第10話入学試験
ある小国の一室、その国の王と思われる人物と怪しげな人物が話している。
「して、ウェンテライウの王子の弱みは見つかったのか?」
そう聞くのは国王と思われる人物。
「ええ、明らかに平民の者と親しくしているらしく、同じ部屋で寝泊まりすることもあったとか。婚約者を襲うよりリスクが低いでしょう。」
そう返したのは怪しげな人物だ。
この中の平民の者とはカイのことである。
カイが男か女か、そして護衛ということを言わなかったのは、意図してのことだろう。
婚約者というのは、レクスは次期国王なので次世代に繋ぐために早めに婚約者を決めているのだ。
「ほう、ではその者を攫うことが出来れば………」
「大国を裏で牛耳ることも可能でしょう。」
どこかでそんな話が行われていることを知るよしもない僕とレクスは、入学試験のために学校まで向かっていた。徒歩で。
理由はレクスが友人と徒歩で通学するのも学校の醍醐味だと言ったためである。
たとえ王族とはいえ実力がなければ入れないらしい。
ちなみに家をもらってから半年ぐらい経っている。変わった事と言えば冒険者ギルドに入ったことで身分証明書が手に入ったくらいだ。
試験は実技のみだそうで筆記はない。この世界では魔法を使える者は頭が良い、もしくは良くなる見込みがあるという謎理論があるみたい。
これには本当に助かった。筆記がもしあった場合ソラ監視のもとサボれない勉強の日々が始まってしまうからである。それを避けられただけでも嬉しい。
学校は王城から僕の家とは反対方向で徒歩10分位の場所にある。いくら近いとはいえ王族が徒歩で行くなんて大丈夫なのか?
今更不安になってきた。
結局何ごともなく学校に着いた。
学校は至って普通の3階建ての校舎と体育館、それと魔法の練習場がある。結構丈夫に作られてそうだ。
試験は魔法の練習場でやるみたいだ。
レクスが現れたことで周りが多少ざわついているが気にせず試験会場に行く。
すると、試験官が駆け寄って来た。
「よくお越しくださいました。
レクス様、さあこちらへ。」
「ここでは特別扱いはなしではなかったか?私もしっかり列に並び試験を受ける。」
「そうでございますか。失礼しました。それでは試験に戻ります。」
試験官の人は走って帰って行った。
「よかったのか?」
「いや、周りの様子を見ておくのも大切だ。列に並ぶついでにそういうことをするつもりだ。」
「なるほどな。本命は?」
「お前の魔法が見てみたい。」
そういえばアゴットさんとの模擬戦で使った氷の魔法以外見せたことなかったかも。
向こうで微かに魔力の動きと詠唱みたいなのが聞こえてくる。恥ずかしいから聞かないようにしよう。
そろそろ、僕達の番だ。ちなみにレクスが先だ。
試験の内容は試験官が防御魔法をかけている木製の人形に魔法を放つというもの。僕からすると簡単に突破出来る防御魔法なのだがこれを破れない者が大半を占めているらしい。
この世界の魔法のレベル低いな。
それは良いとしてレクスの番がきた。そういえば僕もレクスの魔法は見たことがなかったな。
詠唱は聞き流して魔法だけ見ようと思っていたのだが、詠唱が聞こえる前に火の魔法が防御魔法を貫き、木製の人形を燃やしていた。
無詠唱派だったんだな。そう思っているとレクスに試験官が話かけていた。
「レクス様は無詠唱派でしたか。無詠唱であの威力さすがでございます。」
「いや、私の護衛には到底及ばん。」
レクスは僕を指しながらそう言った。
僕の攻撃魔法見たことないよね?勝手にハードル上げんなよ。
「ご謙遜を。」
試験官はさすがにそれは信じられないとそんな様子だ。カイは知らないのだが、今のレクスの魔法は今年の生徒の中で断トツトップと言えるほどだった。その魔法で到底及ばないと言われても信じられないだろう。
「謙遜ではないのだがな。まあ見れば分かるだろう。」
そんな感じで僕の番だ。レクスが人形を燃やしたので新しい人形が用意された。
どの魔法を使おうかな?まあレクスと同じ火の魔法で良いかな。今回は速さとかは求められてないから魔方陣は使わず普通に魔法を使う。念のため防御魔法を人形の奥に作っておく。案の定一瞬で人形に使われている防御魔法と人形を貫き僕が用意していた防御魔法に一直線。準備してなかったら試験会場を破壊してたかも。そんなことをしたら怒られてしまうだろう。それを防いだため上出来だと思い周りを見る。ほとんどの人が口を開けたまま動いてない。威力結構抑えたつもりだったんだけどな。やり過ぎたかもと思っていると
「さすがだな。やはり護衛にして正解だったな。」
レクスだけは笑いながらそう言ってきた。
「それでは帰ろう。」
「お、おう。」
あまりにも上機嫌のレクスに戸惑いながら家に帰るのだった。
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