27歳OL異世界でゾンビになって腐敗臭に苦労してます ぴえん

@minatomachi

第1話 深夜のコンビニ

都会の夜は、疲弊した心を一層重くする。時計の針が午前2時を指している。桜田舞は、デスクに山積みの書類と睨めっこし続けること三日目、限界を迎えていた。オフィスの蛍光灯が目に刺さり、神経を苛立たせる。やっとの思いで立ち上がり、重い体を引きずるようにしてオフィスを抜け出した。


冷たい夜風が舞の頬を撫で、彼女の疲れ切った心と体に一瞬の清涼感をもたらした。近くのコンビニエンスストアの明るいネオンが、彼女を無意識のうちに引き寄せる。自動ドアが開くと、暖かい空気と共に、人工的な香りが鼻をくすぐった。


「これで少しは元気が出るかも…」


彼女は心の中でそう呟きながら、おにぎりとエナジードリンクの棚へと向かった。棚に並ぶ商品たちは、整然と並べられているにも関わらず、どこか無機質で冷たかった。手に取ったおにぎりのパッケージは、ビニール越しに冷たさが伝わり、彼女の疲れた指先に微かな感触を残した。


レジに向かうと、若い店員が立っていた。彼は舞の顔を見て、心配そうに声をかける。


「お疲れ様です。今日は大変そうですね。」


舞は疲れた笑みを浮かべ、かすかに首を振った。


「ええ、仕事が終わらなくて…でもこれが終われば少しは楽になるはずです。」


その声には、疲労と共に、どこか遠くで響く希望の響きが混ざっていた。会計を済ませ、店を出た舞は、再び冷たい夜風に身を晒した。街灯の光が薄暗い路面を照らし、ビルの谷間に冷たい風が吹き込む。


「早く帰って少しでも休まなきゃ…」


彼女がそう呟きながら歩道から車道に一歩踏み出した瞬間、突然の強い光が彼女の視界を奪った。舞は反射的に目を閉じ、次の瞬間、鋭い衝撃が体全体を襲った。耳をつんざくようなブレーキ音と共に、体が宙に浮き、何度も地面に叩きつけられる。


痛みが体中を走り、彼女の意識は薄れていく中で、遠くで誰かの叫び声が聞こえた。視界がぼやけ、冷たいアスファルトに横たわる彼女の周りに血の匂いが漂う。その鉄の匂いが、彼女の意識をさらに遠ざけた。


「これが…死ぬってことなの…?」


冷たい夜風が彼女の体を撫でる中、舞の意識は徐々に闇に包まれていった。彼女の手には、まだエナジードリンクの缶が握られたままだった。舞の最後の意識の中で、遠くに救急車のサイレンが響き渡る。その音が徐々に遠のいていくと同時に、彼女の視界も完全に暗転していった。

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