第97話ドラゴン
「あの方向、帝都の方角やな」
隣からそう声が聞こえた。
しかし、それどころではない。
「あれの倒し方は?」
「知らへん。あったらとっくにやり行っとるわ」
それもそうか。
ドラゴンのところに行き、なんとかしたいところだが目の前の男を放置はできない。
「ま、待ってぇや。死神の目ださんといて。協力するから」
信用できない。
「ちょ、話聞いて。・・・・・・ッ!危ないな。・・・・・・分かった、死神の情報話すから」
死神の情報。
確かに欲しい。
だけど、こいつには前科が・・・・・・
「もう、止まって・・・・・・操られてたんや、死神に」
操られていた?
死神には人を操る能力もあるのか?
やはり情報は欲しい。
「・・・・・・怪しいことはするなよ」
「ふぅ・・・・・・肝が冷えたわ。あのドラゴンに効くか分からへんけど策がある」
その策はやってみる価値があるものだった。
なんでもリーセスが使う魔法、幻惑魔法は応用すると相手を睡眠、麻痺、毒状態にすることができるらしい。
動けない状態にし毒で弱らせるという策だ。
それぞれ別々に魔法もあるが相手の大きさが大きすぎて効く可能性があるのは幻惑魔法のみらしい。
話している間にもドラゴンは同じ方向に何度か同じように攻撃を続けている。
話し終えるとリーセスはすぐさま行動にうつし始めた。
僕は援護のためにドラゴンの正面に瞬間移動する。
ドラゴンはすぐに僕に気づき噛み付こうとしてくる。
それを瞬間移動で避けながらドラゴンの気を引く。
巨大なのにとても素早く攻撃してくる。
瞬間移動で避けているとはいえ油断はできない。
避けていると下から光りが見えた。
リーセスが魔法を使っているのだろう。
かといってまだドラゴンは動いているのでそちらを見ることができない。
ドラゴンは止まる気配がなく少し時間が過ぎる。
するともう一度光が見えた。
ドラゴンは僕がうっとうしかったのだろう口を大きく開け奥からここまで熱気が伝わるほどの火を放とうとしている。
当たったら骨も残らなさそうなその攻撃のタイミングを計る。
不用意に反対側に瞬間移動してそちら側に打たれては僕は避けられるがその先はウェンテライウ王国だ。
タイミングを計っていると徐々に火が消えていった。
何か別の攻撃が来るのではないかと警戒したが、そうではないことがすぐに分かった。
下からリーセスの成功の合図である光魔法による光が見えたのだ。
念のためもう一度ドラゴンを見て止まっていることを確認しリーセスの横へ瞬間移動する。
「成功したのか?」
「わぁ!ビックリした。もうやめてぇや。・・・・・・まだ成功とは言えへんで。まだ毒にかかってへん。耐性が強すぎるんや。今んとこ麻痺しかかかってへん」
「できそうなのか?」
「麻痺は後もって一時間、それ以内に毒にかけられるかは五分五分や」
「分かった。頑張ったくれ。僕はやることがある」
「なあ、ちょっと冷たない?・・・・・・ってもうおらんかった。まあ、こっちの仕事をしますかね」
そう言ってドラゴンを毒状態にするために魔法を使い始めるのだった。
瞬間移動した僕は水や氷の魔法の魔方陣をドラゴンの周りに設置していた。
先ほど見た高温の火。
あれは魔法によって作られたものではなかった。
明らかに体内で作っていた。
それを体内から出せると言うことは火には耐性があると考えた方が良い。
そしてドラゴンの体内が熱いという仮説から冷やせば弱体化、少なくともあの火の攻撃はなくなると考えた。
あれは僕が避けてもその後方にある何かに当たる可能性がある。
それに注意しながら倒すのは不可能に近いだろう。
口を何かで縛るという手も考えたがワニのように開く力が弱いとは限らないため実行にはうつさなかった。
また、一人では開いたままの口を閉じさせることができないという点もある。
あるだけの魔方陣を設置した後、新たに魔方陣を作成しながら設置していく。
30分ほど経っただろうか。
「グルル・・・・・・・・・」
今まで止まっていたドラゴンから声が漏れた。
毒にかかったのだと思ったが、念のためリーセスのところへ。
「かかった、かかったで!!」
ついた瞬間そんな声が聞こえてきた。
「どれ位削れるんだ?」
「そやな、3割ってところやろうな。耐性高すぎてもう一度かけるとかは無理や」
3割か。多いのか少ないのか。
まあ、巨大な分タフと考えれば良い方なのかもしれない。
やはり、なにか大きい魔法を放たないと削りきれないかもしれないな。
と言っても考えている暇はない。
いつ麻痺が解けてもおかしくない状態だ。
長くて一時間なのだ。
「巻き込まれたくなかったら逃げておけよ」
「なあ、やっぱり冷たすぎない?・・・ってもうおらんなっとるし。しゃあない、逃げるとするか」
逃げていくリーセスをドラゴンの真正面から見ている。
正直まだリーセスを許してはいない。
そして、信用もしていない。
しかし、あの魔法と言葉遣い。
そして、限りなく近い境遇という言い方。
僕と同じ元日本人の可能性が高そうだ。
そのため、少し信じてもいいのかもしれない。
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