ある暮らし

齊藤巻繊

ある暮らし

角ばつて透いてきのふの雪達磨

ドアノブは背中合はせに春を待つ

あらそへど卓にミモザのある暮らし

どうせ別れ話に帰着する朧

剪定のもう誰のためでもない庭

見てをれば椿あられもなく落つる

百合挿して百合の角度に定まりぬ

時の日や雲は前世をかんがへる

あぢさゐはほんたうの眼をかくしをる

放しても少しとどまる螢かな

どの部屋のどのカレンダーも七月

冷蔵庫開けばひかりほかになし

打水を踏みゆくタイヤまたタイヤ

電柱に中身八月十五日

来世には今世思はむ薄紅葉

椅子売り場の椅子に座つてゐる子規忌

眠るには流星あまりにも多し

木犀の方角にある新居かな

荷造りや向きさまざまに狂ひ咲く

ろんろんと戸を引いてゐる三日かな

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