第7話 魔法の属性

「――美味しいわね。貴方、料理が上手だったのね」

「あ、ありがとうございます。両親が死んでからは俺が料理を作っていたのでそれなりに自信はあります」



マリアの元に世話になる以上、彼女の役に立つためにナオは家事の手伝いを行う。マリアはナオの手料理を美味しそうに味わいながら今後の事を話し合う。



「今日の実験で貴方の魔法の性質は理解できたわ」

「えっ!?本当ですか?」

「異界人が造り上げる魔法は現代の魔法の常識が通用しない事は予想できたけど、貴方の魔法は防御魔法の究極系、言うなれば絶対防御魔法よ!!」

「ぜ、絶対防御魔法!?」



確信を抱いた表情でマリアは「ステータス」の魔法は防御魔法の中でも最高峰に位置する魔法だと判断するが、その話を聞いてナオは疑問を抱く。



「あの……魔法の事はあんまり詳しくないんですけど、防御魔法は要するに自分の身を守る魔法なんですよね?それだとしたら俺の魔法はどうして変な文字が浮かぶんでしょうか?」

「……確かにその点だけは腑に落ちないわね。もしかしたら他にも秘密があるかもしれないわね」



ステータスは防御魔法と断じたマリアだが、ナオの言葉に難しい表情を浮かべる。せめてナオのステータスが他人にも見えれば研究も捗るのだが、現状ではステータスは防御魔法のように物理や魔法の攻撃を防ぐ事ができるのは実証済みである。



「文字に関してはおいといて、貴方の魔法は操作できるという話だったわね?」

「あ、はい。最初は動かすのに苦労しましたけど、なんかコツが掴んだ気がします」



練習していくうちにナオはステータス画面を少しずつ早く操作できるようになり、その気になれば画面の規模も変えられるようになった。但し、長時間ステータス画面を開き続けると疲労が溜まるのも判明した。



「魔法を使えば身体が疲れるのは魔力を消耗している証拠よ。魔法を今以上に扱いこなすとしたら魔力を操作する方法を学ぶ必要があるわね」

「え?それって師匠が魔法を教えてくれるという事ですか!?」

「期待させて悪いけれど、風属性の魔法はエルフにしか扱えないわ。私が教えられるのはあくまでも魔力を操作する方法だけよ」

「それって……どういう意味ですか?」



魔法は教えられないが魔力を操作する術を教えるというマリアの言葉にナオは不思議に思うが、彼女は机の上に水晶玉を置く。色合いは無色だが、どことなく神秘的な雰囲気を纏っていた。



「先生、これはなんですか?」

「これは吸魔石と呼ばれる特殊な水晶を削り出して作り出した水晶玉よ。こうやって触れてみると……」

「あ、緑色に変わった!?」



マリアが両手で水晶玉に触れた瞬間、水晶玉が一瞬にして緑色に染まり、彼女が手を離すと瞬時に水晶玉は無色へ戻る。



「こんな風に触れた人間の魔力を吸い上げる事で色が変化するのよ。ちなみに変化する色は触れた人間の適性魔力によって変化するわ」

「適性魔力?」

「魔術師が扱える魔法はどんな者でも一種類に限られるのよ。私の場合は風属性の魔法はほぼ全て扱えるけれど、他の属性は一切扱えない。絵本などでは複数の属性の魔法を操る人間が描かれているけれど、実際には複数の属性の魔法を扱える魔術師は存在しないのよ」

「そ、そうなんですか!?」

「適性魔力は文字通りに自分の身体に見合った魔法の属性の事を意味するの。私の場合は風属性が適性魔力だけど、人間の魔術師は火属性の適性魔力を持つ者が多いと聞くわね。ちなみに火属性の魔術師が水晶玉に触れたら赤色に変色するはずよ」

「へえ、それなら俺は何色なんだろう」

「あ、待ちなさい!?」



ナオは話の途中で水晶玉に手を伸ばすと、慌ててマリアは止めようとした。だが、時すでに遅しでナオの両手が水晶玉に触れた瞬間、全身の力が抜けてナオは机に突っ伏してしまう。


水晶玉に触れただけでナオは全身の力を奪われる感覚に襲われ、身体に力が入らずに困惑する。しかも水晶玉の色合いは全く変わっておらず、逆に透明度が増していた。



「な、なんれしゅかこれぇっ……?」

「はあっ……ちゃんと説明しておくべきだったわね。この吸魔石は魔力を操作できる人間以外が触れたら大変な事になるのよ。ほら、離しなさい」

「うわっ!?」



水晶玉に触れている間は呂律が回らない程に力が抜けるが、マリアが水晶玉を引き剥がすとナオは力を取り戻す。だが、全力疾走を終えた後のような極度の疲労に襲われて身体がまともに動かせなかった。



「はあっ、はあっ……な、なんで先生はそんなの普通に触れるんですか?」

「魔力を完璧に操作できれば吸魔石に触れても平気なのよ。魔力を体内に完全に抑え込めば魔力を奪われる事もないの」



マリアは水晶玉を見せつけると、先ほどは触れた時は緑色に変わったはずだが今は無色のままだった。これは彼女が吸魔石に魔力を奪われていない事の証明であり、一流の魔術師ならば誰もができる芸当だという。



「魔力を完璧に操作できるようになれなければ魔術師は名乗れないと思いなさい。それはそうと、さっき貴方が水晶玉に触れた時は色は変化しなかったわね」

「そ、そういえば……もしかして魔力が少なすぎて色が変わらなかったとか?」

「いいえ、どんなに少ない魔力だとしても水晶玉が吸収していたとすれば変化が起きるはずよ。私の見た限りでは貴方が触れた時は水晶玉は透明感が増していたわ」

「と、透明感?」

「風、火、水、雷、地、聖、闇……魔術師はこの七つの属性のいずれかの魔力を操る事で魔法の力を生み出す。だけど、貴方はそのどれにも属さない無属性の魔力の持ち主のようね」

「む、無属性?」

「……分かりやすく言えば貴方に魔術師の才能はないという事ね」

「ええええっ!?」



可愛そうな人を見るような視線でマリアはナオを見下ろし、残念ながらナオはマリアと違って適性魔力は存在せず、魔力を操作できるようになっても魔導書で習得した「ステータス」を除く他の魔法は覚えられない事を意味していた。



「ど、どうして魔法が覚えられないんですか?」

「無属性の魔力の持ち主が魔術師になったなんて話は聞いた事もないわね。無属性は文字通り、どの属性にも属していないから一切の魔法が扱えない。だからといって落ち込む必要はないわ、魔術師の素質を持たない人間は全員が無属性なのは当たり前の事なんだから」

「そ、そんな……」



魔術師の素質が無い人間は「無属性」なのは当たり前の話らしく、古代魔法を覚えたナオも本来ならば魔術師になれる才能は持ち合わせていない。つまりは「ステータス」の魔法以外は覚える事はできない事が確定した。



「まさか無属性の人間でも魔法を覚えられるなんて異界人の残した魔導書は大した物ね。いえ、もしかしたら魔法が使えない人間でも覚えられるような術式が施されていたのかしら?」

「あの……先生、結局俺はどうしたらいいんですか?」

「そうね……無属性とはいえ、貴方は既に魔法を覚えているのだから魔力を操作する術を身に着けておいて損はないでしょう。これからは毎日この吸魔石に触れて自分の身体に流れる魔力を感じ取り、操れるように努力しなさい」

「こ、これを毎日触るんですか?」



ナオは少し触れただけで全身の力を奪った吸魔石に恐れをなすが、そんな彼にマリアは注意した。



「言っておくけれど、逃げようとしたら私は貴方を何処までも追いかけて捕まえるわよ。折角手に入れた古代魔法の魔導書を無駄にした責任は重いわ……仮に森から逃げ切ったとしても、一生かけて貴方を追い掛け回すと思いなさい」

「ひいいっ!?」



マリアの言葉が本気であると知ったナオは涙目になり、この日からナオは魔力操作の技術を磨く修行を課せられた――






※脱走した場合はこうなります


===ヘ( ゚Д゚)ノ虫アミ ===ヘ(゚Д゚)ノ

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