俺はあいつが好きなんだぁぁぁあああ!

HerrHirsch

三角関係水入らず

「うぃ~、今日もやってこー!」

〈ktkr〉

〈よっしゃ、俺も描くぞ~〉

〈晩酌の時間じゃー〉

のどかな雰囲気。このコメント欄の安定性は、彼女のカリスマ的統率力のたまものである。

[本日の目標:執筆20,000字]

「うげー、しこちゃんちょっちきつくなーい?」

〈鬼畜()〉

〈しこちゃん見ってる~?〉

〈仲いいなー〉

俺はしこちゃん、こと古末〔ふるすえ〕色納〔しこいり〕、22歳。この配信主である彼女、津垣〔つがき〕由利〔ゆり〕の専属編集者兼プランナーである。

津垣、或いはペンネームである【石垣野花】の名で知られる小説家。執筆を中心に、歌唱、舞踊、絵画などなど、様々なコンテンツを提供する総合娯楽芸術家とも言うべき存在。今、彼女はその活動の軸として行っている動画配信の最中である。

「ま、今日は【うりゆり】最終章のクライマックス、書いていくよ~」

〈おしきた〉

〈楽しみすぎるぜ〉

〈その言葉だけで一升瓶いける〉

〈酒豪居るぞ〉

【うりゆり】、【汝〔うぬ〕が料理は雄大に凛々しく】。彼女が現在書いている小説のタイトルである。いわゆるweb小説形式で投稿しているのだが、原則無料での配信でも十分に収益を上げられるくらいには話題性・人気共に大きい作品である。既にコミカライズ、アニメ化も決定している。と言ってもコミカライズについては彼女の挿絵を基軸として作り上げる形になっているが。

結局のところ、彼女の作品は殆ど自給自足。外部に頼ることはあまりなく、作ったらあとは俺が各所に売り込んでメディアミックスなど収益の見込める多元化に努めるわけだが、この配信はその基盤、民衆に対して【石垣野花】の心象を植え付け、作品に親しんでもらうための第一段階なわけだ。

「うーん、ここどうするかな……すざちゃ~」

「はいは~い!」

〈早速すざちゃ登場〉

〈今日も元気で助かる〉

〈癒されるわ~〉

そして、その彼女を支えているもう一人が、宇和上〔うわがみ〕朱雀〔すざく〕。プログラマー、兼作曲家であり、同時に動画編集者もこなす優秀なサポーターである。

津垣を最も近くで支えるファンであり、津垣に対して狂信的なまでの献身ぶりを見せる、愛されキャラだ。

「このシーンなんだけどさ、すざちゃ的に歩〔あゆむ〕の心情見るとどんな感じ?」

歩、というのは、【うりゆり】のヒロインである。津垣は時折、純粋な乙女心の指標として、自身ではなく宇和上の目線を用いる。

「そうですね、多分怒りよりも驚きの方が大きいと思います。この状態なら、多分「えっ……。」って感じですかね?」

「さっすが~、愛してるよ~すざちゃ~」

「えへへへ…失礼します!」

〈今日もてぇてぇなぁ〉

〈相変わらず仲良し〉

〈すざちゃ愛してるぞ~〉

「あー、すざちゃは渡さないからね~」

…とまぁ、こんな百合っぷりもまた配信の魅力なのだが、津垣はすぐさま執筆に戻り、宇和上も編集室に戻っていく。ビジネスライク、というのが実態だ。視聴者も感付いているが、この二人は仲のいい女友達というのが実情で、決して同性愛があるわけじゃない。宇和上の方は津垣を心酔しているが、それもいわゆる【推し】として。決してこの間に愛はない。

そう俺が信じてやまない理由。それは単純だ。

俺は、宇和上朱雀が、好きなのだ。

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