異世界でも主人公を目指したいと思います

月影

第1話 歩みの始まり

俺は『主人公』という存在に憧れた

努力を怠らず、他者を助け、人を惹き付ける

そんな……物語の主役。

あんな人主人公になれたなら―――




「はぁ……」

俺は、目の前に貼り出されている紙を見て

そんなため息をついた。

「どうしたっ!テストの結果良くなかったか?」

「いつも通りだったな」

「その順位で不満とか恨みを買うぞ〜!あははっ!」

そう言って豪快に笑うソイツに、俺は

「そうだな」

淡白にそう返すのだった。

(きっと主人公とは、ああいう奴を指すのだろう)

教室に戻る廊下を歩きながら、そんな事を考える。

本当は、もっと前から気づいていたんだ

もう、夢だけ見れる子供じゃない。

勉強も、サッカーも、バスケも、ダンスも、

ピアノも、料理も、例を挙げればキリが無い

俺は主人公になれるような、特別な才能が無い。

「どうだった?」

気がつけば、教室に戻って来ていた。

「4位だったよ、いつも通りだった」

「相変わらず好順位だな」

俺に笑いかけるクラスメイトとは対照的に、

引き攣った笑みしか、俺は返す事が出来なかった。

(俺……何がしたいんだっけ)


「それじゃ、ちゃんと復習はしとけよ〜」

担任の教師がそう告げると、

生徒達は直ぐさま教室を出ていく。

かくいう俺も、そんな生徒の1人だが。

「やっとテスト終わったわ〜」

「久しぶりに遊び行かね?」

「てか、今から行こうぜ!」

そんな生徒達の声が聞こえてくる。

今日は、誰かと話す気分では無かった

今日は、1人で居たかった。

そんな事を考えながら、俺は帰路を辿っていた

「はっ?」

自然と、俺の口からこぼれた。

信号無視した車が、子供目掛けて突っ込んで来ている

『死』それが急速に、俺の目の前で迫っている。

俺は、思考をせずに走り出していた。

助けるか?そんな思考は存在しなかった

(……特別な才能なんて要らなかったんだ)

目の前に迫る車を見て、そんな事を考える

特別な才能が無くとも、主人公にはなれる。

だって……俺でもこの瞬間は、主人公だ

(死ぬ直前で思い出すのかよ)

苦笑がこぼれる……でも、思い出せて良かった。

「ごめんな」

子供を投げ飛ばす形になってしまうが、

こんな状況車に轢かれそうだから許して欲しい。

そして、こんな親不孝者の息子を許して欲しい

(何も返せなくて、ごめんなさい)

才能が無くても、脇役だとしても

一瞬……たった一瞬だけは、

主人公になれた気がした。




「旦那様、産まれましたよ!」

「母さん、よく頑張ったな!」

「産めて……良かった」

(……へ?)

ちょ、ちょっと待ってくれ!

俺……めっちゃカッコつけて最期迎えたんだが!?

(おいおい、どうなってんだ……)

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