俺ジス小説集

緑のフミラルド

Vol.1

緑のフミラルド・プレゼンツ

俺×ジス作品集




俺と

じすさんと

時々熱波と

作・俺





202X年、突如として現れた謎のウィルスの爆発的蔓延は留まることを知らなかっ

た。

ワクチンの開発と、ウィルス変異株の誕生のいたちごっこを繰り返し、人類に決定

的な解決策はいまだ見つかっていなかった。そんなある時、病原体の世界的権威の研

究者、小崎博士(日系アメリカ人)が、恐ろしい仮説を発表した。

素人の俺にはとうてい理解しきれない話だったが、ネットニュースなどで解説され

ていることを俺なりにかみ砕いて理解したところ、人類の脳内の未解析領域に、ラス

トボックスと小崎博士によって名付けられた領域があり(人間の、いわゆる人格とい

われているものはこのラストボックスに宿っているそうだ)、このウィルスはラスト

ボックスに影響を与え、ヒトを死に至らしめるという話だった。にわかには信じたく

ない話であったが、小崎博士の学説によって小崎ウィルスと呼ばれ始めたこのウィル

スは、どうやら近い将来、人類を滅ぼすことになるようだ。

そんな中で、一部の金持ち達は、電脳領域【アケローン】と呼ばれる仮想世界に、

人格を移植して生き延びようとし始めた。アケローンに人格を移植【コンバート】す

る技術は本来であれば俺のような貧乏人には手が届かず、近いうちに小崎ウィルスに

よって俺も死ぬ運命にあったところであったが、幸か不幸か、結婚したいと思ってい

た彼女にふられたことによって、結婚資金として貯蓄していた金がまるまる浮くこと

になり、なんとかアケローン行きの権利を買うことが出来た。

アケローン行きまで、あと一週間。俺は、現世でやり残したことを果たしに、東京

都足立区の、西新井に降り立った。

小崎ウィルスによって人類は半分以下にまで減っていた。閑散とした西新井駅に、

10年前に通っていた頃の面影はなかった。


俺は、やり残したことをやる。


それは、ザ・スパ西新井で、みんなで重本さんの熱波を受けることだった。

重本さんはザ・スパ西新井の元店長だ。俺達が通っていた頃の、俺達の間では【黄

金期】と呼ばれている時期の熱波隊をけん引した熱波師だ。今は南千住のジムで店長

をしている。

重本さんは、アケローンに移住することも出来ただろう、だが、自らの意思で現世

に残る選択をした。俺は最後にザ・スパで熱波を受けたいと思った時に、真っ先に重

本さんに電話した。普通なら、現在は別の店の店長をやっている重本さんが、ザ・ス

パのサウナで熱波をすることはそんなに簡単なことではないだろう。だが、小崎ウィ

ルスの蔓延で人類の数が半減した現在、ジムも利用者がほとんどいないらしく、「い

いですよ!木岡さんが東京に来る日は有給とっておきますね!」と二つ返事でOKし

てくれた。その時に、重本さんは、アケローン行きを選ばず、現世に残る理由を教え

てくれた。

「そこに僕の熱波を待っている人が一人でもいるなら、僕は最後までサウナで熱波を

送りますよ」……と。


俺は、かつて熱波サークルと呼ばれた連中に召集をかけて本日に臨んでいた。

西新井駅の出口のバスロータリーでしばらく待っていると、遠くから自転車がこち

らへ向かってくるのが見えた。

「じすさん、お久しぶりです!!!」

「ふみあき君久しぶり」

じすさんと最後に会ったのは、2019年の年末に池袋だか新宿で忘年会をした時

以来だった。その後も散発的に、ネット上で通話などはしていたが実際に会うとなる

とものすごく久しぶりに感じた。


「去年のぽれん前くらいの、じすさんのスペースで酔っぱらってムチャクチャしたと

きは本当に申し訳ありませんでした!!!!!」


小崎ウィルス以降、いわゆるオフ会など現実に会うようなことはアンディーメンテ

界隈でも少なくなった。じすさんは定期的にネット上でファンを含めたスペースを開

催してくれている。現実生活でストレスがたまっていた俺は、ついつい深酒をしてし

まった状態でじすさんのスペースに突撃し、ムチャクチャにしてしまったらしいのだ。その時の記憶はほぼなく、アマヒサにかかってこいよ!噛み付いて来いよ!!とか言ったことくらいしか覚えていない。

じすさんは苦笑いをし、ふみあき君は出禁だから!と言った。

「はい…申し訳ありませんでした…」


だが、小崎ウィルス蔓延以降、人類皆、日々を無為に生きている。精神病の発症は

過去にない数になり、アルコール依存症の患者数も激増しているようだ。俺の周りに

はいないようだが、違法薬物もかなりの量出回っているようだった。

皆、倦んでいる。

俺とじすさんは西新井駅からザ・スパ西新井までの5分くらいの道を、他愛もない

会話をしながら歩いた。西新井の商店街の飲食店はもうとっくに営業していないよう

だ。よく行った雪花亭というラーメン屋や、その手前にあったガールズバーもシャッ

ターが閉まっている。


「じすさん、覚えてます?雪花亭でつねくんが藤本さんにキレた事件」

「なんかそんなこともあったような気がするけど、つねたんだっけ?藤本さんがつね

たんにキレんじゃなかったっけ?」

「どっちでしたっけw」

「今日はつねたんも藤本さんも来るん?」

「もちろん呼んでますよ、本場の不死鳥熱波を見せてもらわないと」


俺達はザ・スパ西新井の入っている建物おエレベーターに乗た。 何百回もこのエ

レベーターには乗っているが、毎回気持ちが昂るのを感じる。俺は、これから戦場に

赴くんだ…そういう気持ちにさせてくれる。


俺とじすさんは靴箱に靴を入れ、券売機で入場券とタオル館内着セットを購入し、

館内に入る。受付のスタッフも、もう俺は知らない方で、時間の流れを痛感させられ

る。あべさん、大森さん、まめちよさん、黒河内さん、肉男、海賊王……みんな大学

生だったが、就職を機に世界へはばたいていった漢たちだった。

だが、今夜だけは、それは思い出では終わらない。

店内には今夜の熱波イベントを告知するポスターが掲示されていた。重本さん手作

りのポスター、そこに書かれているのは…

【地球が終わっても俺達は熱波を送り続ける!

レジェンド熱波師再集結!人類ラスト熱波20000発】

の文字に、黄金期の熱波師達の姿が堂々と掲載されていた。そう、重本さんがレジ

ェンド熱波師たちに呼びかけ、一夜限りの再集結となったのだ。


「いや、マジで楽しみですね!!!」

「まめちよさんって四国だったよね?重本さんの人脈すごいね」

俺達熱波サークルは、今夜命を散らす覚悟でこの場に来ている。それは、熱波師達

も同じようだった。

俺とじすさんはザ・スパ西新井の中にある、レストランに入った。ここで軽く食事を

しながら、熱波サークルの面々の到着を待つ。

俺のよく知る頃は、このレストランはひだまりと呼ばれていた。だが今は違う。今

はえびすと名を変え、経営している企業も変わってしまっているようだった。

俺達は窓側の10人ほどは座れるテーブルに就いた。小崎ウィルスのせいで、ザ・

スパ西新井も集客はほとんどないらしく、店内は俺達熱波サークルだけあった。だが、この10人掛けのテーブルに、これから入りきれないほど漢たちが集結してくるのだ。

「じすさん、まだ時間ありますし飲みます?」

「そうね、僕はキリンの瓶にするわ」

「じゃあ僕はスーパードライにしますね」

店員を呼ぶボタンを押す。やってきた店員を見て、俺とじすさんは驚きの声をあげ

た。

「ダンディなおじさん!!!!どうしてここに!!!?」

「お久しぶりです、熱波サークルのみなさん」

彼は通称、ダンディなおじさんさん。このレストランがかつてひだまりだった頃の

従業員であり、つまり現在のえびすは経営企業が変わっているので本来はこの場には

いないはずの人間であった。

「今日、熱波イベントがあってみなさんが来られると重本店長から連絡があったので、お忍びでこっちに来たんですよ」

ダンディなおじさんはかつてと同様にオールバックでキメた髪にメガネ。重本さん

の小粋な演出に目頭が熱くなる。

「お久しぶりです!じゃあ、キリンの瓶とアサヒの瓶ください。あ、二つとも枝豆セ

ットで」

「かしこましました」

おじさんは颯爽と厨房にオーダーを伝え、瓶ビールの栓を開けテーブルに置いた。

「ごゆっくりお楽しみください」

そう言い、おじさんは元の場所へ戻っていた。

「本当、オールスターですね、今日」

「そうね、本当重本さんすごいね」

お互いのコップにビールを注ぐ。本来、熱波前に飲酒するのは非常に危険な行為で

あった。コンディションを最高にもっていった上で熱波を受けるのが常套手段である

が、今夜だけはじすさんとの再会に俺は乾杯したかった。


熱波サークルの皆が集うまではまだ時間があるが、一足先にやりますか……

そう言おうとした時、レストランに入ってくる一人の姿が視界に入った。

「あれは……まさか!?」

ここ数年、テレビや雑誌などで姿をしょっちゅう見ていた、あの漢……

「ドクター・コザキ!!!!!?」

「お久しぶりです、じすさん、ふみあきさんwww」

彼は緑色のコートに緑色のサングラスで、遠目から見ても一目で彼だと認識できる特

徴的な見た目をしていた。

「来れないのかと思っていましたよ!」

「いやあ、たまたま学会が早く終わったので来れました。あ、みなさんもう頼まれた

んですか。じゃあ僕は赤兎馬ロックにしますねwww」

ドクター・コザキ。小崎博士として今や世界的に著名は彼は、緑のエメラルドとい

う名でかつてAM でファン活動をしていた。そのころに俺達は出会った。近年では

彼がマレーシアに行ったり高知県に移住してしまったり、なかなか会う機会も減って

いたが、彼もまた熱波サークルの一員だったのだ。

「研究の方大変なんでしょう?小崎さんは立場上現世で研究しないといけないから

アケローンに移住も出来ないし、大変そうですよね」

「まあいろいろ忙しいですけど、いま高知の酒蔵と一緒に研究していて、今度共同開

発した日本酒が発売されるんですよwww ふみあきさんがアケローンに行ったら送

りますねwww」

「いや、アケローンに酒は送れんでしょう、でもありがとうございます!」

「今日でふみあきさんと会うのも最後になるかも知れませんからねwww 今夜はム

チャクチャにしてやりましょう!!!」

俺は来週には現世から離れ、アケローンに旅立つ。じすさん、小崎さんがアケロー

ンに来なければ、これが最後なのかも知れないのだ。その現実がだんだんと実感とな

ってくる。

小崎さんの赤兎馬ロックがテーブルに置かれる。

「それでは、気を取り直して、乾杯……」

小崎さんが音頭を取ろうとしたその時、また一つ、レストランに入ってくる姿が視

界に入る。

「あれは……はなまめさん!!!!?」

「ふみあき君久しぶり、酒は飲んでも飲まれるな!!!」

「はい!!ありがとうございます!!!」


はなまめさんと会うのもものすごく久しぶりだ。年賀状のやり取りは続けていて、

今年の年賀状には、昨年じすさんのスペースでやらかしてしまった事を諫めるように、「酒は飲んでも飲まれるな」と書かれていた。その年賀状が届いて以来、俺はその言葉を胸に生きている。


「はなまめさんもご家族と一緒にアケローン移住されるんですよね?」

「もうかみさんと娘は先に行ってる。僕も最後の熱波受けたかったからコンバート時

期をずらしてもらったんよ」

「そうなんですね、だったら今夜は骨の髄まで熱波受けましょう!!!!」

はなまめさんもスーパードライを注文し、テーブルに運ばれてくる。

「それでは……まだ熱波サークル全員集まっていませんが、先に始めさせて頂きます、その前に」


俺は乾杯を始める前に、今夜の真の目的を告白する。


「俺は来週アケローンに移住します。みなさんと会えるのもこれで最後になるかもし

れません、そして現世で熱波を受けることが出来るのも最後になるでしょう……実は、俺にはやり残したことがあります。皆さんも薄々思っていたことだと思います。それを今夜、はっきりと決めておきましょう」


皆が静かに俺を見ている。じすさんの目、小崎さんの目、はなまめさんの目……俺

と思っていることは同じようだった。


「熱波サークルの中で、誰が最強のネッパーか、決まってませんでしたよね。重本さ

んをはじめ、熱波師の方々には、毎年、熱波甲子園で最強の熱波を決められます。だ

が、俺達、熱波を受ける者には、序列はついていなかった……つける必要がなかった

からです。熱波を受ける者は、他人との勝負ではなく、自分との勝負だから」


じすさんがニヤリと口元で笑う。

「だけど、俺は今夜、みんなと勝負したい!!!!重本さん、あべさん、

まめちよさん、黒河内さん、大森さん、海賊王……レジェンド熱波師が最初で最後の終結をする今夜、俺達熱波サークルの中で、誰が最強のネッパーか、決めようじゃありませんか!!!!!!!!!!」



~つづく~





次回予告



サウナに集結する熱波サークル。そして歴戦の熱波師達……

熱波師達の繰り出す熱波に、はなまめさんのメガネのフレームは過熱する。

1段目、2段目、3段目……熱波師達の熱波に次々と倒れていく熱波サークルのメン

バー。

そして熱波師が最上段、勇者の段に辿り着いた時、サウナ内に悲鳴が響く。

絶命するじすさん、これは熱波中の事故なのか、それとも殺人なのか?

熱波師達と熱波サークルの過去と現在が、今交錯し、物語は意外な結末を迎える。

次回、「泉和良、その青春」デュエルスタンバイ!!!!!







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オレとジスさんと時々SF‐前編

作:緑のエメラルド



注意:本作品はフィクションです。誇張された表現が頻出しますので、ご注意ください。

私はお世辞にもこう言った文学系の小説チックな文章が上手いとは言えないので、起こったことを坦々と書いていきます。

2013 年4 月17 日、ジスさんの自転車の荷台に乗り、日暮里舎人ライナー・扇大橋駅

まで送っていた。そんな夢みたいな時間の中、気が付くと、1999 年7 月1 日の愛知県

にタイムスリップしていた。

随分と遡るが、私は、1998~1999 年頃に当時、販売されていたTECH Win というPC用フリーゲーム雑誌を通じてフリーゲームサークル・アンディーメンテ(AM)と出会う。AM として明確に認識したのは、2000 年、高校の友人からAM のゲームである、ライジングスター・ミレニアムが保存されたフロッピーディスクを渡され、プレイしたところからである。当時は、アンディーメンテ社という会社に入社するまで考えていたほどだ。そのサークルの中心的な人物がジスさんだ。

リアルでの交流は2006 年、アンディーメンテ主催のPeace Island Park I に参加したと

ころから。とはいっても、当時、ジスさんは金髪のインテリで、周りには、いろいろと秀でたAM ファンが多く、その中にあって、私の力量たるや、全く周りに叶わず、ジスさんとは仲良くなる事すらできないでいた。むしろ、嫌われていたという方が正解だろう。

時は流れて、2009 年、忘れられたころに、再度、ジスさんのニコニコ生放送で接触を試みた。あの頃は『@名前』でメッセージを打っていたような気がする。「お久しぶりです@緑のエメラルド」とメッセージを送ると、ジスさんが、「今日は珍しい人が来てるね」と言って、私の前身の毛穴が広がったのは今でも覚えている。その後、オンラインでの交流から、リアルでの交流、ジスさんと二人で遊ぶようになり、まさに我が世の春。そんな中の出来事だった。

あまりに好きすぎるジスさんと自転車に二人乗りなんかしたものだから、過去へタイ

ムスリップするような事態になってしまったのだ。

タイムスリップ直後は、いったい何が起きたのか、全く理解できなかった。以前から

タイムスリップする人間がいると言う事は聞いていたが、いざ自分に起こった時、どんな感じか、全く想像もついていないまま、目の前には2006 年まで住んでいた実家近くの光景が広がっていた。これが世に言う、タイムスリップというやつのようだ。世間一般にいう、タイムスリップには幾通りかの形式があるが、大別するとタイムスリップ先に過去の自分が存在するものと、自分自身が過去の自分の体へタイムスリップしてしまうものである。どうやら私の場合、後者であり、外側は1999 年時点の私でも、記憶や知識は2013 年時点のもののようだ。場所は直ぐにわかった。自宅近くの歩道橋だ。時刻は夜。愛知県よりも有名な名古屋市の明かりが遠くにキラキラと輝いて見える。着けているデジタルの腕時計には1999 年7 月1 日21 時26 分と表示されていた。そこで、ようやく、自分が置かれている状況が徐々に見えてきた。

そこで、はたと、自分の目の前で自転車をこいでくれていたジスさんを思い出す。そ

うだ、ジスさんはどこへ行ったのだろう?この時間へ、私と同じようにやってきているのだろうか?それとも、私だけがこの時間へやってきてしまったのか。もしも、ジスさんもこの時間へ来ているのであれば、1999 年というと、ジスさんは大阪芸術大学の学生として在籍している・・・という所まで考え、そこで私の脳天を落雷のような衝撃と共に、昔、何度も夢想した計画が蘇る。この時代であれば、大阪芸術大学食堂前で生のロボット新聞が配布されているのだ!!わお!!!!!!

では、当時、高校生の私が、どのようにして大阪へたどり着くのか。先ずは両親の説得から始める必要がある。そして、大阪への交通費、宿泊費、その他諸々を如何に捻出するか。話がかなり難航するかと思いきや、そこからの話は、思った以上に早く進んでいった。当時の私はというと、あまりお金を使う事もなく、それなりの貯蓄があった。と言っても、高校生程度なので、35,000 円程度の貯金である。それでも、高校生にしての手元の貯金額としては多いほうかと思う。この金額であれば、両親の説得は必要になるが、往復と安宿であれば1~2 泊程度の宿泊が可能である。そして、ジスさんとの接触を考えると、平日、日程を効率的に使うのであれば、深夜バスで前日夜に名古屋を出発し、翌朝、大阪へ到着後、大阪芸術大学へ向かうのが最適。初日から2 泊を経て、3 日目の夜に再度、深夜バスで大阪から名古屋へ戻るという手段である。しかも、大阪出発を金曜日の夜に設定すれば、土曜の朝に戻ったとしても高校へ急いでいく必要もないわけだ。

7 月と言う事もあり、夜にも拘らず、気温と湿度が高い。服が袖や腿に張り付くよう

な感覚を覚えつつ、ここまでの思考が脳内を高速で駆けていく。懸案事項は思った以上に少ないように思えた。実際に、ここからの流れは自分が思う以上にスムーズに進んでいった。一番の懸念であった、平日に休みを取っての大阪旅行という話だが、この話を私が切り出すと、両親は坦々と聞いた後、金銭や、計画的には問題無いのかという一連の質問があった後、高校には休みの連絡を入れるから、行って来いやという許可が出た。ちなみに、大阪旅行の理由としては、受験を予定している大阪大学や少し興味のある大阪芸術大学の見学と半分嘘をついた。

これまでに、あまり積極的な行動の少なかった私に両親は少し喜んでいるようにも見

えたし、自身で貯めた金銭の範囲内での旅行と言う事もあり反対意見も特に無かったのだろう。

移動の当日の1999 年7 月13 日(火)の夜は、父が車を出してくれ、名古屋駅近くの

名鉄バスセンターに到着する。駐車スペースの関係もあり、父とはバスセンター前で別れる。父から、「気を付けて行けよ」と言われ、「わかった。行ってきます。」と返すと、私の背中が父の視界から見えなくなるであろう位置までは、窓が開いた状態だった。私も何度か振り返りつつ、バスセンターの建物へと入る。バスセンターには2013 年時点で何度も行ったことが有ったが、多くのバス乗り場があり、目的のバス乗り場までの距離もあることから、かなり迷いがち。事前に名鉄の駅で予約した高速バスのチケットを頼りに、乗り場へ向かう。大阪駅行きのバス停では既に、荷物の積み込みが始まっており、私もその列に並ぼうとすると、先にチケットを拝見しますと言われ、チケットを見せる列へ並ぶように誘導される。そちらの列も何人か並んでおり、最後尾に並びつつ、荷物を地面に下ろして、一息つく。

東京でジスさんと遊ぶために高速バスに乗ったことは何度もある。それは、名古屋駅

から乗ったことも多かったので全く心配はしていないし、むしろ、乗り慣れた場所ではあるのだが、如何せんタイムスリップした先で高速バスに乗るのは初めてと言う事もあり、若干緊張する。列は進み、自分の番が来たので、スタッフにチケットを見せ、確認を受けると、次は、荷物預けの方へ行ってくださいと指示を受ける。そちらにも当然ながら、私の前に並んでいた人が続けて並んでおり、時間はかかったものの、無事、乗車する事ができた。時刻は夜11 時15 分を回ったころだ。発車予定時刻まで15 分ほどである。

これから、過去に消え去ったアンディーメンテ初期より存在のみ知られてきた『ロボ

ット新聞』の現物を手に入れる旅が始まるかと思うと胸が鳴って仕方がない!ドキドキする。如何なアンディーメンテファンといえど、このスペシャルミッションに挑むのは、私くらいのものだろう。

さて、バスが発車すれば、翌朝の6 時頃までは、トイレ休憩を除き、バスは走りっぱ

なし。その間、何をするのか?当然、AM 関連のネットの書き込みや、大阪芸術大学のキャンパスマップを印刷してきていたので、それを熟読するのだ!!特にキャンパスマップの把握は非常に重要!この2 日間でジスさんを学内で探し、接触まで至るかはわからないものの、迅速な行動が要求される。重要なポイントは大阪芸術大学11 号館学生食堂前!!ロボット新聞を必ず持って帰る!!

僕・・・、いや、俺は今、この瞬間から宇宙遺産保護活動家なのだ!!

息まきつつ、睡眠をとり、大阪駅にバスが到着するころには日が昇り、駅周辺は若干

の涼しさと湿気に包まれていた。

早朝、6 時と言う事もあり、人は少ない方ではあるが、バスの停車場所には、同じよ

うに深夜バスで大阪へ到着した人々が、バスを降りて、各々の目的地へと向かっていく。

こういう場合、多くの人が向かう先は大阪駅なので、私も同じように人々の流れに乗

って大阪駅へ向かう。

ちなみに、大阪駅から大阪芸大までは、電車とバスをつかい、乗り継ぎ時間も含めて

1 時間30 分程度かかり、トイレで身だしなみを整える時間も含め、大阪芸大に到着したのは8 時30 分を回った頃だった。大学の講義開始時間前で完璧な時間!

遂に、大阪芸術大学の正門をくぐるときが….

いる…。ここに、ジスカルドがいる…。

早々にジスカルド探索を開始するのではなく、先ずは学生食堂や大学事務の有る11

号館へ向かう。学食前に設置されているはずの『ロボット新聞』を早急に回収するためである。

マップを用意してきたこともあり、全く迷うことなく、11 号館へ到着し、第1食堂前へ一直線に向かう。ロボット新聞が設置してあったのは、第1食堂入り口前、券売機横のホワイトボードもしくはその下に置いてある長机だ!!!

あるのか!!ないのか!!!うおおおおおお!!!!!!

ない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ホワイトボードへの張り出しも、長机への設置もない!!!!!!!!!

確かに、ロボット新聞は不定期に刊行されていたという話をジスさんに聞いたことが

有った。

そして、よくよく考えれば、ジスさんが大阪芸術大学を卒業したのは2000 年の3 月

と言う事は、ジスさんは概ね大学の授業を取り終えており、恐らく、単位を落としま

くっているような状況でなければ、卒業制作に関する単位の取得のみなので、4 年の前期とはいえ、作品制作以外で大学に来ることは殆ど無いと予想が付く。

まるで完璧かと思われた計画が、足元から崩れるような感覚だった。

完全に、計画は失敗・・・。タイムスリップした先で、2013 年に戻れるのかもわからないのに、ロボット新聞を手に入れるために大阪まで出張ってきて、ロボット新聞が手に入れられない・・・。

後、残る希望と言えば、芸大内でジスさんと遭遇することなのだが、先に書いたよう

に、最終年度で大学に頻繁に来ていない可能性がある。みぞおちが一気に気持ち悪くなるような感覚に見舞われつつ、とにかく一旦、落ち着きたいと思い、第一食堂で休憩を取ろうと、足を踏み入れると、そこには、

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!

ジスカルド降臨!!!!!!!!!!!!

まさか!!!

つまさかつ出会った!!!!出会ったのだ!!!!!!!!

ジスさんは大学へ来ていたのっだ!!!!!

別時間軸のジスさんに!!!!!

ついに!!!!

会った!!!!!

会った!!!!!!

会えた!!!!!!!

藁にもすがる思いで、ジスさんに駆け寄ろうとすると、その直後、突如、横から腕を

強く引っ張られる。

!!??

何が起こった!と思い、そちらに目を向けると、なんと、若いジスカルドではなく、2013年のころに近いジスカルドがそこに居るではないか!!私が完全に混乱しているのを他所に、私の腕を掴んだジスさんが言う。

「エメたん!こっちへ来るんだ!」

ジスさんが私の腕を強く引っ張っていく。何が起きているのか説明を求める間もなく、ジスさんは「歩きながら話そう!この場で私はこの時代のジスカルドと会うことはできない」と私に告げる。

続けて、

「エメたん。」

「君はタイムスリップ現象についてある程度把握しているね?」

「大きく大別するとTS 現象は2 通りだ。」

「自身の過去の体へTS するA 型、そして、TS 先にもう一人の自身が存在するB 型だ」

「エメたんの場合はA 型、僕の場合はB 型だ、血液型がB 型ということも関係してい

るかもしれないね。」

と告げる。

そこで、疑問に上がったのは、何故、ジスさんが私の居る場所と時間を把握できていたのか、である。その疑問を解消するかのようにジスさんが話を続ける。

「今、エメたんは、何故、僕がエメたんがいる時間や場所を把握できていたのかと言う事を考えているね?」

「エメたんは、この後、1999 年7 月17 日に2013 年の私と二人乗りをした自転車上へ戻るだろう。」

「私も同じだ、ただ、私は2013 年ではなく、2022 年へだがね。」

「つまり、私は2022 年から1999 年へやってきているんだ。」

「そして、エメたんは2013 年へ帰時した後に、僕に、こう語る」

「「ジスさん、今、タイムスリップしてきました。」と、その時、僕はエメたんの言う事を信じないだろう。」

「だから、エメたんは僕に、「ジスさんの本当の誕生日は9 月9 日ではなく、9 月19 日だ」と言ってみてくれ」

「そうすれば、僕はエメたんの言ったことを信じざるを得なくなる。これを言って必

ず、2013 年のジスカルドにTS 現象のことを信じさせてくれ。そうしないと、君は2013年へ戻る事ができなくなる。」

「詳しい仕組みに関する説明は省くが、TSA 型とTSB 型は対になっている。」

「つまり、知り合い同士がA 型とB 型でTS することにより、元の時代へ戻れるという仕組みだ。この仕組みは2022 年には公にされてはいないが、既に確立された技術となっているんだ」

唐突に、濁流のような情報を流し込まれ、混乱する中、目的地に到着したらしく、ジスさんが歩みを止める。

どうやら、授業が行われていない部屋のようだ。

「ここなら大丈夫だ。在学中の僕は、この建物へ入室したことは無いんだ。」

周りを見渡し、部屋番号の頭の数字を見るに、どうやら10 号館のようだった。ジスさんから、座るように席を進められ、緊張のまま、腰をおろす。

「エメたん、今までの話の中で、疑問な部分は多いだろうが、あまり未来の私が多くを語ることはできない。バタフライ効果が発生してしまうからね。」

「だが、まだ、いくらか、語れることがある。」

「エメたん、君はこれを手に入れるために1999 年へやってきたのだろ?」

そう言ってジスさんが私に手渡したのは、

な!!!!なんと!!!!!1999 年!?!?!?いや!!??2000 年に書かれたロボット新聞ではないかあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!

どういうことだ!!!!!

つづく


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