シーン11 〜犯人候補〜
「まず、状況を整理しましょう、、、」
フラグミールは、少し離れたところにメイタンテーヌを引っ張って行って、屋敷のテラスにあった木製のベンチに腰掛けた。
「とりあえず、犯人の疑いのある人間は誰でしょうか?」
「うん、犯人の可能性がある人物を『容疑者』と呼ぶならば容疑者はーーこの場にいる全員、ということになる。」
それからメイタンテーヌは、屋敷にいる人間の名前を次々と言った。
・メイタンテーヌ・マヨエルホー
・ジョシュヤ・フラグミール
・ボンクラー警部補
・ミスリード・ヨウイン
・イロケスゴイ・コヤーツ
・シン・ハンニン
「いかにも、モブキャラのような屋敷の使用人達はおいておくと、この6人だ。ただ君も分かっていると思うが、私や、助手のフラグミール君が犯人だというのは、あり得ない。そんなことがあれば、あまりにも物語のルール上、アンフェアというか。。。」
「なんですか、『アンフェア』って?」
フラグミールが不思議そうに聞いた。
「とにかく、私や君が犯人じゃないことは、お互い分かっているということさ。加えて、ボンクラー警部補が犯人だった、という可能性も極めて低い。そもそも事件を捜査する側だし、ずっと我々と行動と共にしてきた。もし万が一、彼が犯人だったとしたら、、、島に来た理由は、バカンスを楽しむためじゃなくて、『三人を殺しに来た』いうことになってしまうけど、、、」
「それはそれで、なんだかすごいですね。超絶、予想を裏切る展開」
「確かに、その意外性は魅力だ。しかしながら、彼のキャラクターからいっても、『実は殺人鬼でした』、というのは現実味がない。そうなると容疑者は実質、残る三人。ミスリード氏、イロケスゴイ夫人、それにシン・ハンニン神父に絞られてくる。」
「三人とも、パッと見では犯人とは思えないですが」
「まずミスリード氏。最初の犠牲者、スグシヌンジャナイ氏の遺体が発見されたとき、彼は一階にいた。我々が騒いでいたとき、階段を上って近づいてきたのは少し、あやしいと思うんだ。本当はじっと下で様子を伺っていて、遺体発見のタイミングで、何食わぬ顔で近寄ってきたんじゃないだろうか。それから、何らかの方法で停電を起こしーー遺体の首を隠した後で、電気を点けたというわけだ。」
「なぜ、首を隠したんですか?」
「それは、犯人が自分であることを示す証拠が、首にあったんじゃないかな。たとえば殺害の際に、もみあった末にかみつかれて、口のところに犯人のDNAが付着しているとか、、、なんとかさ」
「でも、スグシヌンジャナイ氏を殺害する、動機がないんじゃないですか。結局、ミスリード氏は不倫をしていなかったんでしょう?」
「確かに、イロケスゴイ夫人と彼は、不倫関係ではなかった。しかし、ミスリード氏の奇妙な女装趣味を接点にして、二人は急速に仲良くなっている。もっと夫人と仲良くなりたい、もっとおススメの女装グッズを教えてほしい。そのために、夫のスグシヌンジャナイ氏が邪魔になったのだとしたら、、、。これは『女装癖が生んだ殺人事件』ということになる。」
「なんか、だいぶ苦しくないですか。それに、それならなぜツギノーギ氏や、フメイナル氏も殺害する必要があるのですか。ミスリード氏にとっては二人とも、ほぼ初対面ぐらいの相手なんじゃないですか」
「うぐぐ、、、確かにそうだなあ。そもそも、ミスリード氏って、はっきり言って、何人も殺しそうなタイプには見えないんだよなあ。。。」
「そうなると、イロケスゴイ夫人ですか?」
「ーー彼女が夫を殺害しなければならない、やむを得ない理由があったと仮定しよう。」
メイタンテーヌが目をつむり、腕組みしながら考える。
「たとえば、、、夫のスグシヌンジャナイと、フメイナル氏が共謀して、イロケスゴイ夫人を殺そうとしていた、とかだ。うん、そうだな、夫人に保険金がかけられていて、保険金殺人を企てられた、、、とか。これなら、フメイナル氏が『まとまった金が入る』といっていたのも説明がつくし、スグシヌンジャナイ氏と今後の殺害計画について、話し込んでいたのも納得がいく。」
メイタンテーヌが、顔を輝かせた。
「なかなか、良いセンなんじゃない?」
「それで、計画に気づいた夫人が先手を打って、二人を殺したってわけですか。女だてらに、男二人を殺せるもんですかね、、、。でも、ツギノーギ氏はどうなります?」
「ーー二人を殺した後、捜査が進んで『保険金殺人計画があった』と分かったら、狙われていた、イロケスゴイ夫人があやしいとなる。だから夫人は、もう一人ぐらい適当に殺しておいて、捜査のかく乱を狙った。」
「適当に殺しておいて、って、、、そんな気軽な感じで、カジュアルに殺されたら、ツギノーギさんが可哀そうすぎるじゃないですか」
「うーん、三人もの人間を殺す理由は、誰に関しても見当たらない。ついでにいうと、トランプのカードを置いた理由も、分からない。同一犯であることのアピール? みたいなものかな、、、」
「最後に、シン・ハンニン神父が真犯人の可能性はないですか?」
とたんに、メイタンテーヌは、ぶんぶんと首を振った。
「それはないない、ないな! あの人が連続殺人犯とかはないーー賭けてもいいよ!」
フラグミールは、はぁとため息をついた。
、、、あらゆる推理が、憶測に満ちている。
このひとは、ひょっとして探偵には向いていないんじゃないだろうかと、フラグミールは考え始めていた。
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