第10話 ノベオクリ La funebla ceremonio



 野辺送のべおくりにあゆむ。


 道の両側は、うすもった雪で真っ白だ。暗い空高くに、虹色にじいろの光のおびがはためく。


 わたしはずっと泣いている。なにがそんなにかなしいのかよくわからない。だれの葬儀そうぎなのかも知らないのだ。


 だまってれつとともに歩み、たどり着いたさき火葬かそうの場所には、すでに冷たい石がまれてあった。


 男たちは、ひつぎから小柄こがら遺体いたいを取り出す。

 いや、それは草をたばねてつくった人形にんぎょうだ。

 石の上に、その人形がよこたえられる。

 人々はかくしからほしの小さな欠片かけらを取り出し、積石つみいしほうる。


 わたしもならって星を投げた。それはコツコツと石に当たり、はげしくえだす。

 音のない、青白あおじろほのおが人形をつつみ、おどるように立ちのぼる……。


 さようなら。わたしの口がひとりでにつぶやく。


 すると次の瞬間しゅんかん、わたしが火の上で葬送そうそう集団しゅうだん見下みおろしている。

 さようなら、と言葉ことばを残し、上昇じょうしょうしていく。




 地上に立ったままのわたしは、だれに教えられなくても、自分がこれからどう生きればよいのかをはっきり知った。

 今日の葬儀によって、わたしの中のなにかが、らないものが行く世界へと送りだされた。

 わたしはおとなになったのだ。


 遠からず、わたしは集落しゅうらくの男のひとりとくなぐだろう。

 いたみにたえたそのあとは、別の集落にとつぐだろう、その集落からの女と交換こうかんされて。

 わたしは三人か四人の子をむだろう、そして役目やくめを終えたものとして、いのちかたまり、小さな星となるだろう。


 わたしはくだかれ、少女をおとなにするためにほうられるだろう……。




 みすぼらしい空をわずかにいろどる、彼方かなた虹色にじいろを見あげる。

 要らないものの世界とは、そらこうがわだろうか、それとも、このだろうか。


 野辺送りの一行はきびすをかえし、集落へともどりはじめた。

 わたしも考えることをやめ、列にくわわる。

 



 ずっとむかしから、〈わたし〉は同じようにしてきたのだ。




 Fino



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