~クリスマスの夜~(『夢時代』より)
天川裕司
~クリスマスの夜~(『夢時代』より)
~クリスマスの夜~
或る〝勝機〟を片手に人間(ひと)が憂いだ世間を離れて知覚を愛し、愛の定義は独断出来得る怪しい意識を肴(あて)とする内、次第に眠気が〝睡魔〟を称して沢山仰け反り、俺が独歩(ある)いた身近な経過を辿って在った。他人(ひと)の容姿(すがた)に決して懐かぬ、〝明朗〟掲げた〝俺〟の順応(すなお)は両翼(はね)を拡げて〝天下〟へ降り立ち、当時夢見た奇怪な旋律(しらべ)を雄々(ゆうゆう)手に取り静かに眺め、他人(ひと)の容姿(すがた)に白壁(かべ)を観るまま疑惑を介して活きた自分を揚々褒め得る鑑賞眼(かんしょうがん)さえ矢庭に照らして愛して止まず、他人(ひと)から浮んだ〝記憶〟の一途(いっと)は現行(いま)を窄めて騙して在る、等、俺の強靭(つよさ)は〝生(せい)〟を観るまま脆弱(よわ)い意識を携えていた。〝自宅〟へ還った俺の本体(からだ)は脳裏に浮べた自分の信仰(まよい)を、これまで摘み取り宙(そら)へ並べた〝経過が講じる人間(ひと)の栄耀(かて)〟へと暫く乗せつつ思惑(こころ)を認(したた)め、淡い想いで具に観て採る活性極まる〝愛〟の土人(どじん)に自分の軌跡を投げ売る儘にて気色を問い行く人間(ひと)の仕種へ遊泳(およ)いで行って、とうせんぼをした晴空(そら)の高鳴(なげき)は透明色した他人(ひと)の記憶を気配へ解(と)けさせ俺へと伝(おし)え、俺の〝空気(もぬけ)〟は「明日(あす)」の狭間にきょとんと夢見る詩人の様子を暫く呈する。
そうした〝御殿〟の出来上がりを観て、界隈(そと)で騒いだ無関(むかん)の〝シグマ〟は人間(ひと)から生れる微量の気配を堂々立て活き自体(おのれ)は端(はな)から傍観した儘、夜明けを待ち得た自己(おのれ)の夜眼(よめ)には未熟に相(あい)した稚拙な四肢(ぶき)など揃えて独歩(ある)き、脳裏に浮んだ奇妙な画(え)だけが俺の細身(ほそみ)をすっかり肥やして瞬く間の内、夜に極まる自分の根城を築き始めた。
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「俺が夢の中を如何(どう)とでも扱える超能力者のように成り、俺の姿勢(すがた)は誰と、何と対峙しても〝勝つ〟自身満々という妖力(ちから)の程度を誇って在った。魔太郎が居た。心中で『魔太郎が来る』と二度程呟きながら砂利道のような道を歩いており、それでも少々、魔太郎が来る事を恐れて在った。しかしそうした彼の名字の記述を思い出せず、奥歯へ届かぬ唾液の流れは俺の口から外へ出ている。」
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「大和武士のような怪力自慢を揚々呈する狂暴漢が、俺の途次へと俄かに現れ腕力(ちから)を揮い、『明日(あす)』へと掲げた脆弱(よわ)い橋など木っ端微塵に粉砕して行く壮絶・仔細な漢(おとこ)の気色を如実に観せたが、俺の方でも〝作家〟と成り行き〝策士〟と成り得た〝如実〟に跨る空想観(くうそうかん)など丈夫に衒って立脚した為、漢の呈した暴露の様子は俺の下(もと)へと揚々届かず哀れな姿勢(すがた)を衒って在って、俺が具えた自活に呼吸する超能力など、幻想(ゆめ)の微細を充分手に取る様子を認(したた)め闊歩して行き、漢(おとこ)が観せ行く脆(よわ)い仕種を延々眺めて満足した後(あと)、共に歩いて、漢が向かった酒宴の席へと同行して行く。」
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「漢(おとこ)の腕力(ちから)を円く抑えた俺の幻想(ゆめ)には新たな場面が講じられ活き、漢の手にした〝勝機〟の二文字は〝偶奇〟と成り果て還って来られず、白い虚無から真っ逆様へと下天へ目掛けて落下して行く気色を与えて漢はしょげて、俺の手を取るやおらの腕には、これから活き得る微かな姿勢(すがた)が残って在った。」
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「陽光に咲く、二人の男に真向きに栄えた未生(みしょう)の花には、名前知らずの〝花言葉〟が在り、〝友情〟〝無情〟〝裏切り〟〝復活〟〝天下を極める栄華の旋律(しらべ)〟〝下天に向かえた王の様子の荒くれ談議〟と、複数から成る酒宴の華咲く浪漫が詠われ、漢を透した『益荒男』称する男の表情(かお)にも、緻密に浮んだ幻想(ゆめ)への躊躇が儚げにも咲き、俺の背後(あと)からとぼとぼとぼとぼ自分を表す手順を認(みと)めて大人しくある。」
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「無から産み出す言葉の数には凡そ人間(ひと)から限界が在る。それをするのが作家の業(ぎょう)にて、策士と成り得る機会が芽生えて己を知るのだ。通り一遍言葉を並べて、そうした言葉に知る限りに於いての知識と知恵とを露わに燻(くす)ねてそっと付け添え、人間(ひと)へと観せ活き〝良し〟とする程、自身(おのれ)の居所(いどこ)を確かめたいのは地上(ここ)に生れた俺の所業だ。下らぬ、詰らぬ、小手先気取りの手文(しゅぶん)の気質に、右往左往していた過去の主観(あるじ)は俗世を棄て得て隠遁暮らしを始めた頃から、徐々に白々、自分が置かれる作家の立場に明るく成り得て、自分が覚える刹那(ここ)での従順(すなお)へとぼとぼ独歩(ある)いた軌跡を見て取り、過去(むかし)に懐いた暗い過去など、堂々巡りの所業を連れ添い、他人(ひと)の居場所へ闊歩して行く自身を知り抜く。大和武士(やまとぶし)から拙さ溢れる人間(ひと)の発声(こえ)など上手に仕立てた手文(てぶみ)を貰い、俺の記憶は地上(ここ)から離れて天へ急いだ。二人の上肢を雲上(うえ)から見下ろし、二人の間(あいだ)にとぼとぼ飛び交う上気を取り上げ俯瞰して行き、天へと還った自身の活気は『明日(あす)』を見上げて地上を見下げ、晴れた空には二人へ懐いた日常が在る。二人を避(よ)け得る人間(ひと)の運河は、闇雲宜しく上手に繋がり、宙と地上(ここ)とを気丈に繋げて何処(どこ)にも観(み)えて、やがては失(き)え行く遥かな〝活歩〟を、自然に見立てた姿勢の儘にて白熱していた。黒い雲には二人にとっても過去(むかし)へ戻った懐かしさが在り、暗い路地へと地道を引き連れ埋没して行く人間(ひと)の体温(ぬくみ)を見ている儘より、汚(けが)れた許容(うち)から上手に飛び立つ人間(ひと)へ付された神の温度(ぬくみ)に相対(あいたい)した儘、従順(すなお)に羽ばたく人間(ひと)と成るのを願って行った。容易い言葉に自分を置き遣り、他人(ひと)へ対する悪魔の闊歩を、『明日(あす)』へ活きる、と呟き続けた自分へ対する情(こころ)に見て取り、後(あと)から後から俄かに呟く傍観人から在る事無い事問われ続けて見栄えを失くし、自分の置かれた土台の程度が嫌気の差すほど崩れ落ち行き儚く成っても、人間(ひと)が配した〝自分の定義〟は化(か)わる事無く、唯々ひたすら、脚色(いろ)を変じる人間(ひと)の朝陽に注意する儘、何に付けても形成(かたち)の在るのは、自分へ対した自然が在るゆえ適当なのだと、俺の周りへ集(つど)った輩はぐったり伸ばされ、大和武士にも一層離れて自己(おのれ)を知った。〝点〟と〝点〟との狭間が繋がり、それを観て居た脆(よわ)い空気は人間(ひと)から離れて自然へ突っ立ち、経過(とき)を置くのは、『明日(あす)』へ見果てた新緑(みどり)の影から生れるものだと、俺と武士とは肩を組み合い朗笑した後(あと)、俺の体(からだ)に異変が生じて、俺の意識は他人環境(まわり)を統合出来ない暗い地道へ交錯して行く。」
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「自宅へ疾走(はし)った俺の分身(かわり)は一目散へと、独り善がりの〝上手〟を手に取り自分へ懐いた女を造って自分へ対させ、パンした家宅の一部始終を、何処(どこ)かで観て来た自分の軌跡(あと)からたっぷり掬って女性(おんな)へ着せて、生気を灯せたか弱い乙女は、俺の分身(かわり)に愛撫を倣わせ、相対(あいたい)するのは家内(ここ)でも界隈(そと)でも〝自分だけだ〟と強く振り向き俺まで引き寄せ、家屋へと吹く冷たい夜風を昼間に吹かせて当然に在る。帳の降りない無常の涼風(かぜ)には何時(いつ)しか夢見た人の華(あせ)への理想が立ち行き、俺の愛せた〝一部の光景(けしき)〟を勝手の振舞う手腕(うで)へ任せて宙(そら)を飛び交う『明日(あす)』を生み出し、夢想(ゆめ)を観始め、界隈(ここ)から飛び立つ両翼(はね)を失くした浅い温(ぬく)みは、彼女を従え文句を散らして、大和武士から活力(ちから)を奪った刹那の番さえ、手取り足取り上手に見分けた不敵の態(てい)にて界隈(そこ)へ居座る新たな〝自然〟を繕っている。」
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「大和と俺には夕日が差し込む端整(きれい)な無音が城下に降り行く景色が観て取れ、大阪城から道頓堀へと静かに続いた路線の上では人間(ひと)が咲かせた柔い雰囲気(オーラ)が、真綿に包(くる)まる体温(ねつ)を寄り添え燦々輝き、黄金(こがね)の風景さることながらに、俺の〝白紙〟へ散々散らばる無情の共鳴(なげき)は所々で自体を裏切り闊歩を図るが、俺と〝二人〟は予測を裏切る青い路地へとしゅんしゅん頷くしたいを見た儘、三人三様、誰かを夢見て這入って行った。二人が組みして〝俺と二人〟が淡い夕べに立ち得たほっそり輝くそうした居場所が、何時(いつ)か辿れた大阪城下(おおさかじょうか)の商店街だと、〝二人〟を見詰めて厚い夕日に項垂れ始めた温い頃から漸く気付き、俺の背中は橙色した空気(もぬけ)の気色に好く好く気取られまったり伸ばされ、俺から辿れる軌跡の穂先は過去(むかし)に延ばされ延命して行く優雅を連れ添う長い経過(もの)だと、悠々気付ける俺が観たのは、夕日に照らされ紺に染まった大和の背後の幼児であった。」
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「俺と大和は紺の混ざれる夕日の最中(さなか)を仲良く歩いて談笑して居り、狭い路地から広い通りへ揚々出たのは二人が歩いて会話(はなし)が弾んだ幻想(ゆめ)の後(あと)にて、二人の両脚(あし)には砂利から上がった砂埃(ほこり)が絡んで、素足に履かせた草履の鼻緒はしゃりしゃり音立てかさかさ渇き、大和はそれでも変らぬ体(てい)にて独歩(ある)いて行くが、俺の気持ちは〝海の浜〟など、何処(どこ)まで行っても砂地が現われ到底如何(どう)にも執着し得ない儚い共鳴(なげき)に相対(あいたい)する儘、今度は大和の肢体(からだ)が率先して行き、俺の歩先(ほさき)を携え歩ける無体を呈して足早に在る。段々遠退く〝倦怠〟から脱(ぬ)け、俺の眼(まなこ)は橙色した淡い景色に次第に見入って周囲(まわり)を見定め、二人の意識は梁の突起が丈夫に仕上がる焦げ茶色した料亭へと着き、何処(どこ)からともなく過去(むかし)に見定め派手を知らない光沢(つや)が流行(なが)れて二人を取り巻き、大和の姿勢(すがた)は周囲(まわり)へ対すも素知らぬ表情(かお)して這入って行ったが、俺の様子は大和の背中へ自然に付くのをほとほと忘れて、何にも分らぬ素朴を講じる少年(こども)の程度に独壇へと就き、誰が幹事か解らぬ儘にて催され得た酒宴の席へと舞い込んで行き、飲み屋の体(てい)した料亭にはもう、俺の知らない商人(あきんど)達がわいわい騒いで屯して居る静力(ちから)の入った気色が生れて、俺に根付いた活気の程度は休息せぬまま彼等に巻かれ、眠い眼(まなこ)にひょとんと落ち得た白い景色は煙草の白煙(けむり)に程好く巻かれて気力(ちから)の無い儘、俺の目前(まえ)にて呆(ぼ)んやりしている。這入って重々見定め入(い)ったが、二人の辿れた旧い顔したその料亭とは又、内へ這入れば目先に構えた段は大きく、二階へ上(のぼ)らす張りの程度は左右へ拡がり光沢(つや)を利かした装飾などにて客の心を柔く掴める〝魅力〟を呈して微笑んで在り、も一度逆行(もど)って門前(まえ)へと出向けば、俺の裾から気長に延び行く塀を講じて涼風(かぜ)を遮り、水色っぽいベニヤを仕立てた門構えをして、俺の記憶が以前(むかし)を遊泳(およ)いで好く好く観て知る古い既視(デジャブ)を気弱に飾って呑(のん)びり立たせて、遥か以前(むかし)に文学被(かぶ)れが元気足るまま明朗足る儘、両脚(あし)を撓(しな)らせ通(かよ)った〝雀のお宿〟を彷彿させ活き、そうした気色は杖を突いても朝陽を受けても俺の背後で全く消えない老獪紳士をくっきり立たせて貪欲に在り、俺の思惑(こころ)は妙な飲み屋へ招待せられてほくほくしつつも、大和の背後へこっそり懐いた〝幼児〟の姿を少々呑(のん)びり思い出し行きその身を縮めて、〝何時(いつ)かそのうち魔太郎が来る。俺の所へ経過を見せずに突然立っても、如何(どう)で在っても対応出来得る温度を保って相対(あいたい)出来れば、何処(どこ)からこっそりそいつが這入って俺の躰へ呪いを掛けても、きっと避(さ)け得て試算を講じる…、等、俺の思惑(こころ)は大和の背後を自然に離れて独歩へ向く儘、蒼い体(てい)した〝門構え〟を着る〝飲み屋〟を気にしてふらふらした儘、矢張り此処(ここ)まで丈夫に辿れた〝幼児〟の気色を、揚々採り得て後退はせず、具え古した自分の居所(いどこ)を〝飲み屋〟へ具えて落ち着いている。そうした〝恐怖〟が〝魔太郎〟から成る景色を拡げて俺の胸中(なか)まで跳んで来たのは、料亭(ここ)へ来る前、彼の身辺(あたり)に何時(いつ)も居座る〝眼鏡面(めがねづら)したひょろ松野郎〟に、『魔太郎にちょっかいを出してやられて来い』など、興味本位に高みに立ち得た自己の無様が計画無いまま自然に招いた結果の故にて、そうした指図が」俺の前方(まえ)まで大きく歪(まが)って膨張して活き、自分の心中(うち)では決して成し得ぬ悪魔の手先の手順の構図を傍(はた)から覗いて知る為に在る。〝眼鏡面したひょろ松野郎〟の微かに残った本名とは又、赤井切人(あかいきりと)と矢庭に語って総身を失(け)した。」
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「魔太郎の恐怖を少し想っててくてく歩くと、切人の表情(かお)など宙(そら)へ昇って、薄ら立ち行く気楼(きろう)に解け入り散々に成り、俺が独歩(ある)けた家屋の途次には道標(しるべ)が挙がって家屋を成さずに、家屋にしんみり居着いた人気(ひとけ)や湿気は暗(やみ)に塗れて見得なく成り果て、家屋に沈んだ老舗に対せた俺の冥利は文句(ことば)の無い儘ずるずる退(さ)がって黒目を伏せて、次の場面へと出向き始めた俺の意識は段々、界隈(そと)で立ち得た明朗豊かな涼風(かぜ)の中へと吸い込まれて活き自然へ対した。」
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「どやどや挙がった人間(ひと)の上気は五月に浮んだ澄み入(い)る景色を上手に運んで立体を観(み)せ、俺の姿勢(すがた)が〝家屋〟を通った少し以前(まえ)迄、誰にも伝えぬ可笑しな風情は薄々汚れて散乱して活き、俺から発する弱気な態度は未熟に止(とど)まり遊興して在る。そうした〝未熟〟は自体が位置した〝季節〟を追われて白体化して、俺へ偽る身軽な陽気が初春(はる)を運んで死太く在った。そう、世間は未だに春なのである。初夏に彩る自然の主(あるじ)は如何(どう)とも失(き)え得ぬ我一(われいち)を灯してまったり在るのに界隈(そと)を彩る人間(ひと)へ景色へ呑まれた潤色(いろ)には、自然が呈した淡い底など仄かに灯り、才を失くした無駄な感動(うごき)がぱたぱた通る。俺の陰から従順(すなお)に延び得た白い枠には、以前(むかし)に懐いた初春(はる)の嵐がぽつんと突っ立ち、何処(どこ)かへ向かった俺の姿勢(ようす)を、日焼けに塗れた素朴な少年(こども)がすんなり見送る瞬時の姿勢(すがた)を揚々晒して明度(あかるみ)へと出て、心許無く何かに追われて独歩(ある)き続けた俺の実体(かたち)は行く行く見得ない紫煙(けむり)に巻かれて透って行った。俺の意識は息衝く間の無い透った景色を自分の気色へ集中させ行き通(とお)って行ったが、そうする内にも黒い暗雲(そら)には明度(あかり)が差し込みぱあっと明るい軌跡が芽生えて、自分の目前(まえ)には随分歩いて果ての見得ない〝大通り〟が出て先々知らせ、明るい気色に彩(と)られた俺には向こう気の良い〝勝気〟が弾んで固まり始めた。通りを呈する平たい敷地は白砂が詰められ縦横無尽に延々伸び行く丈夫を携え壮大に在り、俺の傍(よこ)ではちらちら覗ける大男が〝通り〟へ掛かった直ぐ後(あと)頃から用意され得て自然に立ちつつ、俺の背後へしっかり付き行き、全く失(き)えない上気を醸して無言でもある。とんねるずの石橋である。通りは段々開ける様子を観(み)せつつ、暫く行くと左手に在る少々拡がる河川を小脇へ携え、何処(どこ)かへ向かった中途で観せ得たそうした河川を対岸(むこう)へ渡らす陸橋(はし)さえ観(み)せ行き、俺の興味を白砂(そこ)から離して、少々詰った路地の内へと埋没させ行く暗い試算をほとほと観せて、大通りに在る俺の心地を否応無くして少々鈍った偶奇へ巻かせた。長く、幅の大きな陸橋の様(よう)な場所を、俺の姿勢(すがた)はとんねるずの石橋とずっと一緒に歩いて居るのだ。石橋は世の中の権威の象徴の様(よう)でもあった。」
*
「そうした〝無言〟にほとほと撮(つま)まれ彩(と)られた景色に俺の様子はそれでも従い従順(すなお)に在ったが、心許無く河川を囲んだ土手の路(みち)へとはらはら散り得た桜の様子もそのとき歩いた俺の気丈に程好く彩(と)られ、決して浮き得ぬ微力が奏でて悲運を渡らず、俺の〝丈夫〟は〝定め〟の内にも不敵であった。こうして見取れぬ〝権威〟と歩いて在っても、左右背後へ如何なる能力(ちから)が不意と現れ俺へと対すも俺はそれ等を難無く負かして優越へと立つ幻想(ゆめ)の能力(ちから)を密かに有して優勢に在り、白砂を舐め得る身軽な偶奇は全く似合わず他所へ逸れ活き、俺の立ち得る静かな場所とは侵略されない台座に据えられ無敵に在るのを、俺の意識は此処(ここ)まで来るのに何度も見て取り知ったのである。そんな俺に与した幻想(ゆめ)の〝淡さ〟が弱気を吐き得て思考する等、俺と〝権威〟を巻いた世界(うち)では一向問われず、〝問題意識〟へ浮上するまま疑惑を呈して矛盾と成るのは、見えない〝宙(そら)〟へと愚直を掲げて哀れな嗜好を有する姿勢(すがた)の戯れでもある。何時(いつ)、誰が自分の所へ来ても、能力を以て勝てる自信が在った。」
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「それ程〝不敵〟を掲げて自然に抗い、未熟を呈して独創(こごt)を吐き得た俺であったが、恐怖に立ち得る厚い防御の白壁(かべ)を打ち抜き、すんなり透って俺の気楽を犯す対象(もの)には魔太郎が居る。俺の脳裏は、自然に謳われ形成(かたち)の象(と)られた魔太郎(かれ)の姿勢(すがた)を上手に描き、魔太郎(かれ)と対した俺の採るべき行動基準を仔細に取り立て輝いていて、自分に培う保身を按じて忙しかった。〝対・戦闘用〟足る魔太郎(かれ)へ向かわすシミュレーションには俺の余震が頗る動いて〝緻密〟を象(かたど)り、彼から生れた恐怖の形成(かたち)を構成過程の一線(ライン)へ並べて把握して行き、〝何が怖いか〟等を念押ししつつも真面目に調べ、魔太郎(かれ)が居座る無用の境地を皆無とするほど尽力して居た。魔太郎(かれ)を呑み込むシミュレーションには魔太郎(かれ)の内実(なかみ)が少年(こども)であって成人(おとな)へ対する能力(ちから)の具合が微力を講じて届かないなど、魔太郎(かれ)へ対する見下す空想(おもい)は一切彩(と)られず問われず、唯々魔太郎(かれ)の発する不思議な独壇場(たちば)が俺へ向かって跳ばぬようにと、散々問われた顰め顔での志気から生れる固陋より成る空想(おもい)の数など鈴生りで在り、俺の意識は魔太郎(かれ)を外せず苦心に在った。」
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「蒼い気色が廊下を通って新たな場面を構築したのは、俺の〝意識〟が〝白砂〟の透せる宙(そら)の内にて宙返りをした頃合いである。俺の意識は散々魔太郎(かれ)から形成(かたち)を解(かい)した〝潜んだ恐怖〟に対しながらも、堂々巡りの〝淡さ〟に打たれて居場所を手放し、再び振り向き白砂を通って河川を横手に、大通りを行き、旧く寂れた料亭へと又逆行(もど)ったようだ。俺の心身(からだ)は静かに佇む古い垣など眺めながらに、門から家屋へ短く続いた碑(いし)の上などけんけん跳んで、つつつと這入った暗(やみ)の廊下に茶化(ちゃけ)た年季の生気など観て、酒宴が象(と)られた艶(あで)な広間に自然に従い参列していた。何か酒宴の席には俺の知らない重い秘密が寝そべっていて、〝秘密〟は類(るい)を呼びつつ番外をも引き、隠れた規律(ルール)を緩々呼び込み俺の精神(こころ)を露わにして居た。」
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「俺の傍(よこ)には、これまで知り得た淡い経過でほっそり立ち得る冷たい男が生活臭など俄かに匂わせ、俺へと対せる会話の土台を気丈に備えてしいんとして居る。俺へ対して話す心算(つもり)は毛頭在れども、沈黙破って自ら起せる会話(はなし)の手順を揚々持ち得ず鬱蒼と在り、傍(よこ)へと座った俺の胡坐をちらちら覗いて微笑みながら、自分の呈せる言葉の限りは俺から離れて立脚するなど、ある事無い事思考錯誤に暮れ始めていて、自分の採るべき現行(いま)を制せる選択順路が今いち掴めず、酒を変じて殊勝に在るなど、保身に努めて逡巡している。奇妙な表情(かお)したこの隣人には又、俺の過去から容易く仕上がる〝悪魔の男〟が形象絡めて立脚して在り、悪魔(かれ)が認(みと)める詰らぬ愚痴には一切対さぬ折っても折れ得ぬ自己本位に立つ我儘加減が無性に糸巻き活性され得て、そうした陰から連々(つらつら)延び得る隣人(かれ)に対して俺はもう直ぐ、毛嫌いするほど嫌悪が先立つあらゆる非難を保(も)ち得た自分から成る分身(かわり)の強靭(つよみ)が、傍(よこ)に座った悪魔(かれ)へ対して飛んで行くのを薄ら感じて寒気がしていた。俺に象(と)られた悪魔(かれ)の姿勢(すがた)は自己(おのれ)を信じぬ哀れな末路へ、暗い廊下に置き遣られていた〝茶化(ちゃけ)た年季〟を巧みに拾って邁進して活き、とうとう誰とも話さず、自前に敷かれた脆(もろ)い幻想(ゆめ)へと渡って行った。彼の気力は酒宴の席にて薄ら輝き、嫌な横目を大童に観(み)せ自失を射止めた彼の容姿(すがた)を俺へ与した幻想(ゆめ)の能力(ちから)は大事に手にして懐拡げ、内から取り得た白紙とペンにて、悪魔に見惚れた隣人(かれ)の表情(かお)から静かな姿勢(すがた)を上手に描写し席に居残る隣人(きゃく)と俺とに滔々見せては満足している。俺の隣に無言で寄り添い酒宴に講じた自分の意識を具に失くした彼の姿勢(すがた)は、暗(やみ)に居着いた悪魔に慕われ涼風(かぜ)を残して何処(どこ)かへ失(き)えた。」
彼の姿勢(すがた)は酒宴の席にて何度も何度も描写され得て〝書き人知らず〟の手記(めも)の内には、原稿用紙の四百字詰めにて六、七枚まで優に上(のぼ)れる脚色(いろ)が付されて転々(ころころ)空転(ころ)がり、活きて行くのに足りない漢を上々連ねて立脚していた。俺が座った酒宴の席へと何処(どこ)から来るのか見知らぬ涼風(かぜ)が、ほっそり居座り会話をしたのは、それ等の描写が彼に釣られてしっくり彩(と)られた刹那後(せつなあと)での気色に在った。
*
「〝形有る物何時(いつ)かは崩れる〟、それを言った無法の者を夢の内にて思い出し、俺の意識はあたふたしながらそれでも酒宴に咲き得た自分の席へと居座っていた。うろうろして居た微かな景色は〝冷たい彼〟へふいと連れられ、何処(どこ)ぞ遠くの見得ない暗(やみ)の内へと唐突成るまま突っ込み始めて俺から離れて、俺の心身(からだ)は何だかしみじみ、耄碌し易い不毛の〝過去〟へと乗っかって居た。彼の姿勢(すがた)は何時(いつ)まで経っても現れない儘それでも透った廊下の内にて悶々足掻いて俺が居座る〝酒の席〟へと逆行(もど)りたい瞳(め)を晒していたのだ。俺の意識はそうした事実に気付けない儘、ふわふわしている空間(すきま)を見付けて呑(のん)びり在り、自分の分身(かわり)が事毎千切れて〝見付けた空間(すきま)〟へ這入って行くのを何気に感じて黙って在った。結局、魔太郎(かれ)は来なかった。暗い廊下へ一閃冴え切る誰かの視線が俺へ目掛けて走ってあるのが俺が居座る立場から見て成る程明るく認(みと)めた事に、俺の心身(からだ)をふわりと浮かせて〝恐怖の姿〟を円らとしたまま自ら急いで明かりを見て取る俺の実力(ちから)を見た気もしていた。それでも俺の心身(からだ)はじっと堪えて酒宴の席にて、ふわりと漂う煙の空気に自分を浮かせて何気に在った。魔太郎(かれ)ではなくて、誰だか知らない別の男女が、自分の座った席へと自然に流れて来るのを期待しながら。」
*
「俺の心身(からだ)はそうして居ながら、自ら体裁(かたち)を纏めた上にて自分が欲する清(すが)しい気力を探して在った。煙(けむ)に巻かれた何気な宴(うたげ)は人間(ひと)の頭上できらきら輝き、微熱を帯びては人間(ひと)を酔わせて、俺から覗ける淡い景色を縦横左右(たてよこさゆう)へ自在に延び行き、俺の手の内、心の内にて、如何(どう)にも転がる間延びを携えぽつんと浮ぶ。女の温(ぬく)みと男の温みはほとほと違って対極して居て、俺から離れた遠い景色に両者共々胡坐を掻いては寝転んでたが、やがて両者はふらりと立っては互いに手を取り和解し合って、争いムードは事毎起らず、俺の前方(まえ)から不意に飛び立つ。〝心の白紙〟へふんわり置かれて、幻想(ゆめ)の真綿にひっそり包まり緩々寝込んだ俺の意識は、寝言を呟き呆(ぼう)っとする内、現行(ここ)に於いても自分の思いがすんなり通(とお)って成長するなど、幻想(ゆめ)の域から彼等の域まで、揚々寝惚けて射止めて行けると本気に想って足場を固める。足場を固めて脆(よわ)いながらに幻想(ゆめ)の内にて膨らむ我が身は、他人(ひと)から発する独気(オーラ)の息吹を自分で取り留(と)め解決する儘、どんな相手が空間(すきま)から出て対峙すれども一向変らぬ〝不敵〟の瞳(め)をして堂々佇む。何気に越え得ぬ人間(ひと)と俺との目前(あいだ)へ敷かれた得体知れずの白壁(かべ)に対して、俺の過去からひょいと生れた過敏な意識は〝堂々巡りの白煙(けむり)〟に巻かれて自分の保身を擁する間際に、幻想(ゆめ)に負われた超能力など人間(ひと)の頭上へきらと掲げて自身(おのれ)の立場を養護して居た。俺が設けた幻想(ゆめ)の尺度は宙(そら)を見上げてゆらりと在る儘、誰が笑うにしても襲って来るにしても能力の故に心強かった。」
*
「人間(ひと)から漂う酒宴の内での明度に浮かれた自己の〝意識〟は、当然がらがら自分の心に立脚する内、己の過去へとふらりと還って白砂を独歩(ある)き、青空見ながら自身(おのれ)の独歩(ある)いた孤独の住処を想う内でも、鋭く透った機敏に長けては幻想(ゆめ)を象る空気(もぬけ)の模様をころりと見て取り、他人(ひと)が廃(はい)した微弱(よわ)い独気(オーラ)を感嘆しながら懐いて観ている。白砂の上にて彼(か)の〝石橋〟と相(あい)せた天蓋等には、俺から出て行く気迫の畝(うねり)が静かなる儘ほっそり寝転び、自分の歩調(ペース)へ悠々持ち込む未熟なきらいを自分の眼(め)にて痛快に在る。権威に対せて俺の共鳴(ひびき)は大抵何でも従順(すなお)に話せて石橋(かれ)の心に深く灯った憂鬱などまで、冷静沈着、静かなる内、自身の麓へこっそり忍ばせ、幻想(ゆめ)の補足をすっかり気取れた。幻想(ゆめ)から延び得た虚空を観ながら、大抵何でもかんでも、人に対して物に対して、孤独に対して空間(すきま)に対して、俺の実体(かたち)は姿勢(すがた)を化(か)え活き細々(ほそぼそ)ながらに共鳴(さけ)んでいたのだ。その内ふとした空間(ばしょ)から、何時(いつ)か何処(どこ)かの許容(うち)に流行(はや)った、アメリカ・ドラマのヒロインでもあるローラが出て来て俺を呪った。」
*
「俺の心身(からだ)は、暫く懐いた酒宴の空気に見切りを付けて、此処(ここ)には自分を鞣せる不用の向きなど一つも残らず煙(けむ)っていると、こっそり息衝く不能を見て取り揚々ながらに、空気(もぬけ)を独歩(ある)いて漂流する儘、空気の透った遠い宙(そら)へと熟々(じゅくじゅく)歩き、ローラの居場所を細い目をして確認していた。お下げを結わえたローラの姿態(すがた)は、微温(ぬる)い過去など飄々吹かせて、俺の気分をすっかり掌(て)に取り優雅であったが、何時(いつ)も通りの灰汁の強さに彼女の姿勢(すがた)は順々変って逆行(あともど)りをせず、彼女へ懐くを薄く夢見た俺の感覚(いしき)は野平(のっぺ)りしたまま彼女を嫌って文句を言った。彼女の傍(よこ)にはそれは端整(きれい)な田舎の景色が壮大足るまま立ち得ていたが、彼女が呈した度緊(どぎつ)い〝灰汁〟など仄(ほ)んのり透って塵から山まで全てを呑み込み台無しにして、そこへひょっこりシルクハットを阿弥陀に被(かぶ)った幼い少年(こども)が無口に出て来て、彼女と俺を斡旋して行く柔らを透かして呑(のん)びり佇む。しかし落ち着き好く好く見遣れば、少年(こども)が被(かぶ)った黒の帽子は〝シルクハット〟の型を成し得るお堅い光沢(つや)など発して在ったが、その実straw(わら)で編み得た容易い造りを明然(はっき)りさせ得て何にも言わずに、俺の目前(まえ)には、〝田舎坊主〟が誰かを纏って可愛く振る舞うお道化の姿態(ぽーず)に緩々見て取れ朗(すが)しくさえ在り、俺の心中(こころ)は少年(こども)に宿った小さな眼光(ひかり)を具に愛せるお高い位が未熟に発され少年(こども)の言動(うご)きへ次第に付き行く自分の興味に絆されていた。少年(かれ)の名前はアルバートと言い、ラストネームは女王陛下へ献身して行く淡い夢さえ漂わせて在り、少年(かれ)の呈せる不敵の笑みには、他人(ひと)を擁せる柔い強靭(つよ)さがぐんと立ち行き羽ばたき始めて、俺の心地は益々丸まり、彼(かれ)の居場所へふらりと近付く暗(やみ)の力に圧倒され得た。」
*
「二人の姿は教会へと着き、田舎に上がった砂埃の中柔く仕上がる〝鐘楼〟紛いの金(きん)の鐘には、昔に覚えた太った男の青い繋ぎが自然に浮んでぐんぐん朗笑(わら)い、俺の意識も教会(そこ)へ這入って二人の息衝く冷めた暖色(いろ)など、具に眺めて監督している。二人の仕種は明度は在るが暗(やみ)の内にて、俺から遠くで為される遣り取りみたいにちまちまねちねち進んで在って、二人にしか無い時間の様子を、俺の感覚(いしき)は何気に取るまま見守っている。俺には分らぬ二人の流れが二人の心身(からだ)を自然に運んで頷いて行き、二人の様子は争わないまま温和の中へと吸い込まれていた。俺はローラの姿勢(すがた)が疎ましかった。これは幻想(ゆめ)から離れた外界(そと)の世界で、好く好く観て来た疲れから来る失くした興味の気怠さにより、在る事無い事想像するまま目前(まえ)で閃くローラの態度に擦(なす)り付け活(ゆ)く母親譲りの過度の行為に寄るものであろう。俺はローラを毛嫌いして活き、傍(そば)でほっそり佇み無口を背負った彼の姿をうとうとするまま好きになって、彼から得られる素敵な描写に心を割いた。彼の笑った、少し陰のある表情(かお)の内には、俺がこれまで彼を見た際微かに覚えた情景描写が補足際立ち並んで在って、横並びにある彼の背後は俺に呑まれて活性され行き、俺の居場所がきちんと用意され得る夢游の気迫を彼に読み取り俺の気持ちは喜んだのだ。」
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「鐘が鳴ってはほとほと薄れて、また鐘が鳴っては景色が歪み、俺の観ていた教会(なか)の景色は、絵の具が板の上にてぐにょぐにょ混ざった取り留め無さまで強気に表す手腕を講じて、俺へ居着いた気色を取り去り、余韻を残さぬ冷たい風紀を改善していた。冷たい、冷たい、空気を知りつつふいと眼(め)を遣りドアを覗けば、僅かに開いたドアの隙間を巧く通れた風に気付いて、温(ぬく)みを感じる教会内(ない)へとすうと飛び交う冷風(かぜ)の小躍(おど)りに興味を奪(と)られる。〝温(ぬく)い…?〟先ほど二人を観たのは冷めた空気の最中(さなか)であったに、如何(どう)して自分が温(ぬく)さを感じて此処(ここ)に在るのか少々解(かい)せず二人を見遣ると、二人の体は同じ程度の幼体と成り、そうした二人に柔らに掛かった火の灯りが見え、緑色した靴下等が、暖炉の格子に軽く掛けられ下がって在るのが遠目に見ていた俺にも分る。〝そうか、今日はクリスマスだったんか…〟。俺の意識は冷め冷(ざ)め醒まされ冷風(かぜ)の運びが次第に緩まる教会(うち)との飽和に包(くる)まれる頃、温(ぬく)みを憶えた俺の躰は心を忘れて二人へ見入る。二人の仕種は矢張り遠くて分らなかったが、パントマイムに想像して行く客の見方を取り添えながらに、両者に騒いだ微かな発声(こえ)とは、これから気付ける初春(はる)の言動(うごき)を感じさせ得た。俺はそれでもローラを嫌ってアルバートへ付き、彼の想いを行動から観て追走して居た。二人の傍(そば)にはクリスマスに観るプレゼントが在り、物の大小問わずに並び、きちんと積まれた白と緑の紙とリボンで原色仕立てに体裁彩(と)られた大きい物など、二人の位置から少し離れて静かに在った。それまで観て来た二人の周りに、誰も無いのが不思議であったが、冷風(かぜ)が這入れた偶奇を境に、見えない空間(すきま)に屯していた既成の信者がほわんと現れ、各自が各自で、それまで透った自分の経過を自然に彩(と)り合い順応して活き、二人の目からも俺の眼(め)からも、鬱蒼足るまま輝彩(きさい)を発して、群象(ぐんしょう)足るまま唯々矢鱈に皆を擁した教会(なか)の空気は揚々成るままあどけなかった。」
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「そうした人群(むれ)からぽつんと出て来た敬虔信者を上手く観せ行く輝彩(きさい)のドレスを着熟す婦人は、二人を含めた人群(むれ)の前方(まえ)へと笑って出て来て、クリスマスに合う、誰でも手にするプレゼントをと、予め用意され得た事であろうか、微笑を含めた男女は夫々、交換用にと持参して来た小さいプレゼントを取り、互いが互いに交換し合って、窓から覗ける夜空を見ながら談笑して居る。ローラと彼にもそうして出て来たプレゼントは行き、二人は揃って微笑を携え小脇に抱えた大きな荷物を床へと置いて、皆で味わうクリスマスを観て楽しんで居た。俺の元へは結局幾度も共鳴(さけ)んで催促したが、一つのプレゼントも置かれない儘、夜は更け、遠くの暗(やみ)へと吸い込まれて行く〝温(ぬく)み〟を観ながら閉幕していた。」
~クリスマスの夜~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
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