第20話:結末

その日の帰り道、ミテルくんは歩道橋の上に立っていた。


公子が小さくガッツポーズをしながら歩道橋を降りた時、少し離れたところからこちらを見ている白い制服の二人連れの姿が目に入った。

一人は時任で、もう一人は、昨日の商店街の一件で時任に指示されながら走り回っていた若い男だった。


近づいてくるイケメン二人と公子の異様な空気感を察して、千佳と彩芽は『後で詳しく聞くからね!』と口パクで公子を脅すと、にこやかな笑顔を振りまいて帰っていった。


「彼、あそこに移動したんですね」


映画のワンシーンかと思うようなイケメンの登場に、やはりカッコいいなと見とれてポーっとしていた公子が、その一言にドキッとして目を泳がせる瞬間を、時任は見逃さなかった。


「そ、そうみたいですね」


「なんで、でしょうかね。何か心当たりは?」


公子は今朝のことを正直に伝える気にはなれなかった。

話せば分かってくれた、そんなことを言っても一笑に付されてしまうに違いない。

ごめんで済めば警察要らない、と同じように、話して済むなら白黎社は要らない、のだ。


「さぁ、私には何で上に行ったのか、さっぱり分かりません。」


それは公子の正直な気持ちだった。


背の高いイケメンは公子の目線まで腰を落とし、顔を覗き込んできた。

事実を伝えない心苦しさと、イケメン圧によって、公子は少し後ずさりした。


「本当に、無縁体の行動は、我々でも掌握しかねるから、報告書にも理由なんていらないんだけどね。

でも、昨日あれほど暴走してまでもこだわった歩道橋下から動くってのは、なかなか、通常のケースでは考えられないんだけどね。」


そう念押しするように言って、顔を公子から離すと、新たな居場所に立つ無縁体に目を向けた。


「まぁ、彼、ちょっと特殊な無縁体みたいだから。」


そういえば、昨日の暴走もミテルくんの特殊性が原因だったというような話だったな、と公子は母から聞いた話を思い出していた。確か、あの報告書も、この時任が書いたらしいものだった。今日はおおかた、昨日の事件について事後確認に来た、といったところだろうか。


「まぁ、なんにせよ、君の願いは叶ったってことだ。」


良かったね、と口では言いながらも、公子が何か隠していることを見抜いたような素振りで手を上げると、歩道脇に止めてあった車に乗って帰っていった。


公子はふーっと、息を吐いて汗ばんだ胸のブラウスをパタパタと引っ張って風を送った。


振り向くと何もなかったかのように無表情なミテルくんが、いつものようにただ、こちらを見つめている。


確かに、無縁体は謎が多い、公子もそう感じ始めていた。


***


以降、公子の通学路に”個人的な障害”はなくなった。

代わりに、ミテルくんの横を通り過ぎる時に、誰にも気づかれないような小さな声で挨拶をするのが公子の日課になった。


ミテルくんは、返事こそしないがきっと私の声は届いている、その小さな秘密が、公子の中でミテルくんを特別な存在に変えていった。


もうすぐ、公子の修行が始まる。


公子は、自分の能力ちからの秘密を自ら学んでいこうと思った。もしも、もしも、自分にそういう能力ちからがあって、話して済むなら、本当に白黎社なんて要らなくなるかも知れない、そんな絵空事を胸に秘めて。


無縁体の滅霊に関して、まだよく知らない公子の未来は明るく見えた。



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