第63話魔獣襲来
「魔獣の群れだ!!」
その言葉は辺りを騒然とさせ、皆に伝わっていく。
「一旦王城に戻るぞ」
「何で?早く魔獣を対処しないと」
「何処に出たのかも分からん。情報収集が先だ」
「分かった。なら早く戻るぞ」
王城に着くとそこもパニック状態だった。
街のほぼ全方位から中級から上級にかけての魔獣が押し寄せてきているらしい。
今は警備軍が押し止めているがそれも少しずつ後退しており街に被害が及ぶ可能性もあるとのこと。
「2人ともここで待ってて。行ってくる」
「待て!」
「何だよ、レクス。早く行かないと」
「私も行こう」
「おい、何言って……………」
「私も行きます」
「え?ちょっ、マイまで?」
「私が行かずに護衛に任せたとなれば何と言われるか分からん。それに私が行った方が兵の士気も上がるだろう」
「それもそうだけど……………」
「カイ君だけ危険な場所に行くのは許しません」
2人の強い意志を感じた僕は一緒に行くことにした。
時間は少し遡る。
この日は非番だったアゴットは休みにも関わらず練兵場にいた。
そこで自分の鍛錬や後輩の指導をしている際魔獣の群れが来たという報告がきた。
練兵場には警備軍の人間がよく集まるので真っ先に伝わった。
その知らせを聞いた者は即座に準備をし、伝えに来た者と魔獣の元に向かう。
その道中。
「アレス」
「はい、何でしょう」
「魔法部隊の編成と指示は任せた」
実は、魔法の腕はアレスが警備軍トップなのだ。
その言葉に一瞬目を見開くアレスだったが、
「かしこまりました!!」
と返事をした。
これは彼が指揮する初の実戦である。
その覚悟をこの返事から感じたアゴットは少し笑みを浮かべる。
それはまるで自分の息子の成長した姿を見た親の顔であった。
しかし、今はそんな悠長な時間は無いためすぐに気を引き締め直す。
「皆、歩を止めずに聞いてくれ。今回は中級から上級の魔獣だそうだ。そのため門を徹底的に守るぞ!」
『おお!!』
「アレス、お前からも何か言え」
「はい。……………基本2人以上で行動するようにしてください。そして、魔法兵は出来るだけ得意魔法が被らない人と行動してください。王都を守りきりましょう!」
『おお!!』
アゴットからしてこれは80点。
上に立つ者は堂々としていなければならない。
ましてや戦いの前に部下に敬語はダメだ。
しかし、あえて自分が言わなかったことは全て言った。
だから、80点。
こうして門に着くと魔獣は数百メートル先から走って来ているのが見える。
初めに見つけた者は魔法を使って発見したのだろう。
まだ時間があるため兵士の配置を決めていく。
門の扉が一番破られやすいためそこの人員を多くし、念のため帝国方面の人員も多くする。
ここまで魔獣が王都に集まることは異常なので帝国が関わっている可能性が高いからだ。
馬車を使い配置がほぼ完了した頃、魔獣の先陣と交戦が始まった。
相手が中級や上級のため一体一体に時間と人員をとられ少しずつ後退せざるおえなくなる。
初めは指揮に徹していたアゴットとアレスだったがそうも言っていられなくなり最前線で戦う事になる。
少し押し返せたが魔獣はまだまだいたためやはり少しずつ後退することになる。
その時アゴットは焦りと責任感から注意が散漫となっており左右から襲ってくる魔獣に気づかなかった。
「アゴットさん!!」
アレスが叫びながら魔法を放つが倒せたのは一体のみ。
もう一体はアゴットと重なっており魔法を撃つことが出来ない。
アゴットはアレスの声により魔獣を確認するがどう動いてももう手後れのところまで魔獣が迫ってきていた。
アゴットは死を覚悟し昔のことを思い出す。
それは故郷の村でのこと。
彼の両親は彼が幼い頃に亡くなり、必然的に周りから少しづつ食糧などを分けて貰う生活が続いた。
そんな彼は次第に村では厄介者扱いされることになる。
ある時村の近くで魔獣が現れ、村の雑用をしていたアゴットが鉢合わせる。
彼は恐怖しながらも親の形見として肌身離さず持っていた剣を抜く。
魔獣は迷わず噛みつこうとしてきたが、それを避け首へ剣を振るった。
それは初心者とは思えない動作だったが、それを見た者はいなかった。
魔獣の素材は売れるため、村に持ち帰ると村の人達は驚いた。
そして、村の人達は魔獣は全てアゴットに任せるようになる。
かといって、彼への対応は変わることは無かった。
それでも彼が魔獣を倒し続けたのは彼の真面目な性格からだろう。
そんな彼の人生は当時王子であった現国王が旅でその村を立ち寄ったことにより大きく変わる事になる。
王子が丁度その村に訪れた頃に魔獣が現れた。
村人はいつものようにアゴットに頼む。
そして、アゴットが魔獣を倒して帰ってくる。
そのアゴットに対する村人の反応。
一連の流れを見た王子はアゴットをスカウトした。
その際、隠していた王子ということを話した上でだ。
そこには有能な者を引き入れたいという思いより不憫な男を救いたいという気持ちがあるように見えた。
当然王子の護衛をしていたもの達は反対した。
それを王子は押し通してスカウトしてきた。
その事を理解したアゴットは村に許可をとれたら応じるということにする。
村には許可がとれなかった。
彼以外に魔獣を倒せる人間がいなかったからだ。
そこで彼は断ることにする。
すると王子は
「このままで良いのか?」
と聞いてきた。
「仕事を放棄するわけにはいきませんので」
「そうか、やはりいい奴だな。私が話をつけてこよう」
「えっ?」
彼が何をするのか聞く前に王子は話していた部屋から出ていく。
少しすると王子が帰ってきた。
「話をつけてきたぞ。改めて聞こう。私の護衛にならないか」
「……………引き受けさせていただきます」
彼は王子がここまでしたことに驚きと同時にこの方が国王になるべきだと思い護衛をすることにする。
そして王子が国王になったときアゴットは警備軍に入る決意を決めた。
側近にならないかという誘いを断ってのことだった。
彼は頭も良かったため側近にもなれたのだが彼の性に合わなかった。
そのため警備軍に入りそこで街を守ることで王の役に立とうと考えたのだ。
その結果彼は警備軍長になり、今に至る。
死を覚悟した彼は自分を見つけスカウトしてくれた国王への感謝と自分の昔とどこか重なるカイの今後を案ずるものだった。
カイは自分よりも圧倒的に強いが彼から自分と似たものを感じていた。
それが何かは自分でも分かっていないが。
そこで警備軍に関する不安がないことに驚く。
しかし、それと同時に納得した。
自分の危機を察して魔法を放ったアレスがいる。
彼は信頼出来るし何より他の兵からの信頼もあつい。
そこまで考えたところで魔獣が目前まで迫っていた。
心の中でアレスに警備軍を託したとき彼の目の前の魔獣の動きが不自然になる。
魔獣の首が飛び胴体と離れる。
予想外の出来事に周りを見渡すとそこには剣を振り上げている男がいた。
「大丈夫か?」
その人物をアゴットは知っていた。
ギルドの最強と言われる男。
ロヴァイトがそこにいた。
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