続 私とアイドルエイリアン『MM378戦記:革命士官ナナミ大尉』

南田 惟(なんだ これ)

第1話 Chapter1 「12.7mm」【MM378】 

本作品『続 私とアイドルエイリアン『MM378戦記:革命士官ナナミ大尉』は、前作品『私とアイドルエイリアン』の続編です。本作品だけでもお楽しみいただけますが、前作品を読んで頂けると、より楽しんでいただける事とと思います。本編は週に2、3話(Chapter)を投稿していく予定です。ご愛読の程、宜しくお願いいたします。感想等書いて頂けると嬉しいです。


【序】

惑星MM378で軍人だったMM星人の七海は訳あって地球に逃亡してタケルと出会った。タケルとの出会いが七海を大きく変えた。感情を持たないMM星人の七海が感情を持つようになり、タケルがAIで作成した美人の姿に変身してモデルデビューを果たした。地球人としてタケルと楽しい日々を過ごしていた。しかしMZ会(1800年前に地球に移住したMM星人の組織)と接触し、MM378の第1政府が恐怖と暴力でMM378を支配しようとしている事と地球に住むMM星人を殲滅するために地球侵攻を計画している事を知った。MM378の平和を取り戻し、地球侵攻を食い止める為にかつて自らが所属していた第1政府と戦うべく七海はMM378に戻ってたのだ。そこにはタケルとの辛い別れがあった。その別れから8ヵ月が過ぎ、七海は戦場にいた。



Chapter1「12.7mm」【MM378】 


「ギイーーーー!」

ギャンゴは叫ぶと兵士の頭を咥えこんだ。兵士は首から上を咥えこまれ、声も出せない。立ったまま両腕を振りまわしているがどうにもならない。やがて兵士の動きが止まった。同時にギャンゴが大きく長い首を横に振った。首から上を失った兵士はその場に倒れ込んだ。

「撃て!」

分隊長の軍曹が叫んだ。その声に反応して岩陰から兵士達がフルオートでアサルトライフルを発砲した。

弾丸はギャンゴに命中したが全て弾き返された。ギャンゴの体色はシルバーグレーだ。ギャンゴは精神状態や状況によって体色が変わるのである。シルバーグレーは防御モードだ。

「うわっ、軍曹、ムリです、ギャンゴには効きません」

「狼狽えるな、ロケットランチャーを撃て、予定通り3発だ、良く狙え」

ギャンゴとの距離は約120メートル、ロケットランチャーを構えた兵士が3人、ロケット弾を発射した。1発目のロケット弾は炸裂弾で、炎と煙を吹きながら真っすぐに飛んでギャンゴの胸で炸裂した。閃光が煌めき、轟音が響いた。2発目のロケット弾は徹甲弾でギャンゴの頭部に当たったが弾き返された。3発目は腹部に命中して尖端から激しく火を噴いたがたがギャンゴは倒れない。3発目のロケット弾は対戦車用の成型炸薬を使った弾頭だった。3発の異なる種類のロケット弾を受けてもギャンゴは平然としている。

MZ会が開発したロケットランチャーはRPG7を基に設計されているがその威力は凄まじく、爆風が9000m/秒のオクトーゲンを主体とした液体火薬の詰まった炸裂弾は爆発力を重視している。徹甲弾は弾頭が尖った形をしており、タングステンで作られている、貫通性重視の弾頭だ。成形炸薬弾はモンロー効果で強力な液体金属の超高速噴流(メタルジェット)を弾頭から吹き出し装甲を貫通する対戦車用の弾頭であり、従来のものより威力を倍増させた物だがギャンゴにダメージを与えることはできなかった。

「軍曹、炸裂弾も成形炸薬弾も効き目がありません! 徹甲弾は弾き返されました」

兵士達はギャンゴの防御力に圧倒された。

「ロケットランチャーが効かないのか」

軍曹は絶望的な気持ちになった。

ギャンゴは兵士達を睨みつけると口から液体を噴射した。超濃硫酸だ。放射状に吹き出された超濃硫酸は消火器から吹き出す消化薬の様に水平方向に対して上下30°づつの60°の角度に拡散して約100メートル飛ぶのである。兵士達は岩陰に隠れて伏せた。兵士たちの前面の超濃硫酸を浴びた岩と地面が『ジュー』という音と共に激しく煙を上げた。かなり広い範囲だ。直接浴びていれば体の表面は焼けただれ、内臓と骨が溶けてしまう。岩で跳ねた微量の超濃硫酸が兵士の持つアサルトにかかり、アサルトライフルが煙を上げて溶け始めた。

「うわっ」

「うぎゃーー」

「軍曹! 助けて下さい」

兵士達はパニックになった。

ギャンゴは叫び声を上げると突進した。大きな丸い目が血走しっている。

ギャンゴの見た目は地球のダチョウに少し似ているが、大きさ、体重、パワーは比較にならない。体長は平均で12メートル。体重は30トン。

「下がれ、塹壕まで退却しろ! 武器は捨てて構わん、全速力で走るんだ!」

軍曹が叫んだ。

ギャンゴは時速160Kmで突進する。体色は真っ赤だ。ギャンゴは怒り、攻撃モードになっている。兵士達12個体は四足走行の全速力時速120Kmで乾いた大地を必死に走った。塹壕までは150m、ギャンゴは差を詰めて来る。『間に合わない』誰もがそう思った瞬間、ギャンゴが砂煙を上げて勢いよく転倒した。兵士達は足を止め、四足の姿勢のまま振り返った。ギャンゴの足にはワイヤー絡まっている。ギャンゴは転倒したまま狂ったように暴れている。

「ギイーーーーー! ギイイイーーーーー!! グエッ! グエッ! ギイーーーーーー!!」

転がりながらギャンゴが叫んだ。大きな叫び声は耳をつんざく。

『ドッ!』

大きく低い銃声が轟いた。

「キイーーーー キイッ キイッ」

弱々しい鳴き声を発した後、ギャンゴの体色が白くなり、動きが止まった。体色が白くなるのは絶命したことを意味する。土煙の中、一人の士官が屈んでいた。背中には肩から斜めに掛けたショットガン、手には大きなハンドガンを持っていた。


 MM378は岩と石と砂だらけの荒野が惑星の大半を占めている。地区によって岩と地面の色が違う。北部地区は灰色の岩場が多く、南部地区はオレンジブラウンの岩場が多い。ここ南部地区は一面オレンジブラウンの荒野である。この時間の空は『濃い紫色』だ。MM378は周期の違う恒星が3つ昇るため、可視光線の混ざり具合によって空の色が時間帯で変わるのだ。レジスタンスと連合政府の兵士達の戦闘服は保護色となるようオレンジブラウンである。

「ナナミ大尉ですね! 助けに来てくれたのですか? 危うく全滅する所でした」

軍曹が叫びながらナナミ大尉に駆け寄った。

「私の事を知ってるの?」

ナナミ大尉は立ち上がった。

「はっ、第8師団でナナミ大尉を知らない者などおりません。単独行動でギャンゴを倒すなんて信じられません。ギャンゴを倒した報告例はわずか10例です。その内3例はいずれもロケットランチャーの成型炸薬弾が偶然口の中に撃ち込まれた極めて稀な例です。それ以外の7例はナナミ大尉単独での事例です。ギャンゴは5000個体以上の兵士を殺しています。民間人の犠牲はその10倍以上です。正面切って対決できるのはナナミ大尉だけです!」

兵士達が4足走行でナナミ大尉に駆け寄る。ナナミ大尉は地球にいた頃の姿をしていた。地球人の女性の姿である。MM星人は肌が青く、横に長い長方形の大きな目が一つあり、鼻は殆ど無く、口は大きな切れ込みとなっており、唇はない。兵士達はまさにMM星人の姿であった。


 ナナミ大尉は長袖の襟付きフィールドシャツと、膝丈までのスカートを身に着け、ふくらはぎにフィットしたロングブーツを履いている。色はすべてオレンジブラウンだ。髪型はやや長めのショートカットで色はモカブラウンだ。他の兵士達はズボンを履いているがナナミ大尉は動きやすく、履きなれているとの理由で特注のスカートだった。その姿は凛々しく美しい。髪の毛が風になびいている。映画やアニメの超美形女性兵士キャラのようだ。しかしその姿は地球人の美意識には響くが、MM星人の美意識には響かない。

「今回のギャンゴは凄く狂暴だったの、おそらく強壮剤か薬物を投与されてるの。敵は次々とギャンゴを進化させてるの。危なかったの。首アタックをギリギリで避けたの。でもギャンゴにも弱点があるの。頭頂部ならこの銃で撃ち抜けるの。これで8頭目なの。やっとコツを掴んできたの。もう少し早く対応できればあの兵士も助けられたの。残念なの」


 ナナミ大尉は頭を失った兵士の遺体の方に頭を下げると兵士達に銃を見せた。口径12.7mmのハンドガンだ。大きな立方体のボックス型弾倉が横に付いている。銃身は長さは10インチでサイレンサーのように太い。重量は弾倉も入れると8Kgを超える。オートマチック機構ではなく、レバーを後ろに引いて排莢と装填を行う単純なボルトアクション式だ。あまりの反動の大きさとガス圧により、オートマチック機構だと故障が多発する。左右のどちらからでも操作できるようにボルトレバーが両側についている。1発撃つ毎にボルトを引かなければならない。発射時のガスは銃身の付け根の後部の複数の溝から放射状に吹き出す。弾倉には12.7mm弾が8発入る。ボックス型弾倉には弾がUの字型に収まるようになっている。ブローニングM2機関銃の弾丸、12.7mm×99mm NATO弾を参考にして作られた弾丸だが装薬量は増やしている。12.7mm×99mm NATO弾は弾頭の直径は13mm。薬莢底部の直径は20.4mm。薬莢を含めた弾丸の長さは138mm。固定式の重機関銃や対物ライフルに使用される弾丸である。拳銃弾とはあきらかに違う大きさだ。例えるなら拳銃弾はシシャモで12.7mm弾はサンマである。威力は『17,000ジュール』近くあり、一般的な拳銃弾の9mm弾の500ジュールの『30倍』以上、最強の拳銃弾と言われる44マグナム弾、1600ジュールの弾の『10倍』である。装薬量を増やした弾丸の威力は『25,000ジュール』を超えている。発射の反動は凄まじく、地球ではハンドガンで使用されることは無い。人体が反動に耐えられないのだ。弾丸は炸裂弾と焼夷弾と徹甲弾がある。今回ナナミ大尉は徹甲弾を使った。タングステンを弾芯にした徹甲弾は25mmの鉄板を貫通する威力がある。

「これが対ギャンゴハンドガンですか。凄い威力ですね」

「これは試作品なの。さすがに反動が強いの。銃(ガン)というより砲(キャノン)なの。ワイヤー銃でギャンゴの足にワイヤーを絡ませて、転ばせて頭頂部を撃つの。タイミングを間違えるとギャンゴの首アタックと超濃硫酸噴射にやられるの。それにワイヤーは1分位で千切られるから早く頭頂部を撃てる位置に移動しなきゃならないの。ギャンゴが暴れると狙いをつけるのが難しいの」

「恐ろしくて私には出来ません。タイミングを間違えたら確実にやられます」

軍曹の声は微かに震えている。

「倒れているとはいえ、暴れているギャンゴに近づくなんて無理です、ギャンゴは真っ赤でした」

兵士達も震えている。

「今度レジスタンスのキャンプで訓練をするから参加するといいの、私が教官をやるの」

「ナナミ大尉直々の訓練ですか? それは凄い! ぜひ参加したいです」

「私にも教えて下さい。対ギャンゴ戦闘と格闘術を教えて下さい。格闘戦を強くなりたいです。ナナミ大尉の強さは噂に聞いています、方面軍で最強との噂です。『ムスファ』ですよね! お願いします」

「私にも教えて下さい、20万個体いる方面軍で一番強い軍人に教えてもらえるなんて、こんなチャンス、まずありません。ギャンゴを8頭も倒すなんてさすがムスファです、本当に強い」

「そう、私は『ムスファ・イーキニヒル・ナナミジョージフランクアマノ』なの。私の格闘術は超実戦的なの」


 MM378ではギャンゴを狩ることは禁止されていた。野生のギャンゴを狩ることは自然の摂理に反する行為だと考えられていたからである。しかし第1政府はギャンゴを兵器として使っている。ナナミ大尉は第1政府の放ったギャンゴに遭遇したのだ。

「貴方達はここで何をしていたの?」

「はっ、我々は連合政府第8師団 第5連隊 第3大隊 第1中隊 第3小隊の第1分隊です。ここは味方の最前線です。ポイント9(ナイン)監視所の構築準備をしています。今は小さな塹壕とポングスト装置(攻撃用脳波を増幅する装置)があるだけです。我々は敵の斥侯部隊と交戦していました。敵を殲滅したところで、突然ギャンゴが現れたのです。敵はギャンゴを呼び寄せる装置を使っているようです。パスワードが解除されたままの装置を鹵獲しました」

「装置は早く本部に運んで解析するの。あの兵士の遺体も運ぶの」

「はっ、ナナミ大尉、アサルトライフルの威力はすごいです。敵の銃は単発式です。撃ち負けることはありません。塹壕戦ではショットガンが役に立ちます。ロケットランチャーも有効です。敵の大型ホーバーを一発で撃破できます。今回は敵の斥侯分隊16個体を5分で制圧しました。素晴らしい武器を与えてもらい感謝します。この武器のおかげでレジスタンスと連合政府は反撃に出ています。形勢は逆転しつつあります」

軍曹はショットガンを掴んで頭上に掲げた。

「軍曹の言う通りです。以前は敵の銃になすすべがありませんでした。敵の一斉射撃で仲間が沢山倒されました。怖ろしかったです。しかし今は我が方が有利です。この銃一丁で敵の銃の何十丁分もの威力があります、負けません」

一等兵の階級章を付けた兵士も銃の威力を力説した。

「確かに今は有利なの。でも、敵もすぐに同じ銃を量産するの。すでに何丁か鹵獲されてるの。だから脳波戦と格闘戦の訓練も怠らないで欲しいの」

「はっ、ギャンゴも強敵です。我々も大尉の戦い方を学んで対抗します」

「地球から宇宙船が来れば対ギャンゴ用の銃とワイヤー銃が沢山配備されるの。そしたら訓練を開始するの」

「はっ、訓練をよろしくお願いします」


 ナナミ大尉は元第1政府の軍人でジョージ大尉として軍に従事していたが今はレジスタンスとして第1政府と戦っている。地球での名前は『天野七海』だった。ナナミ大尉は地球から多くの物を持ち込んだ。MM星人は脳波で戦うため物理攻撃兵器は持っていなかったが、第1政府が平和条約を破って物理攻撃兵器を開発し、使い始めた。第1政府の開発した物理攻撃兵器は、装薬カプセルと弾丸を別々に装填する火縄銃に近い原理の銃だったが物理攻撃兵器の存在しなかったMM378では脅威となりレジスタンスや連合政府の兵士達を震えあがらせた。しかしナナミ大尉の持ち込んだアサルトライフルとセミオートショットガン、ロケットランチャーがコピー生産され、大量に配備された今、形勢が逆転した。その威力に第1政府の兵士達が恐れをなしている。地球の武器を参考に作られたこの武器は対MM星人用に威力をアップさせている。ナナミ大尉が地球からMM378に戻って8ヵ月が経過していた。当初、連合政府とレジスタンスは第1政府に苦戦していたが、3カ月前から攻勢に転じて第1政府の支配地域を次々と解放している。12の政府を支配していた第1政府も今では自政府のみとなり追い込まれている。連合政府とレジスタンスは第1政府の本部があるババイノキ州の都市、マコイシーノまで120Km迄迫っている。連合政府の足並みが揃い、第1政府の持つ物理兵器よりも高性能の物理兵器を生産している事が戦況を変えたのだ。


 レジスタンスに迎え入れられたナナミ大尉はは訓練教官としてババイノキ州の隣の州のディーズキャン州の都市ミキランスーの前線キャンプにいる。レジスタンスのキャンプにはかつての部下のジーク少尉とジャック少尉がいた。レジスタンスのキャンプには2個中隊、500個体の兵士が訓練を受け、時には実戦参加している。ナナミ大尉は中隊長にはならず、キャンプの責任者であるトージョー大佐の下、教官として民間人だったMM星人や連合政府の兵士達に白兵戦と脳波戦や物理兵器の取り扱いを教えていた。特殊任務で作戦に参加することも多い。ナナミ大尉が宇宙船で運んだMZ会が開発したアサルトライフル100丁、ショットガン50丁は、秘密裏にコピー品が製造され、4カ月前に、前線に大量配備され、一斉に使い始めたのだ。第1政府の兵士達は、高性能な物理攻撃兵器の突然の登場に混乱している。ナナミ大尉は物理攻撃兵器の他に白米やペットボトルの水、フリーズドライの味噌汁、缶詰、音楽CDやプレーヤー、雑誌、映画のDVDなども持ち込んでいる。CDやプレーヤーはすぐにコピーされ、レジスタンスのキャンプや周辺の町などに出回った。

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