2017.5.21 遠坂青・蜂須賀路実、クランクイン
昔、俺はヒーローだった……比喩ではなくマジで。
今でこそダイヤモンドカッターやら宝石加工品を売る営業マンだが、5〜6年ぐらい前まで
レンジャーシリーズ――来光戦隊サムライジャーのブルー役で俳優デビューして事務所オールスター映画の「ゼロサム」シリーズとかヤンキー漫画の実写に出たりもしたが収入は不安定で生活は苦しかった。結婚を機に俳優辞めて親戚に頭下げてジジイのコネで今の会社で雇ってもらって、今に至る。
「この辺も久しぶりに来たな……映画の撮影以来か?」
そして俺は今、とあるスタジオに来ている。俺のデビュー作であり青春と言っても過言ではない『サムライジャー』の10周年記念作品を撮る、そのために。
「あ!オッシーじゃん元気してた?」
「?……ああ、ローミンか!うっわ老けたなぁ〜〜!」
人気アイドルグループ「HelloWorld!プロジェクト」のメンバーで、サムライジャーの頃には連ドラデビューしたてだった。今はスーツアクター(ヒーロー専門のスタントマンをこう呼ぶらしい)と結婚して女優業の傍ら本名の「
「老けたのはお互いよ!……ヤスとフカっちはもう撮入してるっぽいから、なるはやで準備してもらお」
ヤスこと
サムライジャーが放送終了した2年後に出演した火10ドラマをきっかけに日9や朝ドラ(公共放送の「朝のドラマ劇場」の略)に数多く出演し、今春も連ドラ主演が決まっている売れっ子俳優。んでもって今回の10years企画の発起人でもある。
で、フカっちこと
ローミンが守衛さんに声をかけてしばらくするとスタッフが来て、楽屋に通された。扉には『遠坂白蓮 様』と印字された紙が貼ってある。
「……はは、またこの名前で呼ばれる日が来るとはな」
愛する人と生きるために、「資産家
(結局のところ、一度は捨てたもんに縋り付いて生きてるわけだ)
扉を開けて左手に広がるドレッサーには、くたびれたアラサーが映っていた。
*****
あれよあれよと衣装に着替えさせられヘアメイクとメイクアップをさせられて、現場――『特撮の聖地』
「ベテラン出勤だゾ?ニアトーシロの白蓮クン♡」
下から声が聞こえて視線を向けると、折りたたみ椅子に腰掛けたカフカがいた。
「そっちは相変わらず『5秒で泣ける』で売ってんのか?
「ちょっ……ダサいから本名で呼ばないでって言ってんじゃん!」
ハタチ過ぎたいい大人の駄々は直視するにはちょっとキツイので撮影を見学する。
「……そういや、アユは?」
アユ――
俺と同じくサムライジャーから3年ぐらいで俳優を引退していたはずだが、現場のどこを見ても姿が見えない。
「んっと、シソノンはね〜〜産休で、サンキュー!」
「は?」
嘘だろおい。自分でコントロールできるもんでもないから責められはしないが、産休?俺が上司に白い目で見られながら有給全消化して撮影スケジュール捻出してんのになんでアイツ休んでんの??
「大丈夫だよ〜貞光は今回ほぼ素面での出番ないから。アクションシーン先にして全員揃うシーンとかはアフレコの時にまとめて撮っちゃえばモーマンタイ!」
今回企画サイドにも関わってるやつのセリフとは思えない軽さに目眩を覚えたが、撮入してしまった以上やるしかない。気合いを入れてアクションシーンに向かうとしよう。
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