これは昔の話です 魔王戦




自分の聖剣を振るいながら、ロウチが走ってペーシェ姫を探していた。

その後をマイナが走ってついて来ている。


地下に現われた魔王の気配は、もう王城の全てを包み込んでいた。

至る所で戦闘の音が響いている。

王国軍の姿が見えるが、ロウチは構う暇がない。


早く見つけなければ。

「姫で良いんだな!?」

確認のためにマイナに叫ぶ。


「そうよ!姫様でなければ!」

マイナも叫んで、ロウチに答える。

眼前に現れた魔物をロウチが切り払う。黒い汚泥のような魔物は今まで見た事がない。ロウチの聖剣は光りながら、魔物を消し去る。


王国軍は既に崩壊していた。

魔物の数が多すぎた。ラッテもケーファーも傍には居ない。

きっとどこかで戦っている。

ロウチは走りながら、自分だけが最後まで残るのだろう事は理解していた。


光を纏って戦えるのは自分一人しかいなかった。

走るマイナの前に、魔物が現れる。杖を掲げて追い払うが、相手が大きすぎた。

ロウチが振り返り、魔物を切りはらう。


腕を切られたマイナがロウチを見る。

その傷を治している暇が自分達には無い。

再び前を向いて走るロウチに、マイナも走りだす。

「すまない」

泣きそうな声に、マイナは微笑む。

「良いのですよ、あなたは勇者なのですから」

「なにが」

何が勇者だ。そう続く言葉をロウチが飲み込んだ。


王城の最奥、王家の間に姫はいた。

青い顔をして、駆けこんできた二人を見る。

その姿を確認したロウチとマイナがほっと息を吐く瞬間。


王家の間に真黒な魔王の姿が現れた。

ペーシュ姫が小さく悲鳴を上げた。

【…そこにいたのか】

歪んだ声で、姫を掴もうとする魔王に、ロウチが立ちふさがる。

「ああ、もう、なんだよ!」

姫を庇いながら、ロウチが叫ぶ。

「僕じゃ無理じゃないか!!」

聖剣は視界が無くなる程の光を放ち、王家の間を埋め尽くしているのに。

魔王は笑い声をあげながら、腕を伸ばしてくる。


「勇者ロウチ!」

姫が手を広げてロウチに叫ぶ。その姿を見て顔を歪ませながらロウチは自分の聖剣を、ペーシュ姫に差し込んだ。

姫の身体が光り輝き、小さな両手で聖剣の柄を握りしめる。


その姫を守るように、勇者と聖女が魔王を睨んでいた。


【こしゃくな】

魔王の声が王家の間に響く。

その歪な手が勇者と聖女をバラバラに切り裂く。


叫ばないように我慢している姫を見ながら、ロウチは遠い未来の勇者を思った。




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