憑かれる女と胡散臭い男

あお

廃ホテル①


 私には昔から霊感らしきものがあった。らしき、と言うのは直接幽霊を見たこともなく、なんか危ないな、なんかいるな、程度の事を感じるだけだったからだ。

 それが本当に霊感なのかどうかも怪しい程度だが、そう感じる時に不用意に踏み込むと大抵嫌な目に合う。

 だから霊感らしきものがあると私は思うのだ。

 そんな力がある私は基本的にそう感じる場所には近づかずに生きてきて今年、地元の大きな大学に進学することが出来た。

 めくるめく青春の始まり――そう考えていた時期が私にもあったが、入学して3ヶ月、ぼっちな大学生活を満喫してしまっている。


 そんなある日、同じ講義を受けていた女の子に合コンに参加しないかと誘われた。

 それが私があの胡散臭い男と出会った始まりであり、怪異と関わり始めてしまった経緯である。



 ――――


「ちょっと人数が足りなくなったから合コンに参加しない?」


 開口1番に私にそう話しかけてきたのは、少し派手な髪型をした女の子だった。彼女は私と同じ高校からこの大学に入っており、覚えている限りは地味めの子だったと思う。

 これが大学デビューかと慄いている私に、彼女は話を続けた。


「実は狙ってる先輩が来るから絶対に参加したいけど、人数が足りないとやらないみたいなの。お願い!」


 同じ高校といえど関わり合いがなかった子からの誘いであったが、断って恨まれたりしても困る。

 本音ではこれで彼氏でも出来てぼっちが解消されたら、なんて事も考えて了承する事にする。

 

 彼女は喜んで私に礼を行ってきた。

 次の金曜日の夜、その合コンがあるらしい。

 ちょっと楽しみにしていた。



 ――――


 つつがなく日にちは過ぎ金曜日の夜。

 私は事前に言われていた居酒屋にやってきた。既に他の合コンの参加者は集まっているらしく、意を決して中に入るとその輪の中に誘われた。


「こんばんわ。君は何か飲む? ビールでいい?」


 席に着くなり、少し年上っぽい男にそう言われる。だが私は未成年なので断り、ジュースを頼んでもらった。

 他の子は呑んでるから気にしないでいいのに、と残念そうに言われたが頑なに断る事にする。見れば、私を誘った子もお酒を飲んで顔を赤くして他の男に寄りかかっていた。

 あれが狙っているという男なのだろうか。


 とまあ合コンが始まり、私は話しかけられる度にはいとか何とか答えていた気がする。というのもいつの間にか私はお酒を飲んでしまっていたのだ。

 飲まされたのか、自分から飲んだのか分からないがとにかくアルコールが回りまともな思考が出来なくなっていた。


 それから1時間か、2時間か。

 私は何故か廃ホテルの前にいた。いや覚えてはいる。みんなのお酒が進んだ頃、誰かが心霊スポットに行こうと言い出したのだ。

 私たちがいた居酒屋から歩いて30分程の場所にある廃ホテル。ここは、地元で有名な心霊スポットのひとつだ。ただし有名なのは出る方じゃなく、あまりよろしくない輩がたむろする方で有名な場所だった。

 だからその話を知っている人はここには近づかない。私も、噂程度に知っている。



「ここの曰くを知っているやつはいるか?」


 私の前にいた男がそんな話を切り出した。その男の手にはスマホが握られており、どうやら心霊スポットを調べているサイトを開いているのが後ろにいた私に見えた。


 曰く、このホテルは経営難によって潰れた。

 曰く、このホテルで自殺者が相次ぎ、心霊現象が頻発するようになって人が遠のき潰れた。

 曰く、首を吊った経営者の霊が出る。


 と、スマホを見ながら男はこの廃ホテルの潰れた理由を並べる。私が知っているのは経営難の話だ。自殺者がいたというのは知らないが、知らないだけである可能性も否定は出来ない。


「こわーい」


 と、怖くもなさそうな声が聞こえてきた。声の主は私を合コンに誘った彼女だった。しれっと腕を繋いでいる。どうやら上手くいったらしい。

 話が進み、いざ中に入ろうということになった。私としては、断るか悩んでいた。

 前述した通り、私には霊感らしきものがある。危ない場所へ近づくと反応するのだが、今はなんの反応もない。曰く通りに、ただ潰れただけのホテルかもしれない。

 まぁ危ない人はいるかもしれないが、男もそれなりにいるので逃げる時の囮にはなるだろう。


 私も他のに混じって中に入る事にした。

 後になって知ったのだが、私の力はお酒が回ると弱まるらしい。

 ――後の祭りというやつだ。



 

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