カナラズモドル ~異世界よりも大事なこと~
カマモリリョウ
第1話
急げ!急げ!急げ!
私の名前はマシロ ヒロム。全速力で自転車を漕いでいる。
額から垂れる汗を拭う暇もない。向かう先はモリオ病院。
そこで今、新たな命が生まれようとしている。
私はそこに立ち会わないといけない。
前方に横断歩道が見える。あれを渡れば病院はすぐだ。
信号が点滅し始める。
(この距離だったら渡れるぞ)
ペダルを漕ぐ足に力を込める。
歩行者はいない。一気の横断歩道に突っ込む。
突然、目の前が光に包まれた。全身から照らされている。
トラックが俺に気づかず、そのまま左折してきたみたいだ。
あっ死ぬ
直感的にそう感じた。
だが、身体は正直だ。勝手に右足に力が入る。
ペダルを踏み込む。
間一髪だった。後輪と車体がスレスレだった。
止まっている暇はない。
勢いそのまま病院へと突っ走る。
駐輪場で自転車から飛び降りる。
玄関を抜け、患者や看護師を避けながら階段を駆け上がる。
(あそこを曲がったら分娩室だ)
足はパンパンで喉は焼けるように痛いが、我が子のためならなんてことはない。
「えっ」
何も無い。真っ暗だ。照明が付いていないのではない。闇が広がっている。
踏み出した足は、もう引き返せない。
そのまま闇へと吸い込まれていく。意識が遠のく。
「はっ!」
木々の間から差し込む太陽の光で目が覚める。
「どうなってんだ。病院にいたはずなのに」
思わず独り言がこぼれる。
周囲を見渡しても建物や道、標識すら見当たらない。
(くそっ!こんなことに巻き込まれてる暇はないってのに)
ガサッ。
後ろから何者かが近づく音がした。
(人か?とりあえず携帯を貸してもらおう)
「あの…」
振り返ったことを後悔した。いや、振り返らなくても後悔しただろう。
そこには熊のような猪のような、ゲームに出てくるモンスターのような獣がいた。
鼻息を荒くして、今にもこちらに襲いかかってきそうだ。
(何だよこいつ。見たことないぞ。ここは日本じゃないのか)
ゆっくりと後退りして、距離を取る。
(こんなところで死んでたまるかよ!)
カチッ。
足に何かが当たる。モンスターに注意を払いつつ、足元を確認する。
剣が落ちている。
(何で剣が。さっきまで無かったのに。でも、使うしかないか)
どうせ逃げても隠れる場所はないし、モンスターに追いつかれて命を落とすのは目に見えていた。
剣を拾い上げ、身体の前に構える。
陽の光が剣に反射してキラリと光る。
その瞬間、モンスターが突進してきた。あっという間に目の前に迫る。
「うおおおおお!」
剣を野球バットのように振り上げ、一気に振り切る。
剣先は飛びかかってきたモンスターの首にちょうどヒットした。
そのまま思いっきり薙ぎ払うように、振り切る。
あまりの勢いに剣ごとモンスターをふっ飛ばしてしまった。
モンスターは頭部を木にぶつけて剣が首に喰い込み、そのまま動かなくなった。
どっと疲れが押し寄せる。
その場に尻もちをつき、動けなくなってしまう。
そのとき、遠くから声が聞こえてきた。
「おーい、大丈夫かあ」
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