声でも、それを気取って嫌悪して行く人の群れには露とも出逢わず整ってもある。俺の心身(からだ)はこれまで独歩(ある)けた独自の経過を記憶を通して覗き見た後、〝彼等〟が呈した経過(とき)の渦へと談笑連れ添い這入って行って、〝彼等〟の陽気を更に活気付け得る諸刃の言(ことば)を用意するうち自力の活歩を〝彼等〟へ沿わせて謳って行った。

「何(なん)か坊主頭を見ると、多分他の事をイメージすんねんな、野球とかまぁ、何らスポーツの類(たぐい)で、勉強するより体使う方を意識させられるから、能力自慢じゃなくて体力自慢になって、頭悪い、ってなんねんやろな」

俺の言(ことば)は文句を気取って、後(あと)から後からどんどん付け足し始める事後の修飾(かざり)に粘着し始め、空気(もぬけ)を飛ぶうち俺から発(た)ち往(ゆ)く総出の意識は、取り留め得ぬ程「表裏(ひょうり)」を定めた自分の独語を解(と)いて行きつつ、裏腹仕立ての安い言(ことば)を巧みに見て取る〝彼等〟の懐(うち)へと放って在った。〝彼等〟から見た俺の姿勢(すがた)は辰巳(かれ)の目前(まえ)での煌びやかさをして充分運べる文句(ことば)の選びに〝緻密〟数えて感嘆して居り、俺から覗ける〝辰巳〟の姿態(すがた)は俺から放(ほう)った文句(ことば)の目数(めかず)にそれ程興味を上手く示さぬ退屈(ひま)な衝動(ふるえ)がやんわり霧立(きりた)ち、恰好(かこい)を付けない妙な分業(ノルマ)を俺と〝彼等〟に仄(ぼ)んやり仕上げた〝辰巳〟の姿勢(すがた)が浮び上がった。辰巳の孤独は孤独ではなく煌びやかであり、無視の出来ない律儀な派閥が俺の周囲と〝彼等〟の周囲へやんわり降り立つ契機を見せつつ散在して在り、俺と辰巳の居座る場所には常に失(き)えない陽(あかり)が灯って陽気を連れ添い、何時(いつ)しか違(たが)えた場所の映りは学舎横から教室へと行き、〝彼等〟を含めた俺と辰巳の気色の内(なか)には切っても切れない人気の陽(ひ)の輪(わ)が光輪(ひかり)を晒して君臨して居た。

 そうした最中(さなか)に俺と辰巳の二人の姿勢(すがた)を静観して居た女子の気配が、呆(ぼう)っとしている後光(ひかり)の内へと紛れ始めて、俺と辰巳は周囲(まわり)に集(つど)った多勢を気にして笑って在ったが、次第に仰け反る空気の余韻(のこり)が狂々(くるくる)廻って語らい出して、辰巳を退(しりぞ)け、俺の姿勢(すがた)が壇の前にて皆へと目立ち、自分を観て在る〝女子〟の姿勢(すがた)を詮索し始め、辰巳(かれ)から程好く離れる無為の孤独を、如何(どう)でも欲しがり〝女子〟へ阿る身分の相異に想いを馳せ行く苦労の途次へと従い出した。〝女子〟の姿態(かたち)は丸々肥え行く独気(オーラ)の自流(ながれ)に我執を込め生(ゆ)く〝新たの光景(ひかり)〟を揚々並べてほっそりして在り、没我を呈さぬ不思議な迷いが〝君の前方(まえ)から退くから…〟と、俺から外れた外界(そと)の雰囲気(オーラ)へぐいぐい根付いて根深(ねぶか)を伝(おし)え、〝思惑(こころ)の白紙〟へ軌道を添え付け苦労をするから、しっくり操(と)れない柔い精神(こころ)が疼いて行く、等、俺の挑戦(ためし)を一つの教室(ばしょ)から外界(そと)へと遣れない〝苦労〟の水面(みなも)を〝自由〟に任せて固く弛ませ、俺の一滴(しずく)は〝彼女〟を憶えて瞑想して居た。彼女の名前は何時(いつ)か何処(どこ)かに落した名であり、俺の心身(からだ)が酷く奮えるD大教授の人渦(じんか)の内から無理矢理引き摺り出したのでもあり、彼女の細(こま)かは彼女の目前(まえ)にて透って佇む白壁(かべ)に象(と)られて複雑さえ観(み)せ、教授の立場を一つ離れた〝准教授〟へと、身元を落して輝いて居た。准教授へ迄その身を低めて俺の前方(まえ)へと並んだ彼女は、〝辰巳〟の引き行く人の山へと静かに辿って総身を落ち着け、嗜み豊かな国語の教師を心豊かに伝(つた)えた四肢(てあし)は耄碌して行く自然の発破を子供の態(てい)して隠した様(さま)にて、俺から離れた辰巳の影には、野退(のっぴ)きならない〝二人の温床(ベッド)〟が臨場豊かにほっそり立ち活き、過去を知り得ぬ淡い家畜は文句(ことば)豊かな固陋の〝刹那〟を上手く独歩(ある)ける夢想(ゆめ)を識(し)るうち眠たくなった。俺の掌(こころ)に仄(ぼ)んやり宿った彼女の態(たい)から、じんわり滲んだ汗の芳香(かおり)は〝盲導豊かな精神(こころ)の古巣〟を上手に着熟す名前であった〝西田房子〟の嘉名(かみょう)を採り得た、上品ながらに気品の鋭い鋭敏豊かな女性を呈する、佳人を想わす孤独の豊かな貴婦人でもある。そんな〝彼女〟を上手く騙せた一つの妙味はそうした〝佳名(かめい)〟に鋭く化(か)え出す青い表情(かお)など垂らせて行って、教室(ここ)へ集まる皆へ対する体裁(かたち)の裾には、苦労の絶えない奇妙の上手が、わんわん吠え生(ゆ)く男女の樞(ひみつ)をひっそり教えて享受して居り、俺に生れた〝新た〟な卑屈は飛び越えられない他人(ひと)の〝白壁(かべ)〟へとすんなり寄り付き藻掻いてあるまま彼女の感覚(いしき)を隅々捉える強靭(つよみ)を仕留めて死太く夢見た。彼女はそれから俺と辰巳(かれ)とが久しく微笑(わら)えた教室(ここ)での気運(はこび)を上手に操(と)る儘、後方(うしろ)へ下がった人塊(かたまり)等見て薄ら笑った機動(うごき)を見て取り横並びに延び、俺と辰巳(かれ)との立ち位置など観て静かに流行(なが)れた〝笑いの匣〟など暫く開(あ)け行く恰好(かたち)を気取って無頼に就いて、〝意味〟の判らぬ妙な仕草へ陶酔しながら人畜無害の犬歯(きば)を剥き出し明朗へと寄る。俺の独気(オーラ)は一度大学(ここ)から自然に流行(なが)れて白光を呼び、心身(からだ)の具合を世間へ置く内、社会に呑まれた妙な輝彩(ひかり)へ自体を逸して傾き始めて、あれ程嫌った〝偏見〟等への荒んだ思惑(こころ)を露わに吟味(あじ)わい我流に乗って、彼女の立ち得る立場迄への一通路(みち)を辿れる可能性(ゆめ)など見付けて揚々羽ばたき、彼女が識(し)り行く人間(ひと)への倣いに自分も準じて〝近付け得る〟など脆(よわ)く呟き努力(つとめ)を表し安堵を見て居た。社会人から拾い上げられ大学(ここ)へと入れた我が身の陰影(うつ)など久しく見るまま順々透った小さな空間(すきま)へその実(み)を滑らせ、うっとり透った他人(ひと)の活力(ちから)を机を並べる〝同期〟の姿勢(すがた)へ念押しするまま体裁(かたち)を従え努め独歩(ある)いては苦心を絶やさず、そうした〝同期(われら)〟と打ち解け得るのが現行(いま)へ流行(なが)れる自分の経験(かて)だと奮迅して活き、「明日(あす)」へ象る学生(いのち)の姿勢(すがた)は、村八分にせぬ身分の相異を心行くまで堪能して醒め愚かな行為を〝自分〟の代物(もの)へと決着するのが〝丈夫なのだ…〟と、俺の過失は彼女を見ずまま向きに捉えた両名を観て、傍観して行く〝白紙〟の母体を〝彼女〟に任せて失態を識(し)る。

 准教授に就く彼女の発声(こえ)には素早く通(とお)った棘の〝いろは〟が肩身を崩さず熱却(ねっきゃく)され行き、初めて透せる俺の体裁(かたち)は皆の目前(まえ)にて両手を挙げ得ず彼女を捕えた空間(すきま)の許容(うち)にて欠伸をするまま授業から出て活き活きする儘、伸び伸びして生(ゆ)く俺の才には不思議な独気(オーラ)が四方(しほう)を彩(と)り行く奇妙を幻想(ゆめ)見て妄想され得る彼女の興味を事細かに立て佳境を知って、

「こいつには未(ま)だ後光(ひかり)が在るな。大丈夫だな。」

とでも彼女の表情(かお)から火の粉の出るほど呟かせて行く初春(はる)の〝延び〟には、姿勢(すがた)を崩さぬ〝鬼神(おに)〟が化け生(ゆ)く不思議の空気を自然に取り入れ流行(なが)され始める夜気(よぎ)の魅惑も荒んで在った。西田房子は微笑(わら)って在った。彼女の体裁(かたち)は朗らで在りつつ、俺との間合いをしっかり取り行く気丈を呈して嘆いて在った。彼女を照らした初春(はる)の後光(ひかり)は俺の背後(うしろ)へこっそり佇み、人渦(じんか)へ呑まれた男女(かれら)の心地の気流へ伏した。如何(どう)して〝彼女の分身(かわり)の我が身〟が廃れ始める俺の体(たい)観てる朗笑(わら)って在るのか、括(てん)で判らず前途は曇り、辰巳と俺とに酷く分れた白紙の岐路には、「明日(あす)」へ華咲く〝豊かな彼女〟がでんと座って動こうとはせず空気(もぬけ)を晒して虚空を惑わす幾多の妄想(ゆめ)など手腕を講じて飾って在った。

 「明日(あす)」から成るのは〝死地〟へ赴く暗(やみ)の逆手が起案を講じた契機に有り付き、俺の浄化は教室(ここ)での努力を皆から離した白い優美(ゆうび)の徒労の四肢(しし)など、〝奮迅〟重ねた人間(ひと)との労苦が白体(はくたい)見せ行く薄い神秘(ローブ)を器用に象り輝彩(きさい)を咲かせ、「明日(あす)」を賄う地味な主(あるじ)は、自然に彩(と)られる弱い吟味を揚々操(と)り行き吸収する儘、俺の過去には〝彼女〟を気取れる自然(じねん)の古巣が活き活きして在る。西田房子は教室(そこ)へと集まる生徒を静めて悶々微笑み、昼陽(ひるび)の差し込む窓の外へと表情(かお)を出しては想起(テーマ)を独歩(ある)き、堂々巡りの講義の最中(さなか)に生徒へ向け行く問いの内には〝彼女〟の余裕(あそび)が悠々根付いて可笑しく在って、そうした気色は俺へは向かわず、涎を垂らせる文句(ことば)の無駄など、俺から離れた遠い陽光(あかり)にずんずん這入って土台を象(と)る内、窓辺に咲き行く薄い灯(あか)りは、俺の体裁(かたち)を随分小さく育ませ行く〝死闘豊かな気配〟を彩(と)った。吐く息の白い美女のモンクが〝彼女〟を捕えて離さずに居て、俺から離れた〝彼等〟の姿勢(すがた)は〝悶々豊かな彼女の灯(あかり)〟を如何でも豊かに靡かせ始めて崇拝し始め、俺から透った哀れな姿勢(すがた)を、彼女の前方(まえ)にて浮き立たせて行く小さな犠牲も払って行った。端正(きれい)に先立つ人間(ひと)との〝音頭〟は、頃合い計らう人間(ひと)との礼儀に揚々乱れた〝鬼神(おに)〟の面(めん)など被(かぶ)って在りつつ、西田房子の生徒へ対する質問等まで無聊を呈せぬ以前(むかし)の空慮(くうりょ)は飽きを観(み)ぬまま上々慣れ活き、西田房子は女性(おんな)の掌(て)を取り直ぐさま懐ける若い生徒に歩み寄る儘、俺の傍(そば)へは決して懐けぬ黒い外套(マント)を翻(かえ)す内にて、俺だけ違った課題を気取れた二重の空気に感嘆して居た。尻上がりに知る俺の〝温(ぬく)み〟は彼女から鳴る吐息の発音(おと)へと無体を報(しら)され具体を知り抜き、気長に延び得た俺の髪へは窓から差し行く身近な陽光(あかり)が如何にも斯うにも逸れて行かずに、皆の目前(まえ)では椅子に落ち行く二つの〝加減〟が行方を知らずにまったりして在り、俺の長髪(かみ)には鋏が入れられ、彼女の気に成る不問の泉へ投げ込まれていた。段々仕上がる俺の長髪(かみ)から無数に象(と)られる苦力(くりょく)の相(そう)など〝誰か〟の趣味にて揚々気取られ、追々仕上げる俺への気力はそうした〝誰か〟の脚力(ちから)の基(もと)から準じて離れぬ立派な〝相(そう)〟へと表情(かお)を顰める空間(すきま)の無いほど屈曲して行く孤独の社(やしろ)は俺の心中(こころ)へひっそり表れ、彼から宿らす無心へ追い付き輝きを観(み)て、恰好(かたち)の調う自然の流動(うごき)へ胡麻を擦るほど歪曲していた〝俺の皆への追想事〟など〝彼女〟を捉えた孤独の内にて離そうとはせず、〝悶々豊かな彼女〟の右手は〝屈曲していた我の感覚(いしき)〟を没我に観た儘、俺の精神(こころ)は彼女の中身を覗き識(し)る内、好く好く解(ほど)けた自分の片付く空間(すきま)を見て取り嬉しくなった。髪が落ち行く自分の目前(まえ)では、皆が朗笑(わら)える静かな空気が分岐し始め、以前(むかし)を辿れる〝未熟の独気(オーラ)〟が何処(どこ)となく居る夢想を連れ行く一塊(かたまり)など見て優遇され得て、俺から始まり、彼女へ落ち着く加速のシグマは、経過を並べた蘊蓄紛いの多弁の内(なか)へと企図を示さず、彼女と俺への歪曲(まがり)を仕留めて揚々豊かに悶絶して生(ゆ)く。俺の長髪(かみ)へと鋏を入れ込む男女の一組(ペア)など陽(よう)の輝彩(ひかり)を背中で止めつつ、逆さに映った下肢の部位など露わに撮られて、男性(おとこ)を除いた女性(おんな)の余力が俺の表情(かお)へと気力を付す儘、どでかい両腿(もも)など白く目立たせやおらを噛み活き、女性(おんな)が着付けたワンピの裾からにゅっと這入れる男性(おとこ)の掌(て)により内返しと成り、女性(おんな)の下肢に付された下着の白さは、薄く輝く身軽を乗せては愛露(エロス)を夢見た。愛露(エロス)の内から恋の仕上がる男性(おとこ)の煩悩(なやみ)は逆さに漏れて、女性の冥利が逆さに翻(かえ)って雪解けを識(し)り、男性(おとこ)の刺突(しとつ)を如何(どう)でも好いまま自分の陰へと引き摺り込むのに躍起を知った。女性(おんな)の花弁が〝雌蕊〟を呈して陶酔する頃(とき)、男性(おとこ)の小片(はへん)は体(たい)を離れて自体(おのれ)の微力に〝裏切り〟を知る。女性(おんな)の〝雌蕊〟が腿肉(にく)に埋れて自炊をする頃(とき)、流行(はやり)に誘われ巧く乗じた男性(おとこ)の腕力(ちから)は、未熟を知り抜き泥濘を観て、女性(おんな)の微温(ぬるさ)に悪態吐(づ)くほど清閑を問う。俺から派生(うま)れた男性(おとこ)の向きには、彼女を辿れた微温(ぬるさ)を携え懊悩に付き、彼女が示せる泥濘具合に女性(おんな)の投げ得る期待を退(しりぞ)け鬼畜を飼い付け、男性(おとこ)の威力を分力した後(のち)、〝彼女〟から成る脚力(ちから)の程度に分成(ぶんせい)させられ、幾度にも鳴く〝家畜〟と〝鬼畜〟の延命(いのち)の嘔吐は事細かに成る気勢の器量(うつわ)を逆手に採る内、俺の長髪(かみ)には程好く掛かった毛並(パーマ)が仕上がり流行(はやり)を見て取り、女性(おんな)の辛気(しんき)を彼女の根元へこっそり囲って朗笑して居り〝彼女〟の発音(おと)には俺へ対する加熱を呈して魔術師(マジシャン)を観た。

 髪の形に気を好くしながら俺の背後は後光(ひかり)の差し行く身軽の〝歩調〟に暫く絆され、宙を漂う〝未熟〟の気向(きこう)が一糸纏わず御多分に漏れ、〝俺〟と〝生徒〟の〝歩調〟の程度は随分気になる焼噛(やっか)み内(うち)にて白さに塗れた。

「これを見せればモテるだろう。」

等、俺の精神(こころ)へ巧く隠れた女体の動機は〝彼女〟に対せる器量豊かな白体(からだ)を揺るがし抑揚付けられ、〝彼女〟が呈する〝常識線〟へと、孤高を拡げて闊歩して行く〝向き〟の姿勢(すがた)を後光(ひかり)に化け得る成人(おとな)の固執へ換算した儘、俺の立ち得る〝生徒〟の立場は主従を見出し尽き果てさえせず、自分に居座る〝苦労〟の向きなど男性(おとこ)の向き等、ぴんと来ぬ内、女性(おんな)の両眼(りょうめ)に括と燃やせる憤悶(いかり)の成就を楯にした儘、女性(おんな)へ対せる俺の労苦は慇懃を観た。事細かな程、男女に居座る老獪・無知なる無益の算(さん)など萎(しな)んで燃え果て、俺が識(し)るのは男女の性(さが)へと対(つい)と咲き得る宙(そら)での無頼を奏でてさえ在り、孤独に居座る「男女」に漏れ得た可笑しな仕種は物憂きを観て、教室(ここ)が固陋の手玉を象り紋々足る内、ずっと解け入る両者の孤独を不思議に眺めて納得している。俺の分身(かわり)が〝得意気〟を識(し)る宙(そら)の内にて〝鼓舞〟を観たのは、自分の自体(からだ)が陽(よう)を取らずに空気(もぬけ)に溶け入る夢遊の調子を聴く頃に在る。分身(かわり)の人影(かげ)には俺の上気が遠く挙がって〝彼女〟に見惚れて房子を象り、房子の前方(まえ)へと後進して行く哀れな残骸(むくろ)を払拭するほど上気を逸して作法を仕上げ、無重の腕力(ちから)を肯定したのは孤高に置き遣る俺の分身(かわり)に何ら変らず繋がり入(い)って、教室(ここ)の小窓をとんとん叩いて仄(ぼ)んやり透った陽(よう)の温味(ぬくみ)へ対し、〝彼女〟の脆弱(もろ)さは俺の感覚(いしき)へ躍動して行く〝諸刃〟を着飾り暫く伏せた。教室(ここ)へ辿れる可なり以前(まえ)まで俺の脚力(ちから)は〝存分知らず〟の空気(もぬけ)を踏み活き土台として採り、〝存命知らず〟のからくれなゐには彼女の〝寝起き〟を行水(ぎょうずい)して行く幼い虚空が俺の精神(こころ)へ立脚する儘、〝彼女〟に対せた俺への残像(しるし)は〝生徒の立場〟を一掃して行き、〝本気知らず〟の白体(からだ)を着飾り懊悩して生(ゆ)く。俺の分身(すがた)は生徒各自の視点を捉えて陶酔し始め、陽(よう)の熱した小窓の周辺(あたり)を〝自分色(じぶんいろ)〟に化(か)え行幸して行き、身軽を調え死力を尽した〝大名音頭〟を、暫く鳴らせる〝一気〟を見て取り落ち着き大事にし始め、白体(からだ)へ根付いた〝彼女〟に対した〝淡さの雰囲気(ムード)〟を、暫く象(と)れ得る至難を見付けて独歩(ある)いて行けた。素早く衝動(うご)ける俺へと宿れた孤高の晴嵐(あらし)は、両脚(あし)を遣るのも億劫がりつつ、無敵を誇れる容易い独気(オーラ)に転々(ころころ)空転(ころ)がる気流(ながれ)を睨(ね)め付け、〝彼女〟へ相(あい)せる〝未熟〟を灯せる無欲の成就は何時(いつ)しか囃され、〝俺〟へと埋れた「人渦(じんか)の延命(いのち)」は〝陽(よう)〟に住み着く所々の道理(みち)の上にて、滅多に翔(と)び得ぬ孤狼(ころう)を擁して佇んで居た。西田房子は自分の着て居る衣類(ふく)の脚色(いろ)へと自分が制した教室(クラス)の無色(いろ)など無労(むろう)を咲かせて充分気取らせ、俺の分身(かわり)は〝分身(かわり)〟を呼ぶのに血色変え行く哀れな末路を充分読みつつ、自分へ課される群象(むれ)の脚色(いろ)など払拭され得ぬ私闘へ重ね、俺から離れた教室(クラス)の場面は〝俺〟の独気(オーラ)と結託されない無機の宙色(いろ)など悶々取り出し、流行(なが)れて行くのは俺の眼(め)に在る景色を化(か)え生(ゆ)く。人間(ひと)の頭上(うえ)での拙い言(ことば)は教室(クラス)へ流行(なが)れる小さな派閥を形成して活き、暗(あん)に塗れた女性(おんな)の女体(からだ)は男性(おとこ)を鞣せる至高の趣味など揚々気取って喝采され活き、孤独を見知らぬ幼女の姿勢(すがた)は房子からして直立して活き男性(おとこ)も女性(おんな)も一緒くたにして抑えて生き出し、若い男子と努々好んで会話を始める房子の情熱(ねつ)には、俺へと対さぬ怜悧な常識(かたち)が無言を潜ませ群下(ぐんか)に在った。

 嬉し恥ずかし徐(おもむ)ろ足る内、和んで華咲く揚々無血の孤独を彩(と)るのは房子の胸中(うち)からゆっくり上がった悶絶に在り、若い男子を難無く躱して陽(よう)の付け入る小窓の傍(そば)へと身を遣る術(すべ)には、若い女子への向きへの真面目が〝はあはあ〟言いつつその実(み)を紅(あか)らめ、関東人から関西人へと、虚栄と虚無とを見栄を背後に後光へ組ませて安堵を先取る稚拙な妖気が試算を取れずに解体され活き、仕方の無いまま俺へ埋れた人渦(じんか)の晴嵐(あらし)は〝虚無〟に見取れて女性(おんな)を卑下して孤独を従え、房子の表情(かお)から女子の表情(かお)から、何処(どこ)へも行けない異性の遊離がほっそり仕上がり固まり生(ゆ)くのを、両手に象る〝両の女性(おんな)〟へ延命計った杜撰を取るうち固まれない儘〝自分〟を終え行く俺の姿勢(すがた)が構築されては霧散を識(し)った。西田房子は関東生れの貴婦人である。上品足るまま時に伸び行く四肢(てあし)に任せて悶絶に活き、若い男女と俺の分身(かわり)を手玉に取り行く脚力(ちから)の程度(ほど)には、今まで通(とお)った関東生れの奇異が先立ち鼻水垂らし、俺に仕上がる体熱(ねつ)の白紙に何にも報(しら)さぬ気位等には、滅多な事変(こと)では逆立ち出来ない女性(おんな)の微力(ちから)が放蕩して在り本能構図(ほんのうこうず)を無暗に筋立て無難を仕上げ、過去に咲かない女性の完就(かんじゅ)は男性(おとこ)の虚無へと姿態を化(か)え行く冷たい自然(じねん)がしっかり挙がって〝ほほほ…〟と共笑(わら)う。微苦笑(びくしょう)なれども男性(おとこ)に仕上がる〝彼女〟に〝革命心(かくめいしん)〟には、男性(おとこ)から観た女性(おんな)の無駄への拙い化身は何程でも無く衰退して生き、過去に仕上がる〝革命心〟から現行(いま)へ止まらぬ無暗の〝囃し〟は、〝堂々巡りの初春(はる)〟が咲き得る土台の梢が散乱して居た。俺の見方は〝彼女〟から成る拙い衝動(うごき)に無根を見て取り無限を見て取り、活き活きして行く〝房子〟の様子に男性(おとこ)の微力(ちから)が如何(どう)にも立て得ぬ死力の挽歌へ浸透するのを、深々(しんしん)五月蠅い葉月の最中(さなか)に試聴して行き悪態を吐(つ)き、房子の周辺(あたり)に暫く集まる女子の姿勢(すがた)に後光(ひかり)の大喝(こえ)など妙に静まる無音の成就を揚々見て取り諦めを観て、俺の身内へ一切寄れない若い女子への気色を識(し)る内、話し掛けない〝両者〟の愚痴には無勢の不様が俺へと向いて、俺の心身(からだ)はほっそりして立つ許容(クラス)の内輪(うち)からこっそり逃れて妥協を携え、若い男女と房子の容姿(かたち)へ熱い文句(ことば)を吐き続けて行く始終の活歩(かつほ)へ対して在った。俺の夢想(ゆめ)には白体(からだ)が降(お)り行く無重の許容(クラス)に従え始め、若い男子と女子との背に立つ西田房子の虚栄の満力(ちから)が満足顔して悠々在るのを陽(よう)を彩(と)り得て滑走して活き、〝かくかくしかじか〟初めから在る夢遊の気色は移ろい空転(ころ)がり、俺の精神(こころ)へひっそり懐いた初夏(なつ)の静寂(しじま)は蝉の共鳴(こえ)など交響(ひび)かせ始める強靭(つよ)い音頭に耄碌している。俺の心身(からだ)は〝許容〟から出て誇張から出た。俺の心身(からだ)は虚無から抜け出て孤独を抜け出た。俺の分身(かわり)は房子を仕留めて若気を愛せた。俺への〝静寂(しじま)〟は初春(はる)を仕立てて彷徨した儘、拒絶されない人の輪を観て自然(じねん)に切られた。俺の主観(あるじ)は初夏(なつ)から飛び出て微温(ぬる)さを知った。俺の〝初め〟は陽(よう)を象り女性(おんな)を識(し)った。房子の肉体(からだ)は計略をして小志(しょうし)を損ねた。男女の夢想(ゆめ)には〝向き〟が彩(と)られて〝操り〟を知る。震々(ふるふる)奮(ふる)える男女の残影(かげ)には払拭されない空気(もぬけ)が降(お)り得て暁を識(し)る。徒労に忘れた〝一目散〟へは俺の躍起が後光(ひかり)を欲しがり宙(そら)を観たのと、殆ど同時に報告され行く、人間(ひと)に集まる熱気を片付け誤認が仕上がる。無駄を成すのは女性(おんな)の惰力(ちから)に混沌して生(ゆ)く男性(おとこ)の小片(はへん)が成させるものにて、決定され行く理屈の道理(みち)には無知を象(と)り行く鬼畜の群象(むれ)へと試算を始める無我の境地が節制され行き、初めから無い虚空の脚色(いろ)へは跳んだり・蹴ったり孤高の鞭など、俄か仕立てに延命(いのち)を期し得る男女の気運(はこび)が派生を報(しら)され、「明日(あす)」を知り得ぬやおらの両腕(かいな)は逃げて行かない人間(ひと)の徒労を嫌って在った。

 俺の心身(からだ)は群象(むれ)を出てから人間(ひと)へと抜け落ち、〝躍起〟を知らずに〝勝気〟を識(し)り得ぬ牡丹の花へと盲想(おもい)を付す儘、死力を尽さぬ固い脚力(ちから)へ踏ん反り返って白湯(さゆ)など呑んで、〝彼女〟の後光(ひかり)に重身(おもみ)を識(し)る内、段々翻(かえ)れぬ〝死力(ちから)〟の表裏に相対(あいたい)して生き、以前(むかし)から成る古い習いに世間を知っては地団太踏んだ。〝何〟に対して噛み付く間も無く女性(おんな)の肌には肌理の細かな微温(ぬる)さが仕上がり無間(むかん)に落ち得ぬ白体(はくたい)晒して凡庸を識(し)り、男性(おとこ)に仕上がる〝女性(おんな)の理想(けしき)〟を我が物顔して退(の)けて行くのは陽(よう)に解(と)け得ぬ男性(おとこ)の原色(こさ)にて余戯(たわむれ)を識(し)る。女性(おんな)の目前(まえ)でも房子の前方(まえ)でも、男性(おとこ)の初歩(いろは)は剣(けん)に懐かず、孤高を知り生(ゆ)く自然(じねん)の〝歯止め〟にくっきり従い、許容に居座る邪気の限度(かぎり)は女性(おんな)の呈した邪魅の限界(かぎり)にほとほと近付き毛並を調え、苦し紛れの性差(いのち)の苦言を果(さ)きを観るまま頭上(うえ)に立たせる。気色の芳香(かおり)は少ないものだ。健気な代物(もの)だ。「明日(あす)」の成立(ひみつ)を見知らぬ俺には房子の居場所が揚々掴めず女性(おんな)の記憶も行く行く気取れず、許容(クラス)の外界(そと)にて仕上がり絶え得る男女の理屈を軽々(ころころ)狂わす無知の罪へと自体を滑らす失敗過程を模倣して在る。

 最近の若者はどうも目が肥え過ぎていて、色々な興味にそろそろ飽きて仕舞って、〝あれも欲しい、これも欲しい〟で現行(ここ)まで来たのは自然の成させる現世(うつしょ)で在りつつ困って在るけど、誰が困って誰が得して収まり得るのか、端(はた)で見て居る俺の目からは〝どう映すべきか〟も〝彼等〟の能力を収める手腕にアイデアが無い。そうして、緩々流行(なが)れる経過に浸って、〝彼等〟の成せる言動(うごき)の成果とそれ等を操(と)り得る自然の妙味へひたひた寄り付き興味を燃やすが、〝彼等〟から成る俺への影響力には大抵〝嬉しさ〟が無く、一つ、二つ、嬉しい実力(ちから)が俺の両眼と心にはっきり見えても、そうした姿と珍味はその名の通りに直ぐさま俺の下(もと)から離れて仕舞って、〝彼等〟の残影(かげ)など密かに追い駆け〝嬉しい珍味〟を、もっとより良く吟味しようと試みて見ても、すうっと溶けてしまう小さな氷の如くに、自然(しぜん)の暗(あん)へと自ら解け込み、俺の眼からも心からも、愚図々々消え去り、俺の元には唯儚さだけが生き残る。こうした肥えた目を持つ現代人には男女が在りつつ一体であり、男も女も同じ人塊(じんかい)のような暗の内へとぐだぐだ這入って俺から失せて、俺の思惑(こころ)は彼等を追い駆け〝彼等〟の姿勢(すがた)を模写しているが、矢張り変らず彼等の容姿と内実(なかみ)の源(もと)とは、俺の元から遥か離れた、宙(そら)の中にて栄えるようだ。〝彼等〟に対した俺の期待は、崩され壊され、勝手に壊れて、遂に〝彼等〟から成る理想が降り立つフィールド内からくたくた独歩(ある)いて去って行って、冷たい陽(よう)の明かりに出会って在ったが、それでも他人(ひと)対して、永遠に変らぬ幸福を得られなかった俺の呟く孤独と性共感は、〝彼等〟の目前(まえ)では激しく燃えて輝き続け、孤独に供する俺の在り処を、〝彼等〟の目前(まえ)と自然の中にて、はっきり立たせる不動に在った。皆、自分の主観に頼った〝意味〟を見付けようと、他人の創作物から気持ちや言動を捉えて、〝分り易さ〟を求めて奔走して居る。俺の目前(まえ)でもこれ迄、幾万回、そうした彼等が汗水垂らして疾走(はし)って行って、中には〝その時の自分にその他人(ひと)の素直な所が必要だから〟と真摯な態度で求める人も在ったが、又中には、涼しい顔して、腰掛け程度・趣味の程度にそれを模索して居て、自分の主観(もと)から少し擦(ず)れる程度の他人(ひと)の創作物・気持ち・言動ならば許しもするが、納得出来ない規範を呈したそれ等に対せば、直ぐさま興味を失くす様子を行為(おもて)に表し、行く行く程好く離れた距離など保ち、そうした他人の姿を第三者に聞かせる際の罵声を練る為の肴(あて)として、懇切丁寧に大事に採り出し、唯悪く批評したいという無責任な主張へ奔走して行く〝若き狩人〟の姿勢(すがた)も、ちらほら浮んで絶えないのである。そうした、現実を賄う〝現代人〟に対して、極度の嫌悪を抱(いだ)き始めた俺の姿は現行(そこ)から離れた居場所を求めて奔走して行き、孤独を知らずに何へ対すも覇気を燃やせる〝彼等〟を観ながら、孤独に腑抜けて覇気を燃やせず、燃え尽き症へとその身を堕とした俺の姿勢(すがた)は、知らず知らずに行方を晦まし、彼等の元から仄(ほ)んのり蠢く「思春(はる)の呟き」程度の広さの場所へと、自然が講じた流行(ながれ)に従い、渡って行った。そうした肥った若者(じゃくしゃ)が屯して居る教室(クラス)の内では、男性(おとこ)も女性(おんな)も、未熟に育てた価値の全てが奔走出来得る〝世間〟を仕立てて丁度好いなど、俺から離れた輝(ひか)る銀河を構造して行き、そうした〝銀河〟の流行(ながれ)の内から尻尾を振り振り出て行く支流(ながれ)は、彼等を制する彼女の想いを上手に滑らせ誘(さそ)って行って、俺の理想(もと)から立派に生れた〝彼女〟の姿勢(すがた)は緩く流行(なが)れる経過へ従い、彼等へ寄り付き鞭(べん)を執り行く西田房子の堅い具体を制して落ち着き、俺の前方(まえ)では二度と失(き)えない事実を着付けて微笑んでいた。二度と変えない彼女の樞(ひみつ)が俺に対して常識を取る。

 そうした、喩えられない自分の気色を自分の心中(こころ)にしっかり観た後(あと)、俺の心身(からだ)は教室(そこ)を出て行き廊下を突き抜け、見慣れた門(もん)から外界(そと)の空気(くうき)へ擦り抜け這入ると、これ又見慣れた、自分の感覚(いしき)が繫(しげ)く通(かよ)った、淡い景色の屹立を観た。京都市校地の、御所を横手に大きく構えた煉瓦仕立ての校地であって、俺の家から最寄りに在った田舎の校地を画して輝く、奥の見得ない樞(ひみつ)を擡げてこそこそ落ち着き、古都の旋律(しらべ)を程好く流行(なが)した校地にあれども、俺にとっては不便を保(も)ちつつ燻(くす)んで見得行く景色に在って、故習の空気に程好く阿る無頼の退屈(ひま)さえそこには在った。そうした校地の南門(みなみもん)から程好く離れた木々の木陰に、以前(むかし)から建つこれ又不便な図書館が在り、煉瓦造りの門の陰には〝新た〟を想わす自動扉が〝うぃん…うぃん…〟言いつつ、人の出入りを寸とも止めずに忙(いそが)し気に在り、図書館横手のコンクリ通路を暫く行ったら〝徳明館(とくめいかん)〟なる大学教授の住処など在り、如何(どう)した樞(ひみつ)を研究するやら俄かに知れない怪しい空気が漂いつつも、ほっそり弱まる教授の独気(オーラ)が失(き)えた頃には、図書館から成る人の気配も寸断され活き、冬の景色を俄かに醸した清閑(しずか)な場面が生気を挙げた。図書館から見て背後に在るのが学生・教授の暗(あん)に伏された休憩所であり、春の息吹も夏の芽吹きも秋の流行(ながれ)も冬の清閑(しずか)も、立派に噂され得る亡(ぼう)の噂が自ら翻(かえ)って小刻みに揺れ、コンクリ仕立ての通路の上には、俺から見得行く、殊に男子の姿勢(すがた)が、女性(おんな)の上気に相対して生(ゆ)く〝多勢・無勢〟の可笑しな雰囲気(ムード)を器用に散らして疎らに独歩(ある)き、女性(おんな)の姿勢(すがた)はそうする彼等の物憂い最中(さなか)に要所要所の場末を踏みつつ、高らかに歌う女性(おんな)の陽気を陽(よう)に解(と)かせて眩しさを消し、一風変った〝気取った雰囲気(ムード)〟を放った彼等の姿勢(すがた)も、彼女の言動(うごき)に揚々損ねる自尊を見上げて浮足立った。男子生徒が何時(いつ)もの調子で歩速を早め、多忙に無いのに忙(いそが)しさを見て、覇気を燃やせる活発男と上気を消せない女性(おんな)とから成る無重の感覚(いしき)に、陽気を見取れぬ日陰へ這入った男性(おとこ)の主観(あるじ)は宙(そら)を見ながら孤独を被(こうむ)り、多重に生き行く学舎の隅へと遁走して行く身内に籠った暗(やみ)の衝動(うごき)に見惚れて在った。青空(そら)に乗っかる初夏の明かりは彼等を照らして素知らぬ表情(かお)して、自分に流行(なが)れた日にちの算など、静かに進めて目途(あて)を異にする。男子生徒の哀れな残骸(むくろ)は白雲(くも)の態(てい)して、何時(いつ)もの調子で自分の世界へ埋没して行く歩調に対して微睡み始め、自分の傍(そば)など涼風(かぜ)の態(てい)して背後へ解(と)け行く他人へ向いても会話(はなし)をせず儘、黙々々々、恰好気にして独歩(ある)いて居ながら、各自夫々、自分に適する落ち着き先へと奇妙に並んで失せさせられた。〝彼等〟を囲んだ無重の景色は、御所の横手に立派に並んだ学舎の内にて流行(ながれ)を絶やせる、冬の季節に程好く彩(と)られた酷く落ち着く清閑(しずか)な午前を醸して在った。

 独りでに立つ〝奇妙〟の内には〝彼等〟の団からか細く漏れ得た白色(いろじろ)男がほっそり立ち行き、夏か冬かを気取れなくする〝スタジャン〟模様の紺の上着を一人で着付けて冴えなく在って、好く好く見遣れば彼の鼻には眼鏡が乗っかり、耳を隠した黒髪(かみ)の内へとテンプル・モダンをこそこそ延ばして澄まして在って、彼が独歩(ある)いた通路(みち)の上には彼の背中をすんなり見送り居場所を変えない、以前(むかし)に聴こえたレトロな発音(おと)など木霊を想わす微かな交響(ひびき)が、俺を初めに、俺の傍(そば)へと緩々連なる他の者へも聞える程度にその身を立てた。か細く鳴らしたレトロな発音(おと)には現行(いま)に解(と)け入るモダンの響きが内包され得て、発音(おと)に省(かえ)らずてくてくつかつか誰も見知らぬ通路(つうろ)へ解け行く彼の表情(かお)など密かに観てると、彼の両耳(みみ)から徐々に成り立つ白い体は紺の上着を目立たせないまま真横に拡がり膨張して活き、即座に消せない男性(おとこ)の丈夫が白体(からだ)を掲げて大きく成り行き、上手く生育(そだ)てた彼の躰は校地(そこ)に流行(なが)れる桃色(ぴんく)の陽気を素早く採り活き銀河(かわ)へと流行(なが)れ、俺と、俺の麓へ故無く流行(なが)れた無体の〝彼等〟にさよならをして、自分を温(ぬく)める陽(よう)の日差しへすんなり空転(ころ)んで遠くに立った。それでも肥った彼の姿態(からだ)は、校地(そこ)に流行(なが)れた男・女の元へは必ず行かずに、途方に暮れない〝陽気〟を醸した人間(ひと)の独気(オーラ)に大手を降りつつさよならして行く不問の感覚(いしき)に初めから居た。遠くに棚引く白雲(くも)を呈した彼の片耳(みみ)から、黒く延び得たラインが一本、彼の肩へと流行(なが)されて在り、肩から落ち行く黒の葦には彼の思考を激しく立たせる発音(おと)が暴れて密着して在り、黒いコードを揚々辿れば、彼の片耳(みみ)から辿れる懐(うち)には、現行(いま)に流行(はや)りの〝ウォークマン〟などちらりと覗けてひっそり在って、発音(おと)を辿った思索の上には以前(むかし)に流行った〝ウルトラセブン〟のOP(オープニング)が、目覚ましいほど身軽に跳ね得て俺の思惑(こころ)を跋扈させ得る魅惑を正して鎮座をしている。以前に生き得た流行(はやり)の麓で自分を忘れて崇拝して居た未熟の気力が如何にも斯うにも歌い踊れて身軽に行き着き、現行(いま)に辿れた幼体(からだ)の総てを現行(いま)に生き行く自分の源(もと)へと静かに連れ添い雲間に隠れて動(どう)を伏すのは、俺の足元(ふもと)で暫く活き得た蛻の輩に新しかった。

 ウォークマンを聴く当の主(あるじ)は自分の周辺(あたり)をちらちら気にして、揺ら揺ら揺らめく〝真面目〟を逸して気取って在ったが、新しいファッションと、急いでウォークマンをそんな風に扱った事が裏目に出たのか不安気で在り、丁度徳明館の入口辺りで漏れ音を聴いている俺達の方をじっと見ながら急々(いそいそ)して在り、暫くそうして動かないのを〝土台〟とする儘、地道に独歩(ある)けた通路(みち)の上にて突っ立って居た。その男は白に近い金髪で、気弱そうな少年の様(よう)だった。

 〝ウルトラセブン〟のOP(オープニング)は、俺の心中(こころ)に固く立ち得て発音(おと)を揺さ振り、幻想(ゆめ)を観ていた俺から仕上がる無重の景色に〝交響(ひびき)〟が連れ添う共鳴(さけび)を選んで又呆(ぼう)っと突っ立ち、〝ティーティティー、ティーティティーティ、ティーティティー、ティーティティー…♪〟と〝セブン〟に敷かれる幼少(こども)に彩(と)られた億尾の妙味を、直ぐさま翻(かえ)して翻訳して活き、俺へ跨る以前(むかし)と現行(いま)との奥を見せない哀れな信義(しんぎ)は、揚々科された自体の居座る無形の〝立場〟を構築するのに努めを果して仄(ほ)んのり明るみ、果(さ)きの見えない経過(とき)の行方を俺に対して楽しませていた。俺の心身(からだ)は目間苦(めまぐる)しく咲く季節の花から「行方」を報され、夏と冬との合いの季節に仄(ぼ)んやり佇む気力の遊離を頻発する内、〝眠た気〟にも似た人の情景(けしき)に散乱して生(ゆ)く物憂さを識(し)り、「明日(あす)」彩る〝始終〟の脆さを人の眼(め)に見て耄碌して行く、問わず語りの「発音(おと)」を聴き分け通路(みち)へと突っ立ち、雨の降る夜、あれ程好いてた浪漫の火照りを懐(うち)に呈した涼風(かぜ)の向きさえ、人間(ひと)の頭上(うえ)から〝校地〟を奪える強靭(つよ)い企画を擁する代物(もの)だと、人間(ひと)の古巣へ揚々還れる岐路の内にて納得していた。一度人間(ひと)から根深く離れた明るい心理は陽(よう)を着飾り、自ら放てる陽(よう)の灯(あか)りに、人の辿れる通路など彩(と)り目途(あて)さえ生れて、俺の心中(こころ)に止(と)まった感覚(いしき)は自然(じねん)の道理を解釈する内、すらすら透った幻想(ゆめ)の〝古巣〟を大事にして行く俺から離れた人間(ひと)への感覚(いしき)は、過去が仕上がる現行(いま)の暗(やみ)へと相対して行く空気(もぬけ)を拝せる悪魔を仕立ててこっそり頷き、誰に対せる・何に対せる〝根深く止まった私闘の音頭〟を、直ぐさま鳴らせる立場に象り立食した儘、暗(やみ)留(と)まれる人間(ひと)との緩みに配せた我が身に幼少(こども)の頃観た過去を片手に相対していた。

 白砂を着飾る凡庸豊かな青空(そら)の水面(みなも)に虚空が仕上がり、仕上げた雲間の陽(よう)の閃(せん)には、人間(ひと)の頭上(うえ)までひらひら辿れる通路(つうろ)が現れ少年を立て、少年からして周囲(まわり)に散らかる活力(ちから)と女性(おんな)の陽気の程度は校地(きょよう)を脱(ぬ)け出ず仄かに煌めき、のっそり肥った上着を纏える少年(こども)の姿勢(すがた)は、白体(からだ)を失(け)しては蘊蓄を語れる、俺から離れた無重の土台を構築していた。人間(ひと)の独歩は益々陽気に乱舞をして行く。肥えた男の孤独の活歩は、益々〝通路〟で見得なくなった。男に見られた俺の分身(かわり)の細かな吐息は温(ぬく)みを識(し)らずに真顔で在りつつ、古く建ち得た図書館から出る人群(むれ)へ紛れて、陽(よう)の行かない暗(やみ)の内(なか)へと蛇行を続ける。俺の麓へ幾らか釣られて微笑(わら)った〝彼等〟は、俺の背後(うしろ)へ付けて来る儘、陽(よう)が差し行く校地(わく)の淡さにすんなり落ち着く微温(ぬる)さを認(したた)め俺から外れ、通路を示さぬ柔い人間(むれ)へと迷う事無く解け込んでいた。冬の寒さも夏の暑さも俺に対して厚味(あつみ)を保(も)つ儘、雲間に流行(なが)れた無数の記憶へ落ち度を睨(ね)め付け疾走する内、俺に生育(そだ)てた巨万の幻想(ゆめ)等、幻想(げんそう)足るまま無体を失(け)せない哀れな残骸(むくろ)を成せる代物(もの)だと、散々説いては俺から見得行く無数の動静(うごき)に失踪して行く。一度疲れて、目途(あて)を失くした俺の思惑(こころ)は、新たな試算を進めて行く内、陽(よう)の差し込むやおらの景色を、人間(ひと)へ懐ける幻想(ゆめ)の許容(うち)にて見付けて行って、涼風(かぜ)の流行(ながれ)が緩く撓んで清閑(しずか)に成る頃、俺に生れた〝覇気〟の穂先は徒党組めずの新たな境界(うち)へと歪(まが)って行った。散々実った経過を背後に、俺の周囲(まわり)へ無根に散らばり活き得たchaosは自体を照らせる陽(よう)から降り立つ無根の静寂(しじま)に焦りさえ俺へ飛び乗り、動静(うごき)を定めずこっそり燃え行く幻想(ゆめ)の下火は、俺の心中(こころ)に燃え拡がる頃、再び交響(ひび)いた〝セブン〟を仕上げるOP(オープニング)が俺の思惑(こころ)を揺さぶり始めて器用に震動(ふる)え、動静(どうせい)足るうち過去に返れる一通路を観て俺を誘った。誘われ始めた俺の動静(うごき)は幻想(ゆめ)に懐ける〝下火〟を観た儘、人間(ひと)の温(ぬく)みを暫く離れる余程の覚悟を無視する内にて契機(きっかけ)を知り、幻想(ゆめ)の域から更に根深い幻夢(ゆめ)の許容(いき)へと発音(おと)を立てずに独歩(ある)ける姿勢(すがた)を暫く模写して既算(きさん)を温(あたた)め、既に成り得た自己(おのれ)の無力を〝無音〟に見立てて散見する内、言葉に成り得ぬ未知への恐怖が無音の内にて透って在った。〝ウルトラセブン〟のOP(オープニング)を自分に延び行く感覚(いしき)の内にて編曲して行き、

「ウルトラマン・シリーズの歌の中では、一番雄大・壮大・端麗でいて、自分の幻想(ゆめ)など巧く象(と)れ得る内実(なかみ)を具えて確立している。青空(そら)へ延び行くセブンの姿が、今でも大きく、俺の感覚(いしき)が根深く居着いて離れて行かない。もっと…もっと聴きたいセブンの歌には、得体知れずで現行(いま)に彩(と)れ得る陽(ひかり)が煌めき俺を誘った…」

 俺の声にはぽつんと落ち行く宙(そら)を介した〝真綿〟が生れ、過去に挙がった〝幼少(こども)の世界〟を銀河の流行(ながれ)に遠く曇らせ一番落ち着く幻想(ゆめ)の許容(なか)へと導引して行き、涼風(かぜ)の緩さに暫し佇む少年(こども)の姿勢(すがた)に目を遣り自己(おのれ)を目立たせ、〝セブン〟に流れるイントロなんかを暫く唄える俺の口から、威勢の好いまま虚空(そら)へ飛び出る発音(おと)の在り処は明然(めいぜん)には無く、薄ら疾走(はし)れた俺の感覚(いしき)は〝自分の世界〟と身構え認めた陽(ひかり)の内へと這入れた後から、次第に雲間がはっきり仕上がり銀河の失(き)え行く紺(あお)い現行(いま)にて幻想(ゆめ)から覚めた。



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~セブン~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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