万年敗者の奴隷剣士

@chatnoir_0321

奴隷時代編

プロローグ

「ヒーリング」


 …この忌々しい声を聞くのは一体何度目だろうか。


 いつもこうだ。相手から致命傷を与えられて、ようやく死ねると思いながら意識を手放すが、次に目を覚ますと薄暗い部屋のなかで治療を受けている。


「しぶとく生き残るねえ。流石に君の顔は見飽きたよ」


 こっちもだよ、くそじじい。

 

 そう思いながらまた今回も死ねなかったことにイライラする気持ちが抑えられず、大きな足音を立てながら自分の牢屋へやに戻ろうとすると背後から呼び止められる。


「おい、金は。ワシはお前を助けてやったんだぞ」

 

 舌打ちしながら銅貨一枚を投げつけてやる。お前がやったのはたった五文字を唱えただけだろ。


「誰もお前に助けてなんて言ってねえ」

 

 そう言いながら、クルトはその部屋から出ていった。


 

 眩しい太陽の光が雲の合間を通り抜け闘技場を照らす。アナウンスが響き渡る。


「とうとう本日最後の対決となって参りました!この試合を見に足をお運びになされた方も多いのではないでしょうか!?

 それでは行きましょう、ゲートオープン!!」

 

 向かい合っている入り口からそれぞれ二人の人間が現れる。

 

 一斉に観客が沸きだつ。


「西側、巨人族の元兵士ルー!」

 

 右手に持っていた金棒を天高く突き上げ吠えた。より近くで見ようと観客は身を乗り出す。


「東側、人族の元B級冒険者ライアン!」

 

 剣をまっすぐに構えた。観客の一部が黄色い声援を送っている。

 鐘の音が鳴り響いた。


(始まったか)

 

 壁についている窓から外を覗くと、ちょうど二人が鍔迫り合いをしているところだった。

 同じ人族なのにどうしてこんなに差があるのだろうか。俺があんな奴と戦ったら一撃で場外だぞ。

 

 ライアンに羨ましげな目を向けながらその戦いをじっと見続ける。


 いつからこの闘技場にいるんだったか。初めてここに来たのは…確か三年前の12歳のときだったはず。

 

 親父の借金返済のために末っ子だった俺は闘技場に売りにだされたのだ。入りたての頃は死なないように毎日のようにトレーニングをしていたのが懐かしく思えてくる。


(結局ただ体が頑丈になっただけで、痛みに耐えられる時間が長くなっただけだったんだがな)

 

 外から対決終了を意味する鐘の音が微かに聞こえてくる。最後に立っていたのはライアンだった。


 尿意を感じてきたのでトイレへ向かう。


(あんなのが元B級とか、A級S級の奴らはどんだけ強えんだよ)

 

 そう思いながら用を足していると急に右腕から強い痛みを感じた。なんだ?!と思い腕を振り回すと何かがボトッと床に落ちる音がする。


 蜂だ。

 

 すぐに刺された部位を確認すると円状にひどく膨れ上がっていた。

 急に体全身から力が抜け、膝からガクッと崩れ落ちる。まずいなあ、これ。


(まあ、これでようやくこの糞みたいな人生からおさらばできる)

 

 瞼が段々と重くなっていく。

 

 意識が暗転する直前、トイレのドアが開かれる音が聞こえた。




「キュア」


 目が覚める。見慣れた天井だ。そしてさっき聞こえた忌々しい声。

「はい、銅貨3枚ね」



「っっがーーー」

 今現在絶賛ふて寝中。


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