真夏の森【第二回短歌・俳句コンテスト 短歌ニ十首】

秋茶会雨

真夏の森

辞書引いて見つけた君の名の項を熱心に読みこの意味を知る


カレー屋で過去のカレーを語り合うカレーは夏の季語じゃないのに


祝祭に似た雨だった音のないここが世界の中心だった


父親のろくでもなさをムシキング遊ぶみたいに語り合ったね


レモンパイ食べたら行ける右利きの国の広場で退屈しよう


祈るなら神の存在証明を論じる君の仏語の本に


ラーメンを冷ます吐息に口笛の音色響いて視線が合って


カーテンを閉ざした部屋で君の膝ポキリと鳴って暗闇が澄む


虹彩をなぞるみたいに見つめ合う休日明けの満員電車


図書館の帰りに食べた玉子焼き昼のすべてがそこにはあった


動かない蟬に間際の痙攣を見る石の夢醒ますみたいに


約束を果たせない午後逃げ出した近所の犬が帰っていない


「水面で燃えるあの手の火は水と同じものだね」掴みそこねて


泣きそうな顔で向き合うわけ照らす燃えないゴミの日の月明かり


泣きべそをかいた鼻唄泥棒の結末どうか朗らかでいて


ゲーセンで取ったメロンの香りするねりけしぐにゃりひとねり またね


感傷をきれいな水に沈めたら暗く静かな森に等しい


駅名の一つになったこの街で降りる理由を探したくない


まっすぐに光かがやく太陽をかっ飛ばしても救われないね


大好きな思い出だった景色から消え去るすがた追わないで夏

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